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ノエル
メリークリスマス
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ゆっくりと歩きながら光の中に埋もれる。
寒いけど、とても綺麗だ。
少しふわふわした気分で歩いていると灰咲さんが寄ってきて、俺と歩調を合わせてのんびりと歩いてくれた。
――クリスマスイブ……、ああ、もう日付が変わっているからクリスマスか。
今までイブもクリスマス自体も楽しいと思ったことが無いから、どちらでも俺は構わないんだけど。
だけどこの寒空の中、眩い光の中に埋もれて歩くこの感覚……、この初めての気持ちはきっと俺は一生忘れないだろう。例えこの先何度もこんな経験を味わえたとしても……。
住宅街を抜けて、家へと戻って来た。
靴を脱ぎ、リビングへ向かう。
……そう言えば灰咲さん、ご飯は食べたんだろうか?
いつ仕事が終わったのかも聞いてないし、夕飯のことも聞きそびれちゃった。
「あの……、あれ?」
ご飯のことを聞こうと思いながらキッチンに向かおうとした俺の目に、リビングのローテーブルに置かれている綺麗にラッピングされた大きな袋が目に飛び込んで来た。
「お前のだ。開けてもいいぞ」
……もしかして、これってクリスマスプレゼントって奴?
想いもよらないことが起きている。
俺はドキドキしながら、丁寧に袋を開けた。
袋に入っている物は……、洋服?
丁寧に包まれているそれを出してみると、見覚えのある、あの恐ろしい値段のキャメルのコートが出て来た。
「こ……、これ……」
う、嘘だろ?
何でこんな高いものが、何でこれが俺の目の前にあるの……?
震える指でコートを撫でてみる。
感じたことのない温かく柔らかな肌触りに、指先だけじゃなく唇まで震えて来た。
「お前、この間欲しいって言ってたろ? ついでだから、シャツとパンツもコーディネートしてもらった」
どうしよう。
止められそうにない。
ボロボロととめどもなく流れる涙で、俺の視界が歪んで見える。
「だって……、だって、こんな高い物……」
……あ?
「も、もしかして今まで急いで仕事してたのは……、これの……?」
この高いコートを買うため?
どうしよう、どうしよう。
もう……!
「灰咲さん……っ!」
止められない。止まらない涙なんて、もうどうだっていい。
俺は、少し離れたところで面映ゆそうに俺を見ている灰咲さんに、駆け寄って飛びついた。
「ありがとう……! ありがとう、ありがとう……、ごめんなさい……っ」
無理させてごめんなさい。文句ばっかり言っててごめんなさい。
そして……、すごくありがとう。
初めてなんだ。
クリスマスプレゼントだなんて、俺なんかには無縁だって……、ずっとそう思ってた。
だからまさか、俺の為に……、こんな切羽詰まった仕事をしてくれていたなんて知らなかったし想像も出来なかったんだ。
ギュウッと灰咲さんに抱き着く俺の背に、灰咲さんも優しく腕を回してくれた。
寒いけど、とても綺麗だ。
少しふわふわした気分で歩いていると灰咲さんが寄ってきて、俺と歩調を合わせてのんびりと歩いてくれた。
――クリスマスイブ……、ああ、もう日付が変わっているからクリスマスか。
今までイブもクリスマス自体も楽しいと思ったことが無いから、どちらでも俺は構わないんだけど。
だけどこの寒空の中、眩い光の中に埋もれて歩くこの感覚……、この初めての気持ちはきっと俺は一生忘れないだろう。例えこの先何度もこんな経験を味わえたとしても……。
住宅街を抜けて、家へと戻って来た。
靴を脱ぎ、リビングへ向かう。
……そう言えば灰咲さん、ご飯は食べたんだろうか?
いつ仕事が終わったのかも聞いてないし、夕飯のことも聞きそびれちゃった。
「あの……、あれ?」
ご飯のことを聞こうと思いながらキッチンに向かおうとした俺の目に、リビングのローテーブルに置かれている綺麗にラッピングされた大きな袋が目に飛び込んで来た。
「お前のだ。開けてもいいぞ」
……もしかして、これってクリスマスプレゼントって奴?
想いもよらないことが起きている。
俺はドキドキしながら、丁寧に袋を開けた。
袋に入っている物は……、洋服?
丁寧に包まれているそれを出してみると、見覚えのある、あの恐ろしい値段のキャメルのコートが出て来た。
「こ……、これ……」
う、嘘だろ?
何でこんな高いものが、何でこれが俺の目の前にあるの……?
震える指でコートを撫でてみる。
感じたことのない温かく柔らかな肌触りに、指先だけじゃなく唇まで震えて来た。
「お前、この間欲しいって言ってたろ? ついでだから、シャツとパンツもコーディネートしてもらった」
どうしよう。
止められそうにない。
ボロボロととめどもなく流れる涙で、俺の視界が歪んで見える。
「だって……、だって、こんな高い物……」
……あ?
「も、もしかして今まで急いで仕事してたのは……、これの……?」
この高いコートを買うため?
どうしよう、どうしよう。
もう……!
「灰咲さん……っ!」
止められない。止まらない涙なんて、もうどうだっていい。
俺は、少し離れたところで面映ゆそうに俺を見ている灰咲さんに、駆け寄って飛びついた。
「ありがとう……! ありがとう、ありがとう……、ごめんなさい……っ」
無理させてごめんなさい。文句ばっかり言っててごめんなさい。
そして……、すごくありがとう。
初めてなんだ。
クリスマスプレゼントだなんて、俺なんかには無縁だって……、ずっとそう思ってた。
だからまさか、俺の為に……、こんな切羽詰まった仕事をしてくれていたなんて知らなかったし想像も出来なかったんだ。
ギュウッと灰咲さんに抱き着く俺の背に、灰咲さんも優しく腕を回してくれた。
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