異世界隠密冒険記

リュース

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第二部「創世神降臨」編

エピローグ14

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 セーラがうな垂れている。

 いつ涙を零しても不思議では無い程に。


 クロトも意地悪で言っているのではない。


 第一に、これからあっちこっち飛び回る予定なので、一か所には留まり辛い。


 第二に、これは合理的な理由では無いが・・・。

 エルフの里は、偶に来るから、良い気がするのだ。

 今はまだ、この環境に慣れてしまってはいけないと、思ってしまう。


「セーラ。必ず、また来るから・・・そんな顔をしないで・・・?」

「っ・・・ごめんね、そんなつもりでは無かったのに、つい・・・。」


 セーラも、始めは笑顔で送り出すつもりだった。

 しかし、別れが近づくにつれ、他の選択肢もあるのでは?

 そう思うようになっていった。


 そして、別れの言葉を口にするつもりが、いつの間にか、別の事を話していた。


「私、もう行くね・・・。」


 そのまま、ふらふらしながら立ち去ろうとする。


 クロトは後ろから、そっとセーラを抱き締めた。


「っ!?クロト・・・君・・・?」

「・・・・・・。」


 クロトは何も答えない。

 セーラは顔が熱くなっていくのを自覚しながら、困惑している。

 やがて、クロトが耳元で囁く。


「・・・これで、少しは意趣返しが出来たかな?」

「っ・・・?!」


 耳元で囁かれ、ゾクゾクとした感覚が、セーラのなかを駆け巡る。


「くっ、クロト君っ!?これはっ、ダメっ・・・何か、ヘンな、感じが・・・!」


 体を駆けまわる妙な感覚から逃げるため、クロトから離れようとする。

 が、力が強く、簡単には離れられない。

 世界樹の根元で起きたことの逆パターンとなった。


 クロトは、セーラの様子にお構いなしで、次々囁いていく。


「抱きしめられた僕の気持ちを、セーラさんにも味わって貰おうと思ってね。」

「っ!?ダメッ・・・!これ以上は・・・!」


 妙な感覚に支配されそうになるのを必死で堪え、言葉を紡ぐ。

 そこでようやく、クロトはセーラを解放した。


 セーラは涙目になり、頬を上気させていて、とても色っぽい。


「クロト君っ!悪戯が過ぎるわよっ・・・!」

「セーラの真似をしただけだよ?」

「っ・・・それは・・・。」


 クロトの反論を受け、何も言い返せない。


 そもそも、本当に意趣返しのつもりだけなのか。

 実は、やましい意図があったのではないか。


 そんな推測をしてみたが、一切の嫌悪感が湧いてこない。

 寧ろ、喜びの感情すら湧いて来てしまった。


 余計に戸惑ったセーラは、うっかりと、思ったことを口に出してしまう。


「クロト君は・・・私の事を、どう思っているの・・・?」

「・・・・・・。」


 口に出してから、失敗したことに気づいたが、時すでに遅し。

 良く分からないが、取り返しがつかなくなりそうな予感がしてくる。

 長く生きてきた中で、上から数えた方が早いほど、嫌な予感だ。


 セーラは、良く分からないまま顔を青ざめさせる。

 だが、ふとした拍子に、嫌な予感は消えて無くなった。


 そして、考え込んでいたクロトが、丁寧な言葉で返答する。


「・・・その質問には、今すぐ答えなくては、いけませんか?」


 セーラは直感的に、首を横に振った。


「ううん、何時まででも・・・待っているわ。」


 すると、クロトは笑顔になって・・・




「なら、ゆっくり考えさせて貰おうかな。またここに来る理由もできた事だし。」




 ・・・とても優しく、安堵を浮かべた笑顔で、そう告げたのだった。


 
 セーラは、再び胸の鼓動が跳ねるのを、自覚させられた。










 翌日、里の入口まで、大勢のエルフたちが詰めかけていた。

 ユーリス、リーリア、ミルファの三人も居る。


「では、また・・・。」

「クロト君!また敬語にもどっているわよ!」

「・・・ごめん。慣れというのは、恐ろしいね。」


 未だに敬語が抜けきらないクロトは、セーラに謝った。


「謝る必要は無いけど・・・やっぱり、別れは寂しいな・・・。」

「セーラ・・・必ず、また来るから。」

「・・・ええ。待っているから、絶対に、また来てね?」 


 専用の魔法陣を一つ貰っているので、もう一度だけ、来ることが出来る。

 それが、いつのことになるかは分からないが。


 かくして、エルフの村を後にした、クロトたちだった。







 クロトたちが去った後、セーラ宅で。


「母さん、あれで良かったのか?」

「良いのよ。クロト君には、やるべきことがあるんだから。」


 その言葉とは裏腹に、セーラの表情は暗い。

 レフィとユフィは、始めてみる母の表情に、何と言ったらいいか分からない。

 そんな時、ユフィが何かに気づいた。


「・・・お母さん、これは何なのです?」

「えっ?これって、どれ?」


 ユフィの指さす所、胸元のポケットには既に何も無い・・・かと思いきや。

 突然、何かが出現した。

 セーラは面食らいながらも、すぐにそれを確認する。

 クロトの匂いがついていたからだ。


「・・・これは。こんなものを、いつの間に?」

「流石に気づきそうなものだが・・・。」

「不思議なのです・・・!」


 セーラはうんうんと考えて、ようやく心当たりを思い出した。


「あっ・・・昨日、抱き着いたときに・・・・・・あっ。」

「母さん・・・どういうことだ?」

「またクロトに抱き着いたのです?」

「ちっ、違うわよ!抱き着いたというのは・・・!」


 主語が抜けていた為に誤解されてしまい、慌てて訂正するのであった。









「それで、どうするんだ?」

「・・・え?どうするって、何をかしら?」

「・・・好きなんだろう、クロトのことを。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


 セーラは固まってしまった。


「まさか、この期に及んで否定はしないよな?」

「好きじゃ無いのです・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッッ!?」


 セーラの顔は、一瞬で真っ赤になった。

 事ここに居たって、初めて認識したらしい。

 色々諸々の行動を思い出し、悶え始める。

 年齢の割に、意外と初心だったようだ。


「ちょ、ちょっと待って!?でも、私っ・・・十倍以上年上でっ・・・!」

「おい、落ち着け。もしや、自分の事なのに気づいて居なかったのか?」

「鈍感、なのです・・・。」


 なんと、ユフィにまで呆れられる始末。


「こんなおばさんなんて、クロト君が相手にするわけ・・・!」

「じゃあ、これはなんだ?」


 レフィは、先程見つけたものを含む二つのものを指して、尋ねた。

 片方は別れ際に貰った物なのだが・・・。


「そ、それはっ!ただのお礼とか感謝とかだと思って・・・!?」

「・・・この母親は、もう駄目かもしれん。」

「レフィっ!?ユフィ、レフィが虐めるのっ!」

「どう考えても、お母さんが悪いのですっ!」

「ユフィまでっ!?」


 孤立無援となったセーラは再び呟きだした。


「私、胸もそれなりしかないし・・・クロト君には釣り合わないわ・・・!」



 
 そんなセーラの様子を見ていたレフィは、こう呟いた。





「すまんクロト。うちの母親が、何か迷惑を掛けるかもしれん・・・。」

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