冥界からのラブソング

ルサルカ

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第六話

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 それから一週間ほどたった後、わたしはアキオに呼び出される。
 空が燃え上がるように赤く染まる夕暮れ時に、わたしはアキオの家にある音楽室に入った。
 その日もミツオは来ず、わたしはアキオと二人きりだ。
 部屋に入るなり、アキオはこう言った。

「これは、出会いと別離の音楽なんだよ」

 わたしが問いかける眼差しでアキオを見ると、アキオは笑みを浮かべた。

「プラジュニャー・パーラミター・ナヤを解析して、アレンジしたんだ。
 十個ほどのポリリズムがループして定期的に収束し、また拡散する。
 その周期は少しずつずれてゆき、まるで螺旋を描き上昇してるみたいだ」

 困惑するわたしに、アキオは譜面をわたした。
 それはわたしたちが定番としているアイリッシュ・トラッドの、譜面だ。
 『麦の穂を揺らす風』が元々のタイトルだが、ミツオが色々改変し音楽的にもアキオがいじっている。
 プラジュニャー・パーラミター・ナヤを取り入れ、さらにアキオは改変したらしい。

「ミナコ、君に歌ってほしい」

 アキオの言葉にわたしは、頷く。
 アレンジはされているようだが、歌の部分はそう変わっているわけでは無さそうだ。
 その歌は、元々はこんな歌詞だった。
 ふたつの愛が、ある。
 恋人への愛と。
 祖国、アイルランドへの愛。
 そのふたつの愛に挟まれ、苦悩するひとの歌。
 ミツオはアイルランドの部分を、ダークランドと呼び替えている。
 恋人との愛に対置されるのは。
 暗黒の国への愛。
 そしてそれは、この世ならざる真実の世界への愛でもあった。
 苦悩するひとはついにはダークランドへの愛を選び、恋人は銃弾に倒れ土に還る。
 アキオは、ピアノを弾き始めた。
 わたしは、その楽曲に歌を被せてゆく。
 アイリッシュ・トラッドは静謐で、哀切と失われたものへの祈りに満ちた曲である。
 煉獄のように染まる空の下で、わたしは歌う。

「ひとつの愛は、恋人へ。
 もうひとつの、真実の新しい愛は。
 暗黒の国への、愛。
 わたしはふたつの愛に挟まれ、揺らぐ。
 けれどわたしは、行くだろう。
 暗黒の国へ。
 偽りの世界を捨て、真実の国へと」

 突然、わたしに異変がおこる。
 息が苦しくなるほど、わたしの下腹の底に欲望が巻き起こった。
 まるで、渦巻く紅蓮の炎みたいな熱となった快楽が、わたしを焼き焦がす。
 信じられないことに、わたしの下腹の底にある秘部は、激しく泣きながら蠢き快楽を亀裂の奥で生み出してゆく。
 そんな状態でもわたしは、ふたつの愛に苦悩するひとの歌を切々と歌い上げていた。
 わたしにはアキオの弾くピアノが、無数の光を撒き散らしているように感じる。
 その光の脈動を、わたしの全身が感じ取り耐え難いほど強い快楽を生み出していた。
 会陰の底で巻き起こる快楽の渦が、わたしの脊椎に螺旋状に絡みつき駆け上っていく。
 それがわたしの天頂に達したとき、わたしはエクスタシーにのみ込まれる。
 それでもわたしは、歌っていた。

「わたしは、暗黒の国へゆく」

 わたしの視界は、闇に呑まれた。
 わたしは、暗闇の中でひとり佇む。
 わたしは全裸になっており、濡れそぼってまだ快楽を求めて蠢く秘部も、愛撫を欲して固く尖った胸の先も剥き出しであった。
 わたしは恥知らずな快楽に犯されていたが、それを隠す術がない。
 気がつくと、わたしのとなりにアキオがいた。
 アキオはわたしと同じで全裸になっており、下腹のものを固く屹立させている。
 わたしとアキオは、手をつなぎ闇を見つめていた。
 ああ、これは夢なのだわと、わたしは思う。
 気がつくとわたしとアキオは強く抱きしめ合い、口づけを交わしていた。
 わたしたちは互いの舌を絡め合い、互いの口の中を溶け合わせる。
 アキオの下腹で屹立したものが、わたしの下腹に触れ熱を伝えてきた。
 それは熱く脈打っており、先端からこぼれ落ちる涙がわたしの下腹にある毛に覆われた部分を濡らす。
 わたしの胸は、アキオの胸に押しつぶされ先端の固く尖ったところは形を変えてアキオの胸に擦り付けられる。
 わたしたちは夢中で互いの身体を溶け合わそうとするかのように、絡み合わせた。
 やがてアキオの固く屹立したものが、わたしの濡れそぼった亀裂に挿し込まれる。
 わたしたちは唇を合わせながら、互いの秘部を強く打ち付けあった。
 無我夢中でわたしたちは、闇の中で求めあう。
 わたしはまた絶頂に達し、そのまま高みの果てで浮遊しつづける。
 気がつけば、わたしたちは闇の中を落ちていった。
 いいえ、もしかすると登っていったのかもしれない。
 わたしたちは闇の中を飛行し続け、その遠い果てに何かを感じる。
 そこはきっと、とても静謐で平穏な場所であるはず。
 わたしたちは、そこへ向かって落ちてゆく、あるいは昇ってゆく。
 わたしは微かに、その存在を感知する。
 何か、そう、大いなる怪物とでもいうような何かが。
 わたしの存在を感じ、遥か遠くで身動ぎをしたかのようであった。
 それがもし目覚めることがあれば、おそらく世界が崩壊するような恐るべき存在をわたしは平穏の果てに感じる。

 わたしは夢から、醒める。
 わたしはアキオのそばで、歌をうたい終わっていた。
 わたしの身体には、軽く疼きが残っている。
 夢の残照みたいなものが、わたしの奥で渦巻いていた。
 ピアノの演奏を終えたアキオが、わたしに語りかける。

「心配ないよ、ミナコ。君は、成功したんだ」

 わたしの瞳から、涙が溢れる。
 アキオは優しく微笑みながら、その涙を指ですくう。

「君は魔法の国を、垣間見た。それを、忘れないで欲しい」

 わたしはその話を信じてはいなかった。
 わたしは魔法ではなく、ただの不思議な夢をみただけだと。
 そう、思っていた。

 終わりの日がくるまで。

 その瞬間まで。
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