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残ったノート
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マンションに着くと台所の引き出しを開いた。A4のノートがあった。先輩が料理を作りながら書いていたノートだ。レシピでも書き綴っていると思いきやノートのタイトルは「日記」だった。
表紙を開き1ページ目には
『このノートを開く時』という書き出しから始まっていた。
『このノートを開く時。私はたぶん死んでいるか、異世界に取り残された時でしょう。
私は異世界から転移した異世界人です。元はミルクテよりも遠く離れた地方で生まれて15歳の時に異世界転移して、日本に来ました。言語を習得して勉強もして連司くんと同じ会社に就職して数年。連司くんが入社した時に私は貴方が特殊能力者マジックブレイカーだと分かりました。それに連司くんは異世界に転移できる能力もありました。
そして私にも特殊能力があります。一つは、水晶玉で異世界を見通すことが出来ること。もう一つは異世界から連れ戻す能力です。この二つの特殊能力で水晶玉で連司くんを観察して、元の世界に連れ戻していました』
俺は勝手に自分の力で戻ったと思っていた。乾杯と叫んだ時に戻ると勘違いしていた。しかし、いつも神村先輩が元の世界に戻してくれていたことが分かった。
『故郷を忘れかけていたのに、水晶玉で見る故郷が懐かしくて、いつの間にか連司くんに甘えて異世界に戻りたいと夢見てしまった。連司くんを強くして一緒に冒険したいと願ってしまった。私がどんな最期でも、私を異世界に残してきたとしても後悔しないでね。もう私の夢は叶ったから。ありがとう。これからは異世界のことは忘れて、貴方の人生を生きてね』
ノートに涙が落ちる。神村先輩が書いた字が涙でボヤける。
「翔吾、頼みがある」
「言わなくても分かってます。戻りましょう!異世界に」
強く握手を交わした。
いつどんなタイミングで異世界に行くか分からないため、その日から俺と翔吾の同棲生活は始まった。翔吾は初日からトイレが狭いだ、お風呂が狭いと文句が多い。
「先輩の家狭いですね。家来ますか?」
「あ?」
狭いと侮辱され少し怒った。
翔吾の家がどれだけ大きいか見に行ってやることにした。
「あの角の家です」
案内されたのは高級住宅街の一角。
「家の広さは?」
「300坪ぐらいあります」
「300坪!金持ちだったのか!」
「実家ですけど、父が社長で」
庭を通って3階建ての広い家に。
玄関のロックを解除して中に入ると迎えてくれたのは翔吾の母親だった。
「おかえりなさい翔吾ちゃん。会社に出勤してないって電話があって、一日中心配したのよ」
「ごめんなさい母さん。こちらは会社の連司先輩」
「比良松連司です」
「あらやだ。お客様が来るなら早く言ってよ。パパー、翔吾ちゃんの先輩さんが来たわよ」
「ああ、今行く」
ドアを開けて現れたのは俺が勤める会社の社長だった。
「しゃ、社長!」
「ああ、比良松くんか。忘年会以来かな。いつもうちの倅がお世話になっている」
「翔吾の父親って社長だったのか!」
「そうです。連司先輩知らなかったですか?」
「聞いてない」
俺の顔は若干引き攣っていた。
「まぁ玄関では立ち話もあれだから、中に入りなさい」
「お邪魔します」
広いリビングに通されると翔吾の母親は紅茶と茶菓子を出してくれた。
テーブルに座ると、社長と翔吾の母親と対面する形になり、俺の隣に翔吾が座った。
「社長、お願いがあります。急で申し訳ありませんが会社を退職させて下さい」
「本当に急だな。何かあったのか?」
そして翔吾も辞職を申し出て、頭を下げ異世界について説明した。神村先輩が重傷で亡くなったかもしれないこと。魔王を討伐して《世界の理を壊す秘薬》があれば神村先輩を復活させることができるかもしれないことを伝えた。
最初、翔吾の両親は信じていなかったが翔吾が熱弁すると父親が目を瞑って聞き始めた。そして翔吾が語り終えるとゆっくりと目を開いた。
「翔吾は小さい頃から何に対しても消極的で本気で打ち込んだ物事はなかった。我が社に入れて、少しは変わるかと思って期待したが全くだ。しかし初めて熱く語る姿を見て本気度が伝わった」
「母親としては心配です。異世界?そこは危険がいっぱいでしょう」
「はい」
「母さん。頼む。連司先輩と神村先輩と異世界を救いたい」
「今日、息子と比良松連司・神村亜弥華・小早川真帆が一斉に無断欠勤した。エレベーターに乗った姿を見た者もいたが、会社内にもいない。電話にも出ないという珍事が報告された真相は現実では理解し難いものだ。しかし大切な社員の危機とあっては私自身も助けに行きたいが、それは今の会社を放り出すようなもの。だから、翔吾、比良松くん私の分まで社員を助けに行ってくれ」
社長は頭を下げた。母親は翔吾の手を取り、目頭が赤くなっていた。「翔吾をお願いね」と託され俺は「はい!」と力強く返事した。
「退職は保留。これからは出勤は不要、自己鍛錬に励み強くなって魔王という悪魔を倒して社員を救ってくれ。その為なら何でもしよう」
社長の願いも俺たちと一致した。
表紙を開き1ページ目には
『このノートを開く時』という書き出しから始まっていた。
『このノートを開く時。私はたぶん死んでいるか、異世界に取り残された時でしょう。
私は異世界から転移した異世界人です。元はミルクテよりも遠く離れた地方で生まれて15歳の時に異世界転移して、日本に来ました。言語を習得して勉強もして連司くんと同じ会社に就職して数年。連司くんが入社した時に私は貴方が特殊能力者マジックブレイカーだと分かりました。それに連司くんは異世界に転移できる能力もありました。
そして私にも特殊能力があります。一つは、水晶玉で異世界を見通すことが出来ること。もう一つは異世界から連れ戻す能力です。この二つの特殊能力で水晶玉で連司くんを観察して、元の世界に連れ戻していました』
俺は勝手に自分の力で戻ったと思っていた。乾杯と叫んだ時に戻ると勘違いしていた。しかし、いつも神村先輩が元の世界に戻してくれていたことが分かった。
『故郷を忘れかけていたのに、水晶玉で見る故郷が懐かしくて、いつの間にか連司くんに甘えて異世界に戻りたいと夢見てしまった。連司くんを強くして一緒に冒険したいと願ってしまった。私がどんな最期でも、私を異世界に残してきたとしても後悔しないでね。もう私の夢は叶ったから。ありがとう。これからは異世界のことは忘れて、貴方の人生を生きてね』
ノートに涙が落ちる。神村先輩が書いた字が涙でボヤける。
「翔吾、頼みがある」
「言わなくても分かってます。戻りましょう!異世界に」
強く握手を交わした。
いつどんなタイミングで異世界に行くか分からないため、その日から俺と翔吾の同棲生活は始まった。翔吾は初日からトイレが狭いだ、お風呂が狭いと文句が多い。
「先輩の家狭いですね。家来ますか?」
「あ?」
狭いと侮辱され少し怒った。
翔吾の家がどれだけ大きいか見に行ってやることにした。
「あの角の家です」
案内されたのは高級住宅街の一角。
「家の広さは?」
「300坪ぐらいあります」
「300坪!金持ちだったのか!」
「実家ですけど、父が社長で」
庭を通って3階建ての広い家に。
玄関のロックを解除して中に入ると迎えてくれたのは翔吾の母親だった。
「おかえりなさい翔吾ちゃん。会社に出勤してないって電話があって、一日中心配したのよ」
「ごめんなさい母さん。こちらは会社の連司先輩」
「比良松連司です」
「あらやだ。お客様が来るなら早く言ってよ。パパー、翔吾ちゃんの先輩さんが来たわよ」
「ああ、今行く」
ドアを開けて現れたのは俺が勤める会社の社長だった。
「しゃ、社長!」
「ああ、比良松くんか。忘年会以来かな。いつもうちの倅がお世話になっている」
「翔吾の父親って社長だったのか!」
「そうです。連司先輩知らなかったですか?」
「聞いてない」
俺の顔は若干引き攣っていた。
「まぁ玄関では立ち話もあれだから、中に入りなさい」
「お邪魔します」
広いリビングに通されると翔吾の母親は紅茶と茶菓子を出してくれた。
テーブルに座ると、社長と翔吾の母親と対面する形になり、俺の隣に翔吾が座った。
「社長、お願いがあります。急で申し訳ありませんが会社を退職させて下さい」
「本当に急だな。何かあったのか?」
そして翔吾も辞職を申し出て、頭を下げ異世界について説明した。神村先輩が重傷で亡くなったかもしれないこと。魔王を討伐して《世界の理を壊す秘薬》があれば神村先輩を復活させることができるかもしれないことを伝えた。
最初、翔吾の両親は信じていなかったが翔吾が熱弁すると父親が目を瞑って聞き始めた。そして翔吾が語り終えるとゆっくりと目を開いた。
「翔吾は小さい頃から何に対しても消極的で本気で打ち込んだ物事はなかった。我が社に入れて、少しは変わるかと思って期待したが全くだ。しかし初めて熱く語る姿を見て本気度が伝わった」
「母親としては心配です。異世界?そこは危険がいっぱいでしょう」
「はい」
「母さん。頼む。連司先輩と神村先輩と異世界を救いたい」
「今日、息子と比良松連司・神村亜弥華・小早川真帆が一斉に無断欠勤した。エレベーターに乗った姿を見た者もいたが、会社内にもいない。電話にも出ないという珍事が報告された真相は現実では理解し難いものだ。しかし大切な社員の危機とあっては私自身も助けに行きたいが、それは今の会社を放り出すようなもの。だから、翔吾、比良松くん私の分まで社員を助けに行ってくれ」
社長は頭を下げた。母親は翔吾の手を取り、目頭が赤くなっていた。「翔吾をお願いね」と託され俺は「はい!」と力強く返事した。
「退職は保留。これからは出勤は不要、自己鍛錬に励み強くなって魔王という悪魔を倒して社員を救ってくれ。その為なら何でもしよう」
社長の願いも俺たちと一致した。
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