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第6章 拝啓・北の国から
第88話 カボチャパンツは良いパンツ
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おどおどと出て来たのは、見た目年齢の16~18歳前後の女の子。
毛皮のボワボワの服を着ていて、必死に入口を塞ぐように立っていた。
髪は赤毛でおさげ髪、薄くソバカスのある、淡い緑の目のくりくりした人形のような美少女だ。
「アタチの方が可愛いでしゅー!」
「うんうん、まゆまゆが一番だから……って、こらっ!」
私はしゅーさんの腕を振り払い、ダッシュでアールとライバル認定、美少女くりくりん(仮)の方に走っていく。
「おいこら、チビ」
「アタチの方が、可愛いでしゅーっ! 主役の座は渡さないでしゅーっ!」
アールに首根っこを掴まれて、それ以上の前進は阻止されたが、私は断固として抗議した。
「アタチがーアタチがーっ! って、あにゃ? 奥の何でしゅか? 食材でしゅか?」
私の言葉にプハッと吹き出すアールと、アワワと慌てる女の子。
「ち、ち、ち、違うっ、あのっ」
中は薄暗いが、暖炉の火がバチバチと音を立て、そこに人の営みがある事を伝えていた。
彼女の奥に控えるようにいた、黒いモコモコが、ゆっくりと立ち上がる。
「黒い……羊でしゅ!」
「失礼なガキですね」
「羊がしゃべったでしゅ!」
何の感情も感じさせない、硬く冷たい声で、その黒い羊は二本足で立ち、のっそりとコチラに向かってきた。
「どきなさいティナ。この無礼者どもは、私の客です」
「ででで、ですが主様。さ、さっき、あっ、攻撃されて」
その言葉にアールが鼻白む。
「先に攻撃したのは、そっちだよな? 食材」
「黙れ敷物」
いい勝負だなと、私はうんうんと頷いていたら、攻撃の矛先がこっちにも来た。
「このチビが女神の言っていた魂ですか。ともかく、とっとと話は聞くので、聞いたら帰って頂きましょう」
「わーぃ! メェメェ羊ーっ!」
私はアールにぶら下げられたまま、二人で中に入ろとしたら、ゼファーの気配が険悪なものに変化した。
私だからわかったのだ、アールと共に精霊の力が察知する。
これは、敵意と殺意。
「羊めぇーっ!」
「おい、話を聞くんだろうがゼファー」
私とアールの抗議に、一丁前に羊が笑った。
「聞きますよ、ただし外で十分です。ティナ、中にいなさい」
「ぼ、ぼぼ、ぼくは主様の、し、し、しもべですからっ!」
「扉の代わりに、厚い布で入口を塞ぐ準備をしておくのです。命令です」
「わ、わわわ、わかりました」
しょげたティナという美少女が、うなだれて奥に入っていく。
かわりに、2メートルはあろうかという、黒い羊が目をギラつかせて外に出て来た。
「ぴきぃっ……ジンギスカン!」
「何いってるんだ、チビ姫は」
呆れつつ、アールがソッと私を庇ってくれる。
羊ことゼファーは、あきらかな敵意で、ジロジロと私を観察した。
「本当に小さい。こんな幼子を使うとは、女神もなんと残酷な事を」
おい? なんか久しぶりに真面な感想を聞いた気がするぞ?
とりあえず、アールの背後にコッソリ隠れつつ、ソロリと顔を出して、引きつりつつニッコリと愛想笑いをした。
「おやまぁ、食べたい程に可愛いですねぇ」
「うぴぴぃぃぃぃーっ!!」
ニヤリと笑った羊の迫力と怖さを、おわかり頂けるだろうか?
怖いんだよ! 金色に黒目の横線入って怖いんだってば!
あっ…。
……。
ショババーっ……!!
……。
とうとう、私は乙女としての最後の大事な砦が崩壊してしまった。
カボチャパンツは、失禁した私によって失われ、足元には小さな水たまりが出来たのだった。
死にたい……。
「まゆまゆ!」
「おやおや、仕方ない。ティナ前言撤回です。このチビを綺麗にしてやりなさい」
「じゃ、お邪魔しまーす」
「待ちなさいアールシャンテス! お前は何を気軽に……、ったく、とっとと、そっちの小僧も入りなさいっ!」
ブツブツ言いながらも、私達は中に入る事を許されたのだが、私の心は死んでいた。チーン。
こうして中に入るとわかる小さな間取りは、入ってすぐが居間兼玄関。
奥には寝室や台所、小さな保存室に物置、そして風呂とトイレが設置され二階に続く階段もある。
見た目よりコンパクトながら、機能性は十分だ。
まあ、私はそれ所じゃないんですけどね。
「ぴぃっぴぃっ」
「うんうん、大丈夫。ほ、ほほ、ほら笑って」
「笑えるかーっでしゅ!」
大事な何かを失った悲しみが、お前にわかるわけなかろう!
もう世界なんて滅んでしまえ! とグシグシと泣いている私に着替えをさせるティナ。
「ぼ、僕の小さな時の服だけど、い、い、いけると思う」
「今時流行の僕っ娘なんか、嫌いでしゅ!」
「あ、あ、あ、なんかわかんないけど、ごめんね」
奥の洗面所で着替えさせられつつ、脳内ではこの記憶を皆から消去するには、やはりしゅーさん以外は消し去るしかないのかまで思いつめていた。
心の中に、今、魔王が降臨している。
お前も、ピー(自主規制)にしてやろうかーっ!!
新しいおパンツに履き替えられ、汚れたパンツは手洗いでティナとやらが綺麗にしてくれた。
一応、背負っていたリュックに一枚パンツは入れられていたのだ。
私の濡れたパンツを小さな桶で手洗いするティナに、自分ですると告げたのだが
「小さい手がシモヤケになっちゃうよ。ぼ、僕は、つ、冷たいの、得意だからっ」
と手際よく洗って、暖炉の前に持っていき、乾かしてくれた。
そう、皆が集まる部屋の暖炉にだ。
生暖かいパンツへの優しい視線と、魂が死亡して時間停止している私を置いて、皆が居間で語り合っていた。
話していた内容などわからない。
私の目には、ホコホコと温められる相棒のカボチャパンツしか見えなかった。
毛皮のボワボワの服を着ていて、必死に入口を塞ぐように立っていた。
髪は赤毛でおさげ髪、薄くソバカスのある、淡い緑の目のくりくりした人形のような美少女だ。
「アタチの方が可愛いでしゅー!」
「うんうん、まゆまゆが一番だから……って、こらっ!」
私はしゅーさんの腕を振り払い、ダッシュでアールとライバル認定、美少女くりくりん(仮)の方に走っていく。
「おいこら、チビ」
「アタチの方が、可愛いでしゅーっ! 主役の座は渡さないでしゅーっ!」
アールに首根っこを掴まれて、それ以上の前進は阻止されたが、私は断固として抗議した。
「アタチがーアタチがーっ! って、あにゃ? 奥の何でしゅか? 食材でしゅか?」
私の言葉にプハッと吹き出すアールと、アワワと慌てる女の子。
「ち、ち、ち、違うっ、あのっ」
中は薄暗いが、暖炉の火がバチバチと音を立て、そこに人の営みがある事を伝えていた。
彼女の奥に控えるようにいた、黒いモコモコが、ゆっくりと立ち上がる。
「黒い……羊でしゅ!」
「失礼なガキですね」
「羊がしゃべったでしゅ!」
何の感情も感じさせない、硬く冷たい声で、その黒い羊は二本足で立ち、のっそりとコチラに向かってきた。
「どきなさいティナ。この無礼者どもは、私の客です」
「ででで、ですが主様。さ、さっき、あっ、攻撃されて」
その言葉にアールが鼻白む。
「先に攻撃したのは、そっちだよな? 食材」
「黙れ敷物」
いい勝負だなと、私はうんうんと頷いていたら、攻撃の矛先がこっちにも来た。
「このチビが女神の言っていた魂ですか。ともかく、とっとと話は聞くので、聞いたら帰って頂きましょう」
「わーぃ! メェメェ羊ーっ!」
私はアールにぶら下げられたまま、二人で中に入ろとしたら、ゼファーの気配が険悪なものに変化した。
私だからわかったのだ、アールと共に精霊の力が察知する。
これは、敵意と殺意。
「羊めぇーっ!」
「おい、話を聞くんだろうがゼファー」
私とアールの抗議に、一丁前に羊が笑った。
「聞きますよ、ただし外で十分です。ティナ、中にいなさい」
「ぼ、ぼぼ、ぼくは主様の、し、し、しもべですからっ!」
「扉の代わりに、厚い布で入口を塞ぐ準備をしておくのです。命令です」
「わ、わわわ、わかりました」
しょげたティナという美少女が、うなだれて奥に入っていく。
かわりに、2メートルはあろうかという、黒い羊が目をギラつかせて外に出て来た。
「ぴきぃっ……ジンギスカン!」
「何いってるんだ、チビ姫は」
呆れつつ、アールがソッと私を庇ってくれる。
羊ことゼファーは、あきらかな敵意で、ジロジロと私を観察した。
「本当に小さい。こんな幼子を使うとは、女神もなんと残酷な事を」
おい? なんか久しぶりに真面な感想を聞いた気がするぞ?
とりあえず、アールの背後にコッソリ隠れつつ、ソロリと顔を出して、引きつりつつニッコリと愛想笑いをした。
「おやまぁ、食べたい程に可愛いですねぇ」
「うぴぴぃぃぃぃーっ!!」
ニヤリと笑った羊の迫力と怖さを、おわかり頂けるだろうか?
怖いんだよ! 金色に黒目の横線入って怖いんだってば!
あっ…。
……。
ショババーっ……!!
……。
とうとう、私は乙女としての最後の大事な砦が崩壊してしまった。
カボチャパンツは、失禁した私によって失われ、足元には小さな水たまりが出来たのだった。
死にたい……。
「まゆまゆ!」
「おやおや、仕方ない。ティナ前言撤回です。このチビを綺麗にしてやりなさい」
「じゃ、お邪魔しまーす」
「待ちなさいアールシャンテス! お前は何を気軽に……、ったく、とっとと、そっちの小僧も入りなさいっ!」
ブツブツ言いながらも、私達は中に入る事を許されたのだが、私の心は死んでいた。チーン。
こうして中に入るとわかる小さな間取りは、入ってすぐが居間兼玄関。
奥には寝室や台所、小さな保存室に物置、そして風呂とトイレが設置され二階に続く階段もある。
見た目よりコンパクトながら、機能性は十分だ。
まあ、私はそれ所じゃないんですけどね。
「ぴぃっぴぃっ」
「うんうん、大丈夫。ほ、ほほ、ほら笑って」
「笑えるかーっでしゅ!」
大事な何かを失った悲しみが、お前にわかるわけなかろう!
もう世界なんて滅んでしまえ! とグシグシと泣いている私に着替えをさせるティナ。
「ぼ、僕の小さな時の服だけど、い、い、いけると思う」
「今時流行の僕っ娘なんか、嫌いでしゅ!」
「あ、あ、あ、なんかわかんないけど、ごめんね」
奥の洗面所で着替えさせられつつ、脳内ではこの記憶を皆から消去するには、やはりしゅーさん以外は消し去るしかないのかまで思いつめていた。
心の中に、今、魔王が降臨している。
お前も、ピー(自主規制)にしてやろうかーっ!!
新しいおパンツに履き替えられ、汚れたパンツは手洗いでティナとやらが綺麗にしてくれた。
一応、背負っていたリュックに一枚パンツは入れられていたのだ。
私の濡れたパンツを小さな桶で手洗いするティナに、自分ですると告げたのだが
「小さい手がシモヤケになっちゃうよ。ぼ、僕は、つ、冷たいの、得意だからっ」
と手際よく洗って、暖炉の前に持っていき、乾かしてくれた。
そう、皆が集まる部屋の暖炉にだ。
生暖かいパンツへの優しい視線と、魂が死亡して時間停止している私を置いて、皆が居間で語り合っていた。
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