【完結】忍びである城主は乳兄弟にゾッコン

甘塩ます☆

文字の大きさ
67 / 79

66話

しおりを挟む

『大きくなったらお嫁さんにしてあげる』
『うん。約束だよ』

 小指を絡まて約束した。
 

「殿、殿…… 春岳様」
「ん……」

 肩を揺さぶられ目を開ける。

 あれ? 夢?

「雨が上がりました」

 見れば伊吹がフフっと笑っていた。
 どうやら二人して寝てしまった様だ。

「見て下さい。綺麗な虹がでてます」
「本当だ。綺麗だな」

 通り雨が過ぎ、天気も回復していた。
 青空に虹がかかっている。

「殿と一緒に居ると、色んなものが新鮮に見えます。虹を見てこんなに感動したのは久しぶりですよ」
「俺もだよ。伊吹と見るとどんな物でも新鮮で、綺麗で、輝かしい物だ。その中で一番輝いているのは伊吹だけどな」
「一番、綺麗で輝いているのは春岳様です」
「そうか」

 ハハっと笑ってしまう春岳。
 なんだか凄い熱烈な愛を告げられた気分だ。
 さっきまであれこれ悩んでいたのが馬鹿みたいになる。
 伊吹はこんなに純粋に俺への愛を見せてくれていた。
 伊吹は俺を愛しているし、俺も伊吹を愛している。

 そうだろ?

「帰ろうか。少し遅くなってしまったな」
「皆、心配しているかもしれません」

 虹が消えると、一気に日も傾いて来た。
 夕焼けも綺麗だったから、二人でのんびり眺めすぎてしまった。

「ちょっと飛ぶから大人しくしててくれ」
「飛ぶ?」

 春岳は目的の場所で伊吹を抱きかかえると、崖をぴょんぴょんと飛んで上まで登る。
 少しの足がかりさえ有れば、春岳には簡単な傾斜である。
 直ぐに上まで上り切り、伊吹を下ろした。

「ほー、此処に出るのですね。懐かしい」

 伊吹は知っている道らしい。

「山賊が出るらしい」
「山賊ですか?」
「村の人たちが気をつけろと言っていたんだ。日が暮れたら西側の旧道は通るなと」
「ただ単に旧道は整備してないので危ないと言う意味では?」

 この旧道は向こうに良い道が出来たので、あまり使われなくなった道である。 
 敢えて通ろうとは思わないだろう。
 それに山賊が出るなら伊吹の耳に届かない訳がない。
 本当に出るなら、直ぐ追い払いたいが……

「それにすぐそこの小屋に知り合いが居ますが、特別変わった事が有るとは聞きませんが……」
「そうなのか?」
「あそこです。灯りが見えるでしょ?」
「本当ですね」
「陶芸家をしています」

 伊吹は知り合いの家を見つけた。
 もう久しく会っていないが、山賊が出るような事が有れば、城まで知らせに来ると思う。
 
「うがああぁぁ!!!」

 突如、すぐ側で呻き声が聞こえた。

「何奴! 殿、私の後ろに!」
「伊吹、俺の後ろへ!」

 何か大きな人影が突然現れ、襲って来る。
 驚いたが、すかさず殿を守ろうと前に出る伊吹と、伊吹を守ろう前に出る春岳のせめぎ合いになってしまった。
 伊吹は刀を構え、春岳はクナイを取り出す。

「こらぁあ!! また人を驚かせて! やめなさい!!!」
「グルルル」

 直ぐ側で叫び声が聞こえ、大きな人影は後ろへ下がった。

「すみません家の番犬が…… って、伊吹じゃん。久しぶり~元気にしてた?」 
「お、おう?」

 久しぶりに会う親友だった。

 え? 番犬って何??
 人間じゃないの??
 コイツ、人間を飼うようなヤバい奴だったっけ??

 と、伊吹はドン引きしている。

「これ、拾ったんだけど、言葉しゃべれないみたいでさ。ただ俺の事はご主人様だと思ってるみたいで。人がこの辺近づくと威嚇しちゃうんだよ」

 伊吹の親友は困った表情で笑う。

「拾ったのか?」
「うん、怪我してうずくまってたから看病してあげたら懐かれた? 居着いちゃった? そんな感じ」

 伊吹が聞けば、そう答える親友。
 何か怒られてる事は解るらしい大男はショボーンとして親友の後ろに引っ込んでいる。

「お前、昔から変なのに懐かれるよな」
「本当だよ。伊吹とかその代表だよ」
「喧嘩売ってんなら買うぞ?」

 気心の知れた親友とのやり取りを楽しんでいる伊吹。
 どうも忘れられている様子で面白くない春岳は、伊吹の服の裾を掴んで引っ張った。

「あ、申し訳ありません殿。幼馴染みの紅葉です。それと、多分山賊? ですかね?」

 ハッとして、親友を紹介する伊吹。

「え? 何、お殿様? お前、引っ捕らえられるっぽいぞ」
「ヒーン…… コワイ……」

 伊吹の説明に、困った表情になる紅葉。そして震えながら紅葉に抱きつく紅葉の番犬。

 なんだか見る悪さをする様な奴には見えない。

「良く言い聞かせるから今回は見逃して貰えませんか? コイツも悪気がある訳じゃ無いんだよ」
 
 紅葉は手を合わせて頭を下げる。

「まぁ、良いが…… 少し不潔過ぎるな。何か病気を持っているかも知れない。一度俺が診てやる。あと風呂に入れてやれ」

 春岳は大男の様子を伺う。
 
「ええっと、許してくれるんですかね? お風呂には入れたいんだけど、嫌がって逃げられるんだよなぁ……」
「じゃあ、三人がかりで入れてやろう」

 困った様子の紅葉に、手を貸す流れになる。

「え? 良いの? 有難う」

 嬉しそうに笑う紅葉。
 何故か親友が拾った分けの解らない物を洗う事になったらしい。
 紅葉も紅葉で有るが、殿も殿で人が良いなぁと思う伊吹である。
 これは本当に帰りが遅くなってしまいそうだ。

 もう仕方ないか。

 伊吹は予定通りに帰る事を諦めた。
 まぁ、自分と春岳と二人で出掛けたのだ。帰りが遅くなった所で誰も心配はしないだろう。
 何せ二人で六十人分の武力を要している。 
 心配する方がバカバカしくなる。
  
 それに、自分も気になって放ってはおけないだろう。
 何だかんだで伊吹も人の事を言えない程のお人好しである。

 紅葉の命令に大人しく後をついていく紅葉の番犬と、その後に続く春岳と伊吹だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
暫くの間、毎日PM23:10分に予約投稿。   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

処理中です...