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1.婚姻
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私、ブランシュ・アルトワは冷たいご令嬢らしい。もっと端的にいうならば、性格が悪いらしい。
腰まで届く濃紺の長い髪につり上がった水色の瞳は見る者に冷たい印象を与えるため、外見と内面を表した“冷血令嬢”だなんて陰では言われており、様々な噂話が飛び交っているようだ。
そんな私の父は元王弟であり、現筆頭公爵。
一人娘で公爵令嬢である私は物心ついた頃から勝ち気で傲慢に育った。両親は私に甘々だから、誰も私を注意する者はいない。
いつの頃からか、気に入った従者に無理難題を言っては困らせたり言葉で責め立てるのが私の密かな楽しみになっていた。
人の噂話だなんて大抵が嘘で作り上げられたものだけれど、こと私に限っては事実と言って良いのかもしれない。他人にどう思われようと私の知ったことではないけれど。
そんな私に縁談が届いた。何と、隣国の王太子のフェリクス・オルレアン殿下。年は私と同じ20歳。
一国の跡取り王子の結婚相手になぜ私が選ばれたのか、全く理解できない。まさか私の悪評を事前に調べられないほど隣国の王家は無能なのかしら?
そういえば、隣国の王太子は“氷の鬼畜王子”だなんて二つ名がついていたことを思い出した。
なるほど、冷酷で冷徹なお方なのだろう。未来の王の妻の座とはいえ、国内ではそのような血も涙もない殿下のお相手を務められるご令嬢は見つからなかったのかもしれない。何しろただの“氷の王子様”じゃなくて“氷の鬼畜王子”だものね。
それで似たような噂を持っている私に白羽の矢が立ったわけね。
当然、この縁談を断ることなど実質不可能だ。お父様とお母様は無理して嫁ぐことはないと最後まで反対してくれたけれど、私も高位貴族の娘。どんなに冷たい方であろうとも、王太子殿下の妻なら望むところよ。愛のある結婚だなんて元より期待していないわ。
◇
「また会えて嬉しいよ。ひと目見た時から心を奪われたんだ。この2年間、ずっと君のことだけを想ってきた。君のことは一生大切にすると誓おう」
ひとつに結んださらさらの銀髪に、切れ長で紫色をした瞳の王子様。出会ってすぐに捧げられた愛の言葉。
情熱的な言葉とは裏腹に、私に向けられる瞳はとても冷たい。二つ名通り、冷淡なお方みたい。本当に私のことを大切にしてくれるのかしら。
彼が言うには、2年前に私に一目惚れをしたらしい。
その年、私の国では王位交代があった。
私の伯父にあたる国王陛下が少し早めの退位をされ、一人息子である王太子殿下が王位を継承したのだ。新しい国王誕生を祝うべく、国内はもとより国外の要人も祝いの場に招かれた。
当然我が家も参加したのだが、その祝いの場にフェリクス様も招待されていたようだ。
優秀な後継者として誉れ高いお従兄さまの晴れの舞台にウキウキとしていた私は来賓席のことなど覚えていないけれど、どうやらその時にお眼鏡にかなったらしい。
瞬く間に婚姻の儀が執り行われ、初夜がやってきた。
これから私は王子の慰み者になる。何てつまらない時間なのかしら。早く終わらせてくれないかしら。
そんな事を思いながら、肌触りのよい真っ白なネグリジェを纏い、広々とした夫婦の寝室のベッドの上でフェリクス様を待っていた。
腰まで届く濃紺の長い髪につり上がった水色の瞳は見る者に冷たい印象を与えるため、外見と内面を表した“冷血令嬢”だなんて陰では言われており、様々な噂話が飛び交っているようだ。
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一人娘で公爵令嬢である私は物心ついた頃から勝ち気で傲慢に育った。両親は私に甘々だから、誰も私を注意する者はいない。
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そういえば、隣国の王太子は“氷の鬼畜王子”だなんて二つ名がついていたことを思い出した。
なるほど、冷酷で冷徹なお方なのだろう。未来の王の妻の座とはいえ、国内ではそのような血も涙もない殿下のお相手を務められるご令嬢は見つからなかったのかもしれない。何しろただの“氷の王子様”じゃなくて“氷の鬼畜王子”だものね。
それで似たような噂を持っている私に白羽の矢が立ったわけね。
当然、この縁談を断ることなど実質不可能だ。お父様とお母様は無理して嫁ぐことはないと最後まで反対してくれたけれど、私も高位貴族の娘。どんなに冷たい方であろうとも、王太子殿下の妻なら望むところよ。愛のある結婚だなんて元より期待していないわ。
◇
「また会えて嬉しいよ。ひと目見た時から心を奪われたんだ。この2年間、ずっと君のことだけを想ってきた。君のことは一生大切にすると誓おう」
ひとつに結んださらさらの銀髪に、切れ長で紫色をした瞳の王子様。出会ってすぐに捧げられた愛の言葉。
情熱的な言葉とは裏腹に、私に向けられる瞳はとても冷たい。二つ名通り、冷淡なお方みたい。本当に私のことを大切にしてくれるのかしら。
彼が言うには、2年前に私に一目惚れをしたらしい。
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当然我が家も参加したのだが、その祝いの場にフェリクス様も招待されていたようだ。
優秀な後継者として誉れ高いお従兄さまの晴れの舞台にウキウキとしていた私は来賓席のことなど覚えていないけれど、どうやらその時にお眼鏡にかなったらしい。
瞬く間に婚姻の儀が執り行われ、初夜がやってきた。
これから私は王子の慰み者になる。何てつまらない時間なのかしら。早く終わらせてくれないかしら。
そんな事を思いながら、肌触りのよい真っ白なネグリジェを纏い、広々とした夫婦の寝室のベッドの上でフェリクス様を待っていた。
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