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67話
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「うあああ! うあああ!」
三人がかりで大男をお風呂に入れる。
と言っても、紅葉の家のお風呂はお湯を温めて身体を拭く程度のもの。
なかなか洗いずらい。
そして大男は嫌がって暴れている。
「どうもこれは肌の色らしいな」
肌が黒いので汚れだと思ったのだが、洗っても落ちなかった。
これは地の色の様である。
髪も梳かすがサラサラになる事はなく、うねっていた。
「ふむ、少し散髪しよう」
あまりに髪がボサボサで前髪が目にかかっている。
やはりこのままでは不衛生であると考え、春岳は短刀で器用に髪を切ってやる。
「ぎゃあああ、コワイ、コワイ」
いきなり短刀を出され、髪を切られたらそりゃあ怖いだろう。
春岳は大男が暴れない様にしっかり押さえながら髪を切ってやった。
紅葉が「大丈夫だ。落ち着け」と、宥め、何とか落ち着かせる。
「よし、良いぞ。おお、瞳の色が青だ」
髪を切り終えて確かめて見ると、随分と綺麗な瞳の色をしていた。
「本当だ。綺麗ですね」
伊吹もマジマジと見てしまう。
大男は恥ずかしいのか顔を隠してしまった。
「どうも異国の人間の様だな」
「異国ですか?」
「海の向こうから来たのだろう」
「海の向こう?」
海の向こうにも国が有るのは知っていたが、こんなに見た目が変わるのだなぁと、伊吹はじーっと見つめてしまう。
「キモチワルイ? モミジもオレ、キライ?」
異国の彼は怯えている様子だ。
「え? 気持悪くない。凄く綺麗で見とれちゃった」
紅葉も全然気づいていなかったが、そうか異国の人間だったのか。
「名前は何と言うんだ?」
「何度か聞いたんだけど、聞き取れなくて……」
仕方ないならオイとかオマエとか、呼んでいた紅葉だ。
「オレ、ルディ」
「るでい?」
「ルディ」
「るでー?」
「ルディ」
「瑠璃?」
確かによく解らない。
誰も上手く聞き取れてない気がする。
「瑠璃で良いんじゃない? 瞳の色も瑠璃色だし。瑠璃で良い?」
紅葉が確かめる。
確かに瞳の色も瑠璃色で丁度良いと春岳も伊吹も思った。
コクコクと彼も頷いたので、彼は瑠璃と言う事になった。
「えっと、瑠璃はどうして此処に来たんだ?」
春岳は瑠璃の体調を確かめつつ、確認する。
「フネ、アラシ、オチタ」
「船が嵐に巻き込まれて海に落ちちゃったんだな」
「ココ、コワイ、ミンナ、オレ、イジメル。オレ、ニゲタ。モミジ、ヒロッタ」
「そうか、逃げて来たんだな」
どうやら酷い目にあったらしい。
身体中傷だらけだ。
身体を洗うのを嫌がったのは、傷が痛かったのだろう。
「取り敢えず、化膿止めと、消毒を塗っておく」
「イタイ、オレ、キライ?」
「治したいから塗ってる。我慢してくれ」
イタイ、イタイと涙目になる瑠璃は可哀想だが、悪化したら大変だ。
「大丈夫。俺は瑠璃の事好きだよ」
「オレもモミジ、スキ」
安心させようと瑠璃の頭をヨシヨシなでる紅葉。
瑠璃はギュッと紅葉の手を掴んでいた。
「よし、これで大丈夫だろう。傷口を綺麗保って、これを毎日塗って下さい」
春岳は紅葉に傷薬を渡す。
「有難うございます。助かりました」
紅葉は春岳に頭を下げ、瑠璃のに良く頑張ったねと、頭を撫でてあげている。
瑠璃も嬉しそうだ。
心なしか大きく振っている尻尾が見える気がした。
「そろそろ帰りましょう。流石に怒られます」
主に伊吹が千代にだ。
「ああ、そうだな」
春岳も頷く。
「またゆっくり遊びにきてくれよな!」
「スキ!」
玄関を出ると手を振る紅葉と、幻だが尻尾を振る瑠璃が見送ってくれた。
すっかり真っ暗になってしまっていたが、今日は満月。
月明かりが道を照らしてくれる。
「星が綺麗ですね。天の川も見えますよ」
「ああ、まぁ、一番綺麗なのは伊吹だけどな」
「春岳様ですよ」
そんな事を言い合いながら帰路につくのだった。
三人がかりで大男をお風呂に入れる。
と言っても、紅葉の家のお風呂はお湯を温めて身体を拭く程度のもの。
なかなか洗いずらい。
そして大男は嫌がって暴れている。
「どうもこれは肌の色らしいな」
肌が黒いので汚れだと思ったのだが、洗っても落ちなかった。
これは地の色の様である。
髪も梳かすがサラサラになる事はなく、うねっていた。
「ふむ、少し散髪しよう」
あまりに髪がボサボサで前髪が目にかかっている。
やはりこのままでは不衛生であると考え、春岳は短刀で器用に髪を切ってやる。
「ぎゃあああ、コワイ、コワイ」
いきなり短刀を出され、髪を切られたらそりゃあ怖いだろう。
春岳は大男が暴れない様にしっかり押さえながら髪を切ってやった。
紅葉が「大丈夫だ。落ち着け」と、宥め、何とか落ち着かせる。
「よし、良いぞ。おお、瞳の色が青だ」
髪を切り終えて確かめて見ると、随分と綺麗な瞳の色をしていた。
「本当だ。綺麗ですね」
伊吹もマジマジと見てしまう。
大男は恥ずかしいのか顔を隠してしまった。
「どうも異国の人間の様だな」
「異国ですか?」
「海の向こうから来たのだろう」
「海の向こう?」
海の向こうにも国が有るのは知っていたが、こんなに見た目が変わるのだなぁと、伊吹はじーっと見つめてしまう。
「キモチワルイ? モミジもオレ、キライ?」
異国の彼は怯えている様子だ。
「え? 気持悪くない。凄く綺麗で見とれちゃった」
紅葉も全然気づいていなかったが、そうか異国の人間だったのか。
「名前は何と言うんだ?」
「何度か聞いたんだけど、聞き取れなくて……」
仕方ないならオイとかオマエとか、呼んでいた紅葉だ。
「オレ、ルディ」
「るでい?」
「ルディ」
「るでー?」
「ルディ」
「瑠璃?」
確かによく解らない。
誰も上手く聞き取れてない気がする。
「瑠璃で良いんじゃない? 瞳の色も瑠璃色だし。瑠璃で良い?」
紅葉が確かめる。
確かに瞳の色も瑠璃色で丁度良いと春岳も伊吹も思った。
コクコクと彼も頷いたので、彼は瑠璃と言う事になった。
「えっと、瑠璃はどうして此処に来たんだ?」
春岳は瑠璃の体調を確かめつつ、確認する。
「フネ、アラシ、オチタ」
「船が嵐に巻き込まれて海に落ちちゃったんだな」
「ココ、コワイ、ミンナ、オレ、イジメル。オレ、ニゲタ。モミジ、ヒロッタ」
「そうか、逃げて来たんだな」
どうやら酷い目にあったらしい。
身体中傷だらけだ。
身体を洗うのを嫌がったのは、傷が痛かったのだろう。
「取り敢えず、化膿止めと、消毒を塗っておく」
「イタイ、オレ、キライ?」
「治したいから塗ってる。我慢してくれ」
イタイ、イタイと涙目になる瑠璃は可哀想だが、悪化したら大変だ。
「大丈夫。俺は瑠璃の事好きだよ」
「オレもモミジ、スキ」
安心させようと瑠璃の頭をヨシヨシなでる紅葉。
瑠璃はギュッと紅葉の手を掴んでいた。
「よし、これで大丈夫だろう。傷口を綺麗保って、これを毎日塗って下さい」
春岳は紅葉に傷薬を渡す。
「有難うございます。助かりました」
紅葉は春岳に頭を下げ、瑠璃のに良く頑張ったねと、頭を撫でてあげている。
瑠璃も嬉しそうだ。
心なしか大きく振っている尻尾が見える気がした。
「そろそろ帰りましょう。流石に怒られます」
主に伊吹が千代にだ。
「ああ、そうだな」
春岳も頷く。
「またゆっくり遊びにきてくれよな!」
「スキ!」
玄関を出ると手を振る紅葉と、幻だが尻尾を振る瑠璃が見送ってくれた。
すっかり真っ暗になってしまっていたが、今日は満月。
月明かりが道を照らしてくれる。
「星が綺麗ですね。天の川も見えますよ」
「ああ、まぁ、一番綺麗なのは伊吹だけどな」
「春岳様ですよ」
そんな事を言い合いながら帰路につくのだった。
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