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異世界人

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あれから約1年が経とうとしていた。季節は夏になり猛暑でも毎日トレーニングを続けていた。翔吾の家に住み、家の一部屋をトレーニングルームに改築して筋力と体力を向上させていた。


「先輩。いつになったら異世界に行けると思います?」

「こっちが聞きたいよ。何かきっかけが必要なのかと色々試したけどダメだった」

「いっそ遊びに行こう!」

翔吾は海に行きたいと熱望した。

電車に乗り、久しぶりの通勤ルートを通る。一旦電車を降りて乗り継ぎの為、別会社の鉄道の改札を通って跨線橋の階段を登ろうと階段を見上げた。

階段の登り切った先に水着を着た女性が立っていた。西洋人だろうか。キリッとした目に鼻は高く顎はシャープだ。緑色の髪の毛が腰まで伸びている。モデルなのかスタイルが良い。夏だから、海に近い駅だから水着なのかもしれないが目立って仕方ない水着姿の女性を何故か誰一人見ない。

「なぁ、翔吾。あの人見える?」

「なんで美女が水着姿で駅に?」

翔吾と俺には見えていた。しかし他の人は見向きもせずに階段を登る。水着美女は、階段を登ってくる人を華麗に避けて楽しんでいた。まるで他から見えない様子だった。

そして俺と翔吾も階段を登り水着美女とすれ違った。

「君達、私が見えてるのね」と耳打ちされた。

瞬きをした一瞬の間に水着美女は俺の喉元にナイフを当てた。

「動かない方がいい。少しでも動いたら、おわり。君たちをずっと探していた」

「俺を?」

「そうよ。ずっと目立つように水着でね。まぁ、一般人には見えない魔法を掛けているから、あなた達みたいな異世界に行ったことのある人間にしか私の姿は見えないわ。そういう魔法なのよ。ここは貴方の通勤ルートでしょ?」

「え?俺は隣の駅が通勤ルートです」

美女の顔が引き攣った。

「あら、そうなの。間違えていたわ。一年間朝は水着で目立つように此処にいたのに無駄だったわ」


「あなたも異世界に行ったことがあるのか?」

「私は元々異世界人。亜弥華だけがこっちの世界に来たわけじゃないわ。私と亜弥華はある日突然こっちの世界に来た。他にも探せば異世界人は沢山いるのかもね。亜弥華から連絡がこないのだけど、何か知ってる?」



俺は異世界での出来事を伝えた。

美女は下唇を噛んで涙を堪えていた。

「そう。残念。亜弥華は私の・・・私にとって親友だったから」

「俺たちは神村先輩を助けます!」

「どうやって?」

「魔王を倒して世界の理を壊す秘薬を手に入れて蘇らせます」

「無理よ。あの魔王を?」

「俺はマジックブレイカーなんです!」

「亜弥華から君の話は聞いていたからマジックブレイカーであることは知ってるさ。しかし本人の目を見て私は確信した。君なら倒せるかもしれない」
美女の目つきが鋭くなった。そして高笑いすると周囲の通勤途中のサラリーマンや学生の目が一斉に水着姿の美女に集まった。

「久しぶりに高揚して魔法が切れたか。私はイール・シャーナ。シャーナと呼んでくれ」

俺と翔吾はシャーナに自己紹介した。

「もう1年も異世界に戻れなくて。シャーナさんは行き方を知っていますか」

「呼び方はシャーナでいい。最近異世界に行けそうな場所を見つけて異世界なら簡単に行けるようになった。戻るのは困難だけど何とかなるだろう」

シャーナは階段を下り始めた。
俺と翔吾は後に続く。

シャーナが街中を歩くと道行く人々から視線が集まった。

「目立って仕方ないです」

翔吾は嫌そうに俺の後ろに隠れて歩いていた。

「いいじゃないか視線ぐらい気にするな」
とシャーナは笑っていた。


路地裏に到着した。

「今から異世界に行くから家族や友に連絡を」

翔吾は家族に携帯電話で連絡した。

シャーナは路地裏の壁をペチペチ叩いた。

「おかしい。先週来た時はこの辺りの壁を叩いた時に真っ黒な壁が現れた。押す場所が違うのか」

独り言を言いながら壁を叩いていると突然、壁に黒い空間が現れた。黒い空間は楕円形で人1人通れる大きさだった。向こうに何があるのか全く分からないブラックホールのようなものが壁に広がっている。

「おそらくここから異世界に行ける」

「おそらく!?」

「行けそうな場所を見つけただけで行ったことはない。行ってみようじゃないか」

「どういう事だよ!中に入った途端バラバラになったりしない!?」
翔吾は楽観視するシャーナに怒った。

「君から行ってみよう」
シャーナは翔吾の胸ぐらを掴み真っ黒な空間に投げ飛ばした。

「ぎゃー!」と叫ぶ翔吾が真っ黒な空間に入ってすぐ声が消えた。

「次は君だ!」
そして俺も投げ飛ばされた。

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