無自覚美少年の男子校ライフ♪

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無自覚美少年の男子校ライフ♪

蓮VS浩太

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朝、年季の入った中古の賃貸マンションのエントランスに、香月先輩が待っていた。

「香月先輩? あ、おはようございます。え、でも何で?」
「おはよう伸之助。でも香月じゃないだろ。蓮だ。呼んでみろ」

「あ、えっと…」

何だろ。候たちにはすんなりと名前呼びも出来たのに、なんだか香月先輩には抵抗がある。
…抵抗。う~ん、それよりは、緊張が近いか?

分けの分からない葛藤に、手に汗を掻きながら先輩を窺うと、彼は小首を傾げながらじっと僕を見ていた。

ええ~い、もう。
きっと多分、変に顔が綺麗過ぎるから緊張しちゃうだけだ。しかも油断するとべたべたくっついてくるから、最初は気持ち悪いとも思ったわけだし!

だからこの人に対する僕のわけの分からない感情は、緊張と警戒心だけだ、よし!

「蓮先輩!」

妙な葛藤をはねのける勢いで、威勢よく先輩を呼んだ。
これでどうだ!と言わんばかりの僕の態度に、なぜだか香月…いや、蓮先輩はキョトンと目を丸くした。
だけどすぐに口元を緩めて、おかしそうに笑う。

「上出来。これからもそう呼べよ。だけど伸之助…」

「な、なんです?」
意味深に変な所で言葉を止めるから、また妙に緊張してしまった。

「もうちょっと恥らって言ってくれたら、もっと可愛かったんだけどな」
「な!? 可愛いってなんですか? 僕は男ですよ!」

僕の抗議にニコニコしている先輩を見て、昨日の事が脳裏を過ぎる。

…そういえば、先輩の後ろにいた取り巻きのファンの人たちの中には、アイドルみたいな可愛いやつらが結構いたよな。
もしかしてそれが、先輩の好み……?

あ、れ? 何だろ…モヤモヤする。

「こーら、なに考えてるんだ? そろそろ学校へ行こう。それから忘れるなよ。俺と伸之助は恋人同士なんだからな」
「あ…」

そうだった。木村先輩から僕を守るために恋人のフリをしてもらうんだった。

「でもあの…、迷惑じゃ…」
「迷惑? まさか、俺は――」
「伸之助!」

蓮先輩の言葉を遮るような大声で、浩太の声が僕を呼んだ。

振り向くと、急いで走って来たかのように汗を掻いた、浩太が立っていた。

「浩…太?」

汗だくになって肩で息をしている浩太に目をぱちくりさせていると、浩太が大股で近づいてくる。

そんな浩太に気を取られていたら、いつの間にか蓮先輩が近くに来て、僕の肩を抱き寄せ首筋を撫でた。

「…ひゃんっ!」

ぞくんと変なものが背筋を走り、とっさに恥ずかしい声が漏れた。僕は慌てて両手で口を覆い、先輩を睨む。
睨んでいるのに先輩は、満足そうに頬を緩めて僕を見つめているんだ。
ホントにもう! この人は…。

「睨んでても可愛いな。…もちろん声も」

「~~~っ」

とんでもない事を言いながらめちゃくちゃ甘い目で僕を見るから、凄く居心地が悪いんですけど…。

しかも可愛いってなんだよ! もちろん声もって…。こ、声もって…。
カーッと血が上って、顔が熱くなる。遊ばれてる、絶対これって遊ばれてるよ、僕。


「香月会長」

蓮先輩に煽られて混乱していると、堅く尖ったような声で、浩太が先輩を呼んだ。
それにつられて浩太の方を向くと、浩太は僕の真っ赤であろう顔を見て眉をしかめている。

「伸之助はこういう事に免疫が無いんです。会長の感覚で、伸之助を弄ばないで下さい」

浩太は怒ったようにそう言うと、僕の手を取って引き寄せようとした。そこをすかさず先輩の手が、止めに入る。

一見怖そうな浩太だけど、その実、ものすごく友達思いだ。きっと僕の事を心配してくれてここに来てくれたに違いない。セクハラ紛いの事を平気でしてくる蓮先輩に、警戒するのも無理はないだろう。
僕も最初は、変な気持ちの悪い人扱いしてたけど、今はそれだけではない優しい人なんじゃないかって事も分かり始めている。
だから浩太にも、ちゃんと説明しなきゃと思ったんだ。

「あのさ、浩太…」
「勘違いしないでくれないかな」

僕とほぼ同時に先輩が答えた。だけど先輩の声の方が大きかったので、僕の方が途中で言葉を引っ込めてしまった。

「俺は伸之助を弄んでなんかいない。本気で…本気で伸之助の事が好きなんだ」

キュン!

て、ててて、なに今の!?
キュンって、今キュンって言った!?

後半の言葉を僕を見ながら真剣に告げた先輩に、全身が固まって、まるで時が止まったように先輩以外何も見えなくなってしまった。しかもさっきから心臓がバクバクと騒がしい。

ちょ、ちょっと待て。なんだよコレ…。
コレ…。


「伸之助!」

突然浩太に怒ったように呼ばれて我に返った。先輩から視線を外して浩太を見ると、彼は怖いくらい不機嫌な顔をしている。
元々怖い顔なのにそんな顔するなよ。ビビるじゃねーか…。

「そろそろ行こうか」

その微妙になりかけた空気を打ち破るように、先輩の明るい声が響いた。そういえばさっきから立ち止まったままだ。
僕は未だ強張った顔をしている浩太を呼んで、登校を促す。
浩太はむすっとしたまま返事もせず、だけど僕の横に並んだ。

な、何だろな。コレ。

僕を真ん中に、両脇を先輩と浩太が挟む。
片っ方からにこやかな、もう片方からは不機嫌な空気が僕を圧迫する。

これは教室に着いたらちゃんと、先輩は思ったよりまともな人だと、浩太に教えてあげなきゃいけないな。

友達思いの彼に感謝しつつ、ちょっぴり心の中でため息を吐く僕だった。
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