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66話
しおりを挟む『大きくなったらお嫁さんにしてあげる』
『うん。約束だよ』
小指を絡まて約束した。
「殿、殿…… 春岳様」
「ん……」
肩を揺さぶられ目を開ける。
あれ? 夢?
「雨が上がりました」
見れば伊吹がフフっと笑っていた。
どうやら二人して寝てしまった様だ。
「見て下さい。綺麗な虹がでてます」
「本当だ。綺麗だな」
通り雨が過ぎ、天気も回復していた。
青空に虹がかかっている。
「殿と一緒に居ると、色んなものが新鮮に見えます。虹を見てこんなに感動したのは久しぶりですよ」
「俺もだよ。伊吹と見るとどんな物でも新鮮で、綺麗で、輝かしい物だ。その中で一番輝いているのは伊吹だけどな」
「一番、綺麗で輝いているのは春岳様です」
「そうか」
ハハっと笑ってしまう春岳。
なんだか凄い熱烈な愛を告げられた気分だ。
さっきまであれこれ悩んでいたのが馬鹿みたいになる。
伊吹はこんなに純粋に俺への愛を見せてくれていた。
伊吹は俺を愛しているし、俺も伊吹を愛している。
そうだろ?
「帰ろうか。少し遅くなってしまったな」
「皆、心配しているかもしれません」
虹が消えると、一気に日も傾いて来た。
夕焼けも綺麗だったから、二人でのんびり眺めすぎてしまった。
「ちょっと飛ぶから大人しくしててくれ」
「飛ぶ?」
春岳は目的の場所で伊吹を抱きかかえると、崖をぴょんぴょんと飛んで上まで登る。
少しの足がかりさえ有れば、春岳には簡単な傾斜である。
直ぐに上まで上り切り、伊吹を下ろした。
「ほー、此処に出るのですね。懐かしい」
伊吹は知っている道らしい。
「山賊が出るらしい」
「山賊ですか?」
「村の人たちが気をつけろと言っていたんだ。日が暮れたら西側の旧道は通るなと」
「ただ単に旧道は整備してないので危ないと言う意味では?」
この旧道は向こうに良い道が出来たので、あまり使われなくなった道である。
敢えて通ろうとは思わないだろう。
それに山賊が出るなら伊吹の耳に届かない訳がない。
本当に出るなら、直ぐ追い払いたいが……
「それにすぐそこの小屋に知り合いが居ますが、特別変わった事が有るとは聞きませんが……」
「そうなのか?」
「あそこです。灯りが見えるでしょ?」
「本当ですね」
「陶芸家をしています」
伊吹は知り合いの家を見つけた。
もう久しく会っていないが、山賊が出るような事が有れば、城まで知らせに来ると思う。
「うがああぁぁ!!!」
突如、すぐ側で呻き声が聞こえた。
「何奴! 殿、私の後ろに!」
「伊吹、俺の後ろへ!」
何か大きな人影が突然現れ、襲って来る。
驚いたが、すかさず殿を守ろうと前に出る伊吹と、伊吹を守ろう前に出る春岳のせめぎ合いになってしまった。
伊吹は刀を構え、春岳はクナイを取り出す。
「こらぁあ!! また人を驚かせて! やめなさい!!!」
「グルルル」
直ぐ側で叫び声が聞こえ、大きな人影は後ろへ下がった。
「すみません家の番犬が…… って、伊吹じゃん。久しぶり~元気にしてた?」
「お、おう?」
久しぶりに会う親友だった。
え? 番犬って何??
人間じゃないの??
コイツ、人間を飼うようなヤバい奴だったっけ??
と、伊吹はドン引きしている。
「これ、拾ったんだけど、言葉しゃべれないみたいでさ。ただ俺の事はご主人様だと思ってるみたいで。人がこの辺近づくと威嚇しちゃうんだよ」
伊吹の親友は困った表情で笑う。
「拾ったのか?」
「うん、怪我してうずくまってたから看病してあげたら懐かれた? 居着いちゃった? そんな感じ」
伊吹が聞けば、そう答える親友。
何か怒られてる事は解るらしい大男はショボーンとして親友の後ろに引っ込んでいる。
「お前、昔から変なのに懐かれるよな」
「本当だよ。伊吹とかその代表だよ」
「喧嘩売ってんなら買うぞ?」
気心の知れた親友とのやり取りを楽しんでいる伊吹。
どうも忘れられている様子で面白くない春岳は、伊吹の服の裾を掴んで引っ張った。
「あ、申し訳ありません殿。幼馴染みの紅葉です。それと、多分山賊? ですかね?」
ハッとして、親友を紹介する伊吹。
「え? 何、お殿様? お前、引っ捕らえられるっぽいぞ」
「ヒーン…… コワイ……」
伊吹の説明に、困った表情になる紅葉。そして震えながら紅葉に抱きつく紅葉の番犬。
なんだか見る悪さをする様な奴には見えない。
「良く言い聞かせるから今回は見逃して貰えませんか? コイツも悪気がある訳じゃ無いんだよ」
紅葉は手を合わせて頭を下げる。
「まぁ、良いが…… 少し不潔過ぎるな。何か病気を持っているかも知れない。一度俺が診てやる。あと風呂に入れてやれ」
春岳は大男の様子を伺う。
「ええっと、許してくれるんですかね? お風呂には入れたいんだけど、嫌がって逃げられるんだよなぁ……」
「じゃあ、三人がかりで入れてやろう」
困った様子の紅葉に、手を貸す流れになる。
「え? 良いの? 有難う」
嬉しそうに笑う紅葉。
何故か親友が拾った分けの解らない物を洗う事になったらしい。
紅葉も紅葉で有るが、殿も殿で人が良いなぁと思う伊吹である。
これは本当に帰りが遅くなってしまいそうだ。
もう仕方ないか。
伊吹は予定通りに帰る事を諦めた。
まぁ、自分と春岳と二人で出掛けたのだ。帰りが遅くなった所で誰も心配はしないだろう。
何せ二人で六十人分の武力を要している。
心配する方がバカバカしくなる。
それに、自分も気になって放ってはおけないだろう。
何だかんだで伊吹も人の事を言えない程のお人好しである。
紅葉の命令に大人しく後をついていく紅葉の番犬と、その後に続く春岳と伊吹だった。
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