冥界からのラブソング

ルサルカ

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第九話

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 ミツオはある日、稲妻旅団の終了を宣言した。
 ミツオの気まぐれで始まったものであれば、ミツオの気まぐれで終わっても不思議はない。
 しかし、当時のわたしとアキオ以外のメンバは納得せず、終了する理由をミツオに問うた。
 ミツオは笑みを浮かべ、わたしを見つめながらいった。

「愛したからさ」

 あっけにとられたメンバの前で、ミツオは平然と宣言した。

「ミナコをおれが愛したからだ。
 もうミナコの歌をおれ以外の人間に聞かせる気は無い」

 その理由は、本気かどうか判断しかねた。
 いずれにせよ、馬鹿らしくなったのか、メンバは質問する気を無くし、そのまま議論することなく帰っていった。
 わたしを含めて。
 後に残ったのは、アキオとミツオだけだった。
 ミツオはアキオの目の前でわたしを抱きしめると、わたしの唇を奪う。
 わたしの口の中に、ミツオの舌が侵入しわが物顔に動き回る。
 わたしは、ミツオの顔に平手打ちをくらわせた。
 ミツオはげらげら笑いながら、わたしを離す。
 ミツオは、嘲るような笑みを浮かべアキオを見る。
 アキオは、無言のままだ。

「何か、言うことはないのか?」

 ミツオの問いかけに、アキオはゆっくりと首を横に振る。

「何も、ないさ」

 ミツオは、残忍な笑みを浮かべる。

「ミナコは、もらっとくぜ」

 アキオは無言のまま、踵を返した。

「好きにするがいい」

 そのまま、アキオは立ち去る。
 ミツオは愉快そうな笑みを浮かべ、わたしを見た。
 わたしは、軽くため息をつく。

「あなた、リリィと付き合ってたんじゃあないの」

 わたしの言葉に、ミツオは苦笑する。

「抱きはしたがな、あいつは今ごろアムステルダムの街を放浪してるぜ」

 わたしは、肩を竦めた。

「なぜ、わたしがあなたの前で歌をうたうと思うの?」

 わたしの問いに、ミツオは邪悪な笑みを浮かべて答える。

「おまえの求めるおとこは、おまえを振り向かない」

 ミツオはまた口づけをするように、わたしへ顔をよせる。

「やつは、暗黒に魅入られた。
 だからやつのことは、忘れたほうがいいぜ」

 ミツオは、ひひっと笑う。

「やつにとって地上の出来事は全て偽りで、まやかしなんだ」

「あんたは、違うの?」

 ミツオは、げらげらと笑う。

「同じだがね。
 おれはまやかしを破壊すれば真実が露呈すると、信仰している。
 だが、やつにはその信仰もない」

 ミツオは、そっとわたしに頬をよせそして耳元に囁く。
 なぜかわたしは、ゾクゾクするものを感じる。

「知ってるぜ、アキオが魔法の歌を完成させていることを」

 ミツオの指が、すっとわたしの首筋を撫ぜる。
 わたしはそこから立ち上る官能の高まりを、抑えることができない。

「それは、ミナコ。
 おまえのエクスタシーをトリッガーとして魔法が発動される」

 ミツオの指は首筋から胸へさらに腹部から股間へと下ってゆく。
 わたしは何故か逆らえずにいた。

「一度官能の高みを憶えた身体は、それを意思に関わりなく求め続ける。
 ミナコ、おまえはおまえの身体に刻まれた官能の昂りから、逃れることはできないのさ」

 いつしかミツオの指はスカートの中へと入り込み、秘めやかなところへ忍び込んだ。
 わたしの秘部はすでに濡れそぼっており、ミツオの指に絡みつく。

「なあ、おれとおまえで魔法を発動し世界を破壊しようぜ。
 おまえには、それができる」

 突然、ミツオは顔を離し指も秘部から抜く。

「今は、まだ発動しない。
 おまえが身体の欲求に屈服しおれに服従するまで待つつもりだ」

 ミツオは、ひらひら手を振りながら立ち去る。

「ま、いずれ判る。
 おれのそばにいたほうがいいってことがな。
 おれのほうが、おまえをより高みへと届かせることができるぜ」

 わたしは頬を伝う涙を感じながら、ミツオの背中を見ていた。


 その日の夜。

 アキオから電話がかかってきた。
 アキオは言った。

「君のための曲を、アレンジし直した。
 聞きにおいで」

 場所はミツオのマンション。
 昼間、ミツオが終了宣言をした場所だった。
 わたしがその部屋へ入った時、アキオはその曲を弾いていた。

 いつものアイリッシュ・トラッド。
 だけど、この前とは異なるアレンジをされている。

 真冬の夜。

 野に晒された白骨を、玲瓏と輝く月が照らす。

 そして、そこへ静かに雪が降りそそぐ。

 そんな、曲調だった。

「ミツオはどこなの」

 わたしの問いかけに、アキオは唐突に演奏を中断する。

 カーテンを開き、向かいのビルを指さす。
 そこは、ミツオの住むマンションと同様の高層マンションだった。
 そこから、一人の男が飛び降りる。

 悲鳴。

 しばらくして、サイレンが鳴り出す。

「まさか、今のが」

 わたしの言葉にアキオは、少し皮肉な笑みを浮かべ答える。

「君の歌は、君だけのものだ」
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