狼のディナー

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 別れの挨拶をしたいだけなのだが、何故かロベルトはリザをお風呂に入れさせた。
 どうしよう。一時間しか無いんだけど。
 でも狼さんのディナーになるのにこんなお化粧まみれじゃ失礼だもんね。
 そう思ってリザは体を綺麗に洗って、お風呂を出た。
 できるだけ急いだが、40分ぐらいはかかったと思うので、後20分だ。
 まぁ、今まで有り難う。さよなら。元気でねーって言えば良いだけだけだから間に合う。
 リザはいつもの礼装に着替えると、髪を結ぶ。
 狼から貰ったネックレスも忘れないで身につけてから、ロベルトの部屋に向かうのだった。

「リザ、早かったね。何故、礼装なの? 僕が渡したネグリジェは? あ、中に着ているのかな?」
「いえ、これから出掛けるので」

 そもそもあんなスケスケのヒラヒラな寝間着など着られないが。
 何故ロベルトはあんな物を寄越したのだろう。
 リザはいつもシルクのパジャマだ。

「何処に行く気?」

 ロベルトは不機嫌にリザを見据える。

「唐突で申し訳ありませんが、暇を貰えたらと思います」
「何を言っているのかな? 僕たち、婚姻関係を結んだんだよ? 暇なんてあげられるわけないよね」
「もうすぐ死ぬので」
「本当に何を言っているの? もしかして勝手に話を進めた事、怒ってる? でも、僕は本当に君を愛しているから結婚したんだ。もしかして、リザは僕が嫌いなの?」

 ロベルトはリザの腕を掴もうと手を伸ばした。
 バチっと電気が弾けた様にロベルトは手に痛みを覚え、掴むことはままならなかった。
 静電気?

「私はロベルト様が好きですし、大事に思います」
「だったら……」
「でも、愛しているという感情はわかりかねますし、私は王をそんな風には見られません。ちゃんとした公女様と結婚して頂きたく」

 リザのは恋する気持ちというのを感じた事が無く、よく解らない。
 正直、ロベルトにはビックリしているし、困惑していた。
 親友として好きなら解るが、結婚したい好きって何なんだろう。
 もしかして、気兼ねない関係だから、結婚しても困らない関係と言う事だろうか。
 そうなれば私も別にロベルトと結婚して何か困ると言う事はない。
 じゃあコレが愛?
 何となく違う気がするだよね。

「解らないなら僕が教える」

 ロベルトはニコリと笑ってリザに手を伸ばす。
 またバチっとなって、手を跳ね返してしまった。
 静電気じゃない?
 ネックレスの効力だろうか。
 私を守ってくれている?
 何から?
 リザは良く解らず、あれやこれや一辺に来てしまい、考える余裕がない。
 ロベルトが言っている意味も、結婚とかも、愛とか恋とかも、ネックレスが何からに自分を守っているかも、狼さんのディナーになる事も。
 リザの脳内はキャパオーバーしている。
 なので、考える事をやめた。

「私はもすぐ狼のディナーになるのです」

 兎に角、その事実だけは間違いない。

「どういう事?」

 ロベルトは困惑した表情を見せる。

「ロベルトにさよならを言いに来ました。今まで有り難う。本当に。立派になられましたね」

 リザは今までの色んな思い出が頭に浮かび、また涙が溢れてきた。
 本当にロベルトが立派に育って嬉しいのだ。
 思い残す事など何も無かった。
 最後にロベルトをギュッと強く抱きしめる。

「リザ、僕はこれから君を抱くし、君が跡継ぎを産もうと何をしようと毎晩愛を交わそう」

 ロベルトは感極まったのか、そのままリザをベッドに押し倒そうとした、バチッと先よりも強く火花が散って、ロベルトは吹き飛ばされた。
 
「ロベルト!?」

 飛ばされたロベルトは腰を打って痛そうに表情を歪める。

『リザ時間だ』

 そう声が聞こえたと思うと、側に狼が現れる。

「誰だ貴様! ここが何処だか解っているのか!」

 ロベルトは狼を睨み、声を荒げると警戒ブザーを鳴らした。
 直ぐに家臣たちが駆けつけてしまうだろう。

「ロベルト、この人は貴方の命の恩人なのよ」
 
 直ぐさま狼を庇うように立ち、声を荒らげるリザ。

「いや、俺はそこの男を助けたかった訳ではない。お前が欲しかっただけだ。リザは返さん。コイツは死んたと思って墓でも立てるんだな」

 狼はリザの額にキスすると、ロベルトに忠告する。

「リザは私の妻だ。私が誰だか解らないのか。王だぞ。王の妻を奪うとは死刑だ」
「リザには10年前から俺が先約していた。横から不躾にかっ攫ったのはそちらだろう」

 身動きが取れない様子のロベルトは、何か見えない物に拘束されているみたいだ。

「王!」
「どうしましたか!」
「王!!」

 家臣たちが部屋に飛び込んでくる。

「お別れは済んだな?」

 狼は言うが早いか、何か呪文を唱える。
 
「リザーー!!」

 ロベルトの呼ぶ声が聞こた気がした。

 眩しい光に包まれ、次に目を開けると迷いの森の入口だった。

「選別の森だからな、少し歩くが、まぁ一分やそこらだ」

 狼がリザの手を引く。
 散々迷って泣いた程の迷いの森は、リザにとってはトラウマで怖い森だった。
 近づくのも嫌であったが、不思議と今は怖くない。
 狼が側に居るからだろう。
 安心して歩けた。


「私達はこの森を迷いの森と呼んでいるんだけど、そっちでは選別の森って呼んでいるのね。力を持たない者は迷ってしまうから?」
 
 霧が晴れて夜道も明るい森。
 なんだか軽い夜のお散歩という気分になって気楽に話てしまうリザ。
 これからこの人のディナーにされてしまうと言うのに、なんだか緊張感が無いなの、自分でも少し苦笑が出た。

「この森は力有る者を試す森だ。有している力の強さで出られる時間が変わるんだ。俺の様に力を有している者といない者の国を行き来出来てしまう程の力は珍しいがな」
「へー、狼さんは強いのね。もしかして魔王なの?」

 魔法使いの王様は凄く怖いと聞いていた。
 いつか力を有していない国を襲いに来て、全てを奪うかもしれないと。
 子供の頃、悪さしたら『魔王に連れさらわれてしまうよ』と脅されるものである。

「いや、俺は魔王じゃない。森守りだ。たまにお前みたいな馬鹿な者が迷い込んだり興味本位で入ってくるからな、狼で驚かせて外に追いやってやったりするのが仕事だ。それから力を有っても弱い者は迷ってしまうのでそれも連れて行ってやる。それからやたら強い奴が来たら力を有してない者を脅かす脅威だからなソイツと戦ったりしてるな。そっちの国が安全なのはほぼ俺のお陰であると言っても過言ではないだろう」

 フフンと自慢げに言う狼。
 と、言うか。
 この人は狼じゃないのか。
 狼が人間に化けて迎えに来たと思ったのだが、人間が狼に化けていたの?
 でも人間が人間をディナーにするかなぁ。
 魔法使いって人間食べるの?
 それとも魔法使いって皆狼なの?
 謎は深まるばかりだ。
 そんな話をしている間にあっさりと森を抜けた。
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