異世界に飛ばされたおっさんは何処へ行く?

シ・ガレット

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タクマの決心

王国の決意

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 書類を読み進める内にタクマはパミル王国が本気で人種について考えていると思った。

「……うん。これを王国が本気でやるのは素晴らしいと思う。だけどこれを本気でやるのか?」

 タクマの書類には様々な方策も記されているが、その中には素人の自分から見ても明らかに他国を刺激するようなものもあった。この方策によって物騒な事になるリスクもあるのではと懸念を示したのだ。
 内容を見て表情を曇らせるタクマに、補佐であるアークスが答える。

「タクマ様。この方策の数々はすぐに施行するようなものではないかと。何年、何十年と掛けて外へと向けて下準備を施した上で行っていくのです。恐らく最初は国内、それも王都から始めるのでしょう。自分に一番近い所から貴族の治める領へと。しっかりと浸透させ、それからの話です」

 タクマは基本的にとてもせっかちだ。書類を見た瞬間に王国はこれらの方策を進めていくとばかりと思っていた。違うのだ。年単位、または世代を超えるほどの時間を使っての大改革を行う。
 この書類はいわば王国の決意証明であるとアークスは言う。

「この人種の問題はずっとこの世界にあるものです。そんなすぐに変える事は難しい。確かに私たち……いえ、サトウ家とでも言いましょうか。サトウ家にはそれが出来ている。だからこそタクマ様は王国がすぐに方策を進めると考えたのですよね」
「……そうだな」

 タクマが頷くとアークスはにこりと笑い話を続ける。

「これまで何世代も変えることが出来なかった問題をいきなり掘り下げるような真似は、タクマ様の懸念通り相当に危険です。だからこそパミル王は自分の人生、王国の未来を掛けて行うと言っているのだと思います。内容をもう一度ご覧ください。他国への宣言については一切期日が記されておりません。それに王都以外の領に関してもです」

 アークスの言葉通り、書類には対外的な宣言に明確な期限はない。さらに王都以外の領に関しても同じである。王都で方策を進め、それをモデルケースにして拡げていくつもりのようだ。

「私たち家族のような狭い範囲では、普段の行動や言動で皆にも浸透しやすいです。ですが国となると話は違います。だからこそ王国は時間を掛けてこの問題に真正面から向かい合い、変えようと考えているのです」
「なるほどな……でもいろいろな変化もある中でというのが気になるんだよ。」

 アークスの説明を受け、タクマは王国の意図を理解は出来た。だが不安は拭えない。一度に進める事柄が多いと全てが中途半端になってしまうのではないか。そう思ってしまったのだ。
 タクマの表情で分かるのか、アークスは更に続ける。

「懸念は最もだとは思いますが、相手はパミル王国。国なのです。こうした書類が出来たという事は国が出来ると確信しているからとも言えます。王族や貴族は出来ない事をこうして書類や言葉には絶対しないものですから。それに……王国側はモデルケースを見ているのですよ。タクマ様の家族と聖地になったトーランで」

 タクマはようやく理解する。王国側がこうしてやると断言する理由を。実際に目にしていたのだ、種族など関係なく生きている者たちを。一つの家族という括りで成功させたタクマ、その彼の考えに共感し、自らの領地でエルフの受け入れに成功しているコラルが治めるトーランを。ならば自分たちにも出来ない筈はないし、必ず変えられるのだと確信があるからこそ決意表明をしたのだ。
 タクマが表情を和らげると、それまで黙ってやり取りを見ていたプロックが口を開く。

「商会長。お主が国の将来など考える必要はない。パミル王もそれを望んではおらんよ。ただ、聞いてほしかったのじゃろう。自分の決心をな。知っての通り王は仕事は出来る。じゃが心は弱い。だからこそ自分の選択を言っておきたかったのじゃろう」

 プロックの言葉にタクマは肩の力が抜ける気がした。パミル王国が変革を急いている訳ではない事がしっかりと分かったからだ。そしてパミルが思った以上に自分に気を許してくれているのだと感じ嬉しくもあった。

「確かにここに書かれているのは世界にも影響がある事じゃろう。じゃが時間が解決してくれる。少しずつ浸透させ拡がっていく。そうすれば影響など些末なものとなるからのう」
「確かに……プロックやアークスの言う通りかもな。これはパミル様の決意だと思っておくよ」

 そう言ってタクマは書類を閉じた。するとプロックから食事を一緒にどうかと提案された。これまで仕事の話ばかりであっていたので、せっかくの機会に食事をしたいと希望したのだ。

「儂は副商会長、エンガード夫妻も商会長の傍付き、アークス殿は臣下となった。これからも会う機会も多かろう。ここで縁を深めるのもありじゃと思うのじゃが」

 タクマとしてもそれはありがたい事だった。自分の近くに居てくれる彼らとはじっくりと話したいとも思っていた。タクマは願ってもないと笑みを浮かべて頷く。

 
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