俺を助けてくれたのは、怖くて優しい変わり者

くるむ

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ケジメをつけるために

龍の過去

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「そろそろ雅高も帰ってくる時間だな。あれも会いたがっていたから、少し相手をしてやってくれ」
「はい」
「杉藤!」

叔父の一声で襖がスッと開いた。
そして手早く俺の荷物を取って立ち上がり、また案内するように俺の前を歩いていく。
俺は叔父に一礼し襖を閉めて、杉藤の後に続いた。

昔俺が住んでいた家。
だがもうここは俺の物では無くて、客の立場にあるという事を実感する。

……まあ、それも俺の望んでいたことだからな。

昔俺が使っていた部屋に案内されて中に入った。

「…………」
「懐かしいですか?」

「そう、だな……」

部屋の感じは微妙に違ってはいたが、ほぼ俺がいたころと変わらない感じだった。
勉強机も、ベッドも同じ配置のままだ。
だが、本棚には俺の物ではない本や雑誌が置かれており、この部屋が活用されていることを物語っている。

「ここは、誰か使っているのか?」
「特に誰かの部屋、という形で使われてはいません。本当は雅高さんが使うはずだったんですが、当の本人が、龍兄がいつか帰ってくるかもしれないだろ……と言い張って、別の部屋をお使いになられましたから……」
「そう……か」
「はい。ですから今は、その時その時に応じて適当にこの部屋は活用されています」
「雅高は、今……?」
「そろそろ大学から帰ってくる頃でしょう。今は昔と違うからと言って、雅高さんもいろいろ考えて頑張っておられますよ」
「…………」

頑張って……か。その一言に苦笑いが零れた。
ようするに、今のところ組を解散しようという気にはなっていないという事なのだろう。

親父が抗争相手の連中に襲撃された時、傍に居たおふくろも巻き添えを食らって二人とも死んでしまった。悲しみも怒りも確かにあったが、でもそれよりも、もうこんな諍い事にはうんざりだった。
俺は本当は、あの時点で組を解散させたかったのだ。
だがそのころの俺はまだまだひよっこで、組を纏める力も皆を説き伏せる力も持ってはいなかった。そんな状況で両親の報復もせず組の解散を打ち出せば、内部分裂からの抗争も辞さない状況に陥っていただろう。

――俺は、結局は逃げ出したのだ。

己に纏わりつく出生というしがらみと、争いや嫌悪の世界から。

「…………」
「……龍さん?」
「――あ、ああ。すまない、少し考え事を……」
「龍兄!」

俺を呼ぶ大声と共に扉がバタンと開き、すっかり成長しきった雅高が顔を出した。
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