異世界隠密冒険記

リュース

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第一部「六色の瞳と魔の支配者」編

ナツメの求めるもの

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 クロトは神秘結晶を2つほど合成した後、泉に潜り、水面へ浮上した。


「クロト殿、おかえりでござる。」

「ただいま、ナツメ。」


 クロトは、律儀に待っていてくれたナツメにお礼を言い、泉について説明した。


「神秘結晶・・・。確かに見ていると癒されるでござるなぁ・・・。」


 椅子に座りつつ、泉の神秘さの理由を実感するナツメ。

 神秘結晶に癒されたためか、少し眠そうだ。


「ナツメ、眠いなら眠ってもいいよ?」

「む・・・。では、そうさせてもらうでござるよ・・・。」


 ナツメは、後をクロトに任せると、スヤスヤと眠り始めた。



 結局、クロト以外の全員が眠ってしまった。

 そしてそのまま、一日の終わりまで眠り続けたのだった。









「カレン、ナツメ。そろそろ起きて。」

「ん・・・?ここは・・・ああ、そうか。泉で眠ってしまったのか・・・。」


 カレンは起こしたらすぐに起きた。


「・・・・・・。」


 しかし、ナツメは中々起きない。

 もう少し強く起こしてみる。


「・・・・・・。クロト殿ぉ・・・。」


 どうやら寝言のようだ。

 先に起きていたアクアとマリアが、耳聡く聞きつけたようだ。


「幸せそうですね・・・。どんな夢を見ているのでしょう・・・?」

「寝言の内容から、大体推測できますわね・・・。」




 後日、寝言の事を揶揄われたナツメは、真っ赤になったとかなんとか。




 ナツメも目を覚ましたので、神秘の泉を後にしたクロトたち。


 宿の部屋に戻って来たのだが、夜中になっても女性陣は眠れなかった。

 昼間寝すぎたせいなのは間違いない。


 クロトは、問題なくグッスリ眠っているが。


 眠れないがゆえに、少し話をすることにした四人。


 話題は次に向かう町、ナツメの故郷であるフィレントについてである。


「ナツメ、フィレントはどういう町なのだ?」

「どうと言われても・・・故郷のことを表現するのは難しいでござるよ・・・」


 ナツメにとっては昔から住んでいた町。

 ごく普通の町でしかないのだ。

 そのため、カレンへの答えに窮しているようだ。


「でしたら、ナツメさんにとって思い出深い場所などはありませんか?」


 見かねたアクアがフォローを入れた。

 ナツメはそのフォローのおかげで何かを思い出したようだ。

 すぐにそのことを語り始める。


「そういうことなら、修行をした山奥にある寺院、カシュマの寺院でござるな。」

「カシュマの寺院、ですの?」


 どういった場所なのか気になったマリアが、詳しく尋ねた。

 すると、ナツメの答えはシンプルなものだった。


「内部には修行場しか無いゆえ、面白い場所ではござらんよ。」

「そうなんですの・・・。」


 マリアは少々残念そうだ。

 そしてそこから、話はナツメ自身のことへ。


「修行、か。ナツメの実家はどんな家なのだ?」


 普通、子供のころから修行などさせないため、特殊な家だと判断したカレン。

 気になって来たので尋ねてみた。


「実家は剣術道場である故、幼いころから剣が身近にあったでござるなぁ・・・。」


 ナツメの話では、実家のトウドウ家は、遥か昔から道場をやっていたそうだ。

 そして現在まで、その質を悪化させることなく、優秀な剣士を輩出し続けている。

 そのため、現領主の覚えも大変めでたい。

 また、道場への弟子入り希望者が後を絶たない。

 ナツメは、そんな道場の娘なのだそうだ。


 この話は、例の結婚話ともかかわってくる。


 ナツメの両親は人格者だが、父親は、やや家柄を大事にしすぎる欠点がある。

 代々続いてきた家の評価を、自分達の代で落としたくないというプレッシャー。

 それが原因で、ナツメの結婚に口を出してくる。

 それさえなければ尊敬できる父親、というのがナツメの評価だ。


 ちなみに母親は、殆ど口を出してこない。

 娘の将来の事を心配して結婚の話題は出すが、それだけだ。


「なるほどな・・・。気持ちは分からなくはないが・・・。」


 その手のプレッシャーとは無縁のカレンにも、何となくわかったようだ。


「それで、今回婚約の話が挙がっているのが、領主の一人息子、ですか。」

「そういうことでござる。」


 問題は、その領主の息子のこと。


「あ奴、名をリュウジと申すでござるが・・・酷い性格でござる。」


 なんでも、ナツメが幼いころから道場に顔を出して居たため、面識がある。

 その性格は悪く、領主の長男としての権力を振りかざすことも珍しくない。

 そして、ナツメを見染め、我が物にしたがっている。

 だが、流石にトウドウ家に権力の行使は難しい。

 それがゆえの、婚約話なのだろうと。


 当然、ナツメはそんな結婚は御免こうむりたい。

 そのためには、父親に認めてもらえる代わりの婚約者が必要だ。

 そこで、クロトに婚約者の振りを頼んだのだ。


 ナツメの父親は権力欲が薄いので、領主の次男との婚約に拘ってはいない。

 ゆえに、代わりの相応しい婚約者が居れば、問題なく撤回してくれる。

 その確約も、手紙で貰っているそうだ。

 領主もまともな人物なので、そちらについても問題は無い。


「両親のような幸せな家庭を築きたいでござるから、望まぬ結婚は嫌でござるよ。」


 ナツメは、そう話を締めくくったのであった。


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