上 下
72 / 79

71話

しおりを挟む
 今日は、年越しであった。

 雪も深まり、積雪は城の屋根より高くなった。
 もう城に缶詰状態でいるしか無い状態である。
 陽の光もあまり入らず、日中でも薄暗い日が続いた。

 千代はそれでも気丈に振る舞っている。
 いつまでも落ち込んでいちゃ駄目だと、自分を奮い立たせている様で、健気であった。
 そんな千代を伊吹はいつも以上に甘やかしていた。

 城に残った者たちで年末の大掃除をして、年越し蕎麦を食べる。
 今年も色々有ったね。なんて話して、酒も入れば皆陽気になった。
 千代も普段は呑まない酒を呑んで、酔が回った様子だ。
 そんな千代を伊吹が心配し、「もう止めなさい」と、徳利を取り上げる。

「今日は無礼講ですよね」
「千代はいつも無礼講でしょう」

 フフっと楽しそうに言う千代に、フフっと笑う春岳。
 千代は伊吹に言っているのに、茶々を入れる春岳にムッとした様子だ。

「ああ、無礼講だ。なんだ? 何か俺に頼みが有るのか?」

 ん? と、笑いながら話を聞く伊吹。
 千代の願いなら何でも叶えてやりたい。


「……いつかの続きをして欲しいのです」

 そう言って千代は照れた顔を見せた。

「いつかの?」

 直ぐ判断出来ずに聞き返す伊吹。
 いつかと言って、千代との付き合いは先代の殿より続いているので、どの話なのか検討が付かなかった。

「なっ、駄目です! 何言ってるんですか!!」

 しかし、春岳は直ぐ何の話か理解し、間に割って入った。
 伊吹はキョトンとして春岳を見る。

「伊吹は俺の! お前は城主の男を寝取る気ですか! 全くとんでも無いな!」
 
 春岳は激怒していた。
 千代を怒鳴る。

「だって! あの時、殿と有理のせいで台無しにされたんですよ! ずっと私は根に持ってますからね!」

 千代もムッとして、食って掛かった。
 やはり酔いが回っている様だ。

「おい、この無礼者を摘み出せ!」
「無礼講だって伊吹様が言いました!」
「無礼講にも程が有るんだよ馬鹿者がぁ!!」

 今にも取っ組み合いの喧嘩をしだしそうである。
 伊吹もハッとして、慌てて止めに入る。

「落ち着こう、皆が見てるから」
 
 そう言って見るが、皆酒の席で陽気になり、裸踊り等していて、誰も此方を気にした様子は無かった。

「じゃあハッキリさせましょう。伊吹。抱くなら俺と千代どっちが良い。どっちが興奮する?」
「え?」

 急に何の話なのだと驚く伊吹。
 話し付いていけない。

「抱くなら私に決まってます。私の方が抱き心地良いですよ。だって殿、筋肉ゴツゴツしてるし」

 千代は春岳に言い返し、伊吹の腕を掴む。

「はぁ? 俺の胸筋見てみろよ、なかなかの巨乳だぞ。伊吹には負けるけどな」
「私はお尻が自慢です。桃尻です!」
  
 言い合う二人は見せ付けようと、今にも脱ぎだしそうな勢いだ。

「脱がない! 脱がない! 脱がない!
!」

 必死に脱ぐのを阻止する伊吹。

 千代が酔っているのには気づいていたが、思いの外春岳も酔っている。
 このまま此処に居たらとんでも無い事に成りかねないと思い、伊吹は二人を連れ出すと、取り敢えず自分の部屋に連れ込んだ。


 布団を敷いて二人を座らせる。
 そのうち寝てくれるだろう。
 
 そう安易に思ったのが間違いだった。
しおりを挟む

処理中です...