クリスタル・サーディア 終わりなき物語の始まりの時

蛙杖平八

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CHAPTER 6

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星岬技術研究所 東研究棟 第三実験室(通称:開かずの間)


「おいっ! 星岬! 大丈夫か!」

邦哉は星岬に駆け寄り、彼の両肩を掴んで自分に正対させると眼を見て様子を確認した。
極度の興奮状態にあるのは分かった。
息が荒くゼェゼェ言っている。
ようやく邦哉に気付いた星岬は、脱力して力なくその身を邦哉に預けた。
その場は濡れているので、少し移動した所に星岬を安置する。

先ずは、この臭気をなんとかしなければならない。

自分も息が苦しくなってきているので、とりあえず窓を開けて換気をすると少しは呼吸が楽になった。

邦哉は星岬の所に戻ると様子を窺った。
さっきより顔色が悪くなっているように診える。

脈を取ろうとして手を取り袖をずらすと、縫合の跡があるのに気が付いた。
気付いたのは手首だったが、有ると思って見るとモノというのは見えてくるもので、星岬の手には指の一節に至るまで細かく縫合の痕があった。
コレはいったい・・・?
まず脈を取り、状態を確認する。
・・・脈は、早いな。
そして首筋と足首を見たがとても上手に目立たないように縫合されていた。

「・・・邦哉・・・」

星岬は気を失っていた訳ではないので、ここまでの経緯は全て把握している。
邦哉は黙って頷くと、続く言葉を待っている。

「やられたよ、アイツめ。脱臭装置を利用するなんて・・・」

邦哉は脱臭装置にはアタリを付けていたので、“アイツ”が誰の事かわからないと首を傾げてみせた。
察し良く星岬は答えようとしたが、何かに気付いて口を閉じた。
邦哉は黙って星岬の言葉を待った。
二人は黙って見つめ合っていた。
 
 



星岬技術研究所 所内場所不明(その1)


暗い室内を、電子機器のパイロットランプが発する奇麗な緑色の光が照らしている。
一見して人間と分かるモノが大きな円筒形のシリンダーに満たされた保存液に揺らめいている。
そのシリンダーの脇に簡素な端末が設けてあり、小さなディスプレーに“now loading”という表示が点滅している。




星岬技術研究所 東研究棟 第三実験室(通称:開かずの間)


「見たのか?」

星岬は邦哉に聞いた。
無論、縫合の痕のことである。
邦哉は頷いてみせた。

「そうか・・・」

星岬はそれ以上話さなかった。





星岬技術研究所 南研究棟2F 開発主任室


明けて時刻が午前7時を回っても邦哉は帰っていない。
サーディアは、邦哉が昨夜尋ねたと思しき“開かずの間”の機械にアクセスすることにした。
回線を探り当て身体をねじ込んでいく。
出来ればカメラ付きの端末が都合が良い。
昨夜のように何者かの干渉があるかもしれないので、トラップを用意してきた。
早速敷設する。
イメージは釣りの仕掛けだ。 
しばらくウロウロしていると、遠巻きにこの竿に絡んでくるモノがあった。
タイミングを計って竿を上げる。
ヒットした!
データの潮流の中を暴れ回る。凄まじいパワーである。
いったい何が掛かったというのか・・・?
サーディアは、慎重にリールを操作し糸を巻き取っていく。
もう少しで姿が見える!という所まで来た時である。

「オゴォォォォォォォォォォ!」

野太く腹の底に響くような恐ろしい声がしたと思うと、糸を切って獲物は逃げてしまった。
まぁ、しようがない。
後を追っても良かったのだが、今は邦哉捜索が最優先だ。
サーディアはリアルタイムの情報を求めていたが、最低でも映像のログでも見つかればと思いながらネットワークのサルベージを続けた。




星岬技術研究所 本部棟7F 役員執務室


ローズウッドの仕上りが美しいテーブルに両足を投げ出して、柔らかく鞣されて黒色に染められた手触りの良い革張りの肘掛け椅子にふんぞり返った役員ナンバー11は、緩んだ口元から涎を垂れ流し、時折下卑た笑い声をあげている。
ナンバー11付きの秘書が警戒心も露わに部屋の隅で独り仕事をしている。
ナンバー11が、ジッ・・・と秘書を見ている。
秘書も気が気でない。
薄ら笑いを視界の端に捉えてしまうと、もう堪えられない!
ぶるぶると悪寒を感じるほどの薄気味悪さに耐えかねて、秘書はそそくさと退室した。
後には退職届が残されていた。




星岬技術研究所 所内場所不明(その2)

大きな円筒形のシリンダー内を満たす保存液に一見して人間と分かるモノがゆっくり動いている。
そのシリンダーの脇に設けてある簡素な端末の小さなディスプレーに“loading successful”という表示が点灯している。
その人間と分かるモノはゆっくり瞼を開くと、両手を使ってシリンダー内面を叩いてみた。
さすがに割れる訳もなく、今はまだ他に出来る事も無いので再び瞼を閉じ時が来るのを待った。
  


 
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