【完結】忍びである城主は乳兄弟にゾッコン

甘塩ます☆

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48話

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 伊吹は毎夜一番最後にお風呂に入る。

 伊吹が入った後に千代が掃除をするのが常である。

「今井様、そろそろ」

 そう、空いた事を知らせに来てくれる千代に、伊吹は風呂に向かう。
 千代の付き添いは、いつも入口までだ。
 世話を申し出ても伊吹は結構だと断る。
 断られると知っていても、千代は毎回律儀に聞いていた。
 今夜もそうである。

「お世話は、いかが致しますか?」

 どうせ断られると知っているのだが、確認を取る千代。

「そうだな…… では、頼むとしようか」
「はい。え?」

 まさか頼むと言う返答を予想しておらず、千代は驚いてしまった。
 聞き間違えただろうか。

「殿より先に私が経験した方が良いのだろう」

 ハハっと笑う伊吹。

 本当に変に真面目な方だと思う千代だ。
 だが、これは千載一遇。
 これで上手に出来たら、気に入ってくれたら、いつもお世話をさせてもらえるかもしれない。
 千代はそんな淡い期待を抱きながら一緒に、湯殿に入るのだった。  

 脱衣で着物を脱ぐ事さえもドキドキしてしまう千代。
 千代にとって、これは仕事。
 他の人の世話をする時なんかは特に何も感じる事は無いのだが、伊吹相手ではそう言う訳には行かなかった。

「立派なお身体をされていますね」

 健康的に色付いた肌。
 胸板は厚く、綺麗に筋肉がつき、腹筋の割れた伊吹の身体はとても素敵に見える。

「そうだろうか?」

 身体を褒められた伊吹は、少し照れた顔を見せる。

「ええ、素敵です」

 それはもう見惚れてしまう程に。

「毎日殿の身体を見ていると自信が無くなるんだ。殿はもう脱いだら凄くてな。どうやったらあんなに無駄の無い身体作りが出来るのか知りたいぐらいだ」
「そうですか……」
 
 春岳の話をする伊吹は楽しそうで、千代は何だか胸が苦しくなってしまう。
 春岳が伊吹を気に入っており、伊吹も春岳を尊敬し、慕っている。
 それは千代も痛いほど知っていた。
 たが、それは果たして自分の主が誇らしいとか、素晴らしい人で憧れるとか、そう言う意味の好きなのだろうか……


 千代も着物を脱ぐと、伊吹を湯殿に案内する為に手を取った。

「足場が滑りますので注意して下さいね」
「あ、ああ」
 
 いつも一人で入る風呂である。
 なんだか案内されるのは変な感じだ。

「かけ湯をしてから入りましょう」

 そう言うと、千代は伊吹の身体にかけ湯をしてくれた。
 伊吹がお風呂に入る時は、滑らない様に気を使ってくれる千代。

「湯加減は如何ですか?」
「丁度良いよ。千代は入らないのか?」

 浴槽の外から伊吹の肩にお湯をかけてくれる千代。

「一緒に入ってしまったら、伊吹様に何か有った時に瞬時に動けませんから」
「そうか」

 千代は風呂で他の者の世話をする事も多く、毎回風呂に浸かっていては湯あたりしてしまうだろう。

「何を入れたんだ?」

 千代は何かを風呂に入れて混ぜる。

「よもぎです。疲労回復に良いとか」
「ほう、なるほど」

 殿も生薬にはお詳しいし、こういう物を風呂に入れたりしてたのだろうか。
 今度、聞いて入れてみようかな。
 勉強になる。

「柚子や蜜柑も良いと聞きます」
「そうなのか。覚えておく」

 もっと早く千代に聞けば良かったな。 
 よもぎの匂いを楽しみつつ、そんな事を思う伊吹だった。
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