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第一章
異世界人!!
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「壱琉……? 大丈夫か?」
「兄さん、気分はどう?」
みんな心配して兄さんを覗き込む。
(まだ兄さんと確証は得られてないけど、そう信じたい!)
未だぼーっとした表情なのが気になるけど、きちんと僕と目が合うと、一瞬表情が動いたような気がした。
「にい……」
「失礼します」
ノックと共に、僕らが頼んだおかゆを持って先ほどの女性が入って来た。さっきは余裕がなくて気が付かなかったけど、なかなかの美人だ。
「おかゆをお持ちしました。厨房が立て込んでおりましたので私が作りましたので、お味はそこそこかと思いますけど……」
「とんでもないです! こちらこそお手間を掛けさせてすみませんでした。……壱琉、お前腹減ってるんだろう? おかゆだ、食べろよ」
慌ててきてくれたんだろう。賄いに使いそうな簡素なお盆に、1人用の土鍋と器を乗っけてくれていた。女性は、兄さんのベッドの脇にお盆を乗せる。
お腹を空かしているはずの兄さんは、なぜか女性に目が釘付けだ。
……もしかしてこの人、兄さんの好みのタイプなの?
すごーく不愉快! めっちゃ不愉快!
久しぶりに再会した弟よりも、美人に目が行くなんて兄さん腐ってるよ!
「俺の……? 食べてもいいのか?」
兄さんが窺うように僕らを見渡した。
それにみんな「うん」と頷いて、かゆを食べるように勧める。
「そうか」
「キャアッ!?」
えっ!?
言うなり兄さんは女性の手を引っ張って組み伏せ、圧しかかってキスをしている。
「なにしてんの、兄さん! 止めてよ!」
「壱琉! お前何してんだ! 止めろ、血迷ったか!?」
みんなで兄さんを女性から引き離そうとベッドに近寄る。手を伸ばして引き剥がそうとしたその時、女性の腕が強請るように兄さんの背中に回った。
「あ……」
「ええっと……、この場合……」
「合意?」
「ええっ!? なに言ってんのみんな、合意って! だからって……」
「うん……」
初めて出合って組み伏せられているっていうのに、明らかにこの女性は兄さんのキスに酔いしれているようだ。僕の目にもこの女性は、自分から兄さんを受け入れているように見える。
……そんなにいいの? 兄さんのキス……、て、じゃなくてっ!
「兄さん、お願いだから止めてよ! 目を覚ましてっ!!」
やっぱりこんな兄さんは見ていたくない!
兄さんはストイックで真面目で、男らしくて世界一かっこいい人なんだ。
こんな女性に飢えた兄さんなんて知らないよ!
「ほら、志音。邪魔になるから出るぞ」
言うなり大翔さんが僕の腕を引っ張った。
「え? ちょっと待って、何で僕らが出るの? このまま兄さんをあの人と2人っきりにするってこと?」
「……志音、あいつだって男だ。しばらく女性との接触も無くて溜まってたんだろ。あの様子じゃあの人もノリノリみたいだし。却って俺らが邪魔ものだ、ホラ」
新さんたちまでが同意して、僕の背中をグイグイと押してとうとう僕らは部屋から出る事になってしまった。
☆☆☆☆☆☆
「そろそろいいんじゃないか?」
ホテルのラウンジでしばらく時間を費やしてもう一時間が過ぎていた。
……そろそろってなんだよ。
ぶーたれる僕に、3人は苦笑しながら宥めて引っ張る。
一応カギは新さんが持って出ていたので、それで開けて、恐る恐る中を窺った。
「入るぞ、いいか?」
「ああ、おかげで腹も満たされた」
快活な返事に僕らはホッとして、ずかずかと奥の方へと進んだ。
あれ?
なに、コレ。おかゆ手付かずじゃないか。
「おい、壱琉。どういうことだ? おかゆちっとも減ってないぞ?」
そうなんだ。おかゆには、一口も手を付けられた形跡がない。
それなのに、兄さんは明らかにさっきと打って変わって血色がよくなっている。……どういうこと?
しかも、さっきの女性従業員の姿が無い。
「……あの人、どこに行ったの?」
……もしかして、事後で……シャワー浴びてるの?
そう考えた途端、胸が抉られるような気持になった。
……そりゃ、兄さんだって男だもの。女性とのそういうアレコレもしてないわけじゃないんだろうけど……。
「いないよ。喰ったから」
「壱琉。お前な、冗談聞いてるんじゃないんだぞ」
「冗談なんか言ってない。それに俺は、壱琉なんて名前じゃない」
「ええっ!?」
「はあっ!?」
「嘘っ!」
「嘘だ! 兄さんじゃなかったら、誰なんだよ!!」
みんなの驚きに眉を顰めた兄さん……、いや、目の前の男は、一つため息を吐いた後口を開いた。
「俺は違う世界の人間だ。名前なんかない」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
僕らは呆気に取られて兄さん……じゃなかった。男を見た。
「兄さん、気分はどう?」
みんな心配して兄さんを覗き込む。
(まだ兄さんと確証は得られてないけど、そう信じたい!)
未だぼーっとした表情なのが気になるけど、きちんと僕と目が合うと、一瞬表情が動いたような気がした。
「にい……」
「失礼します」
ノックと共に、僕らが頼んだおかゆを持って先ほどの女性が入って来た。さっきは余裕がなくて気が付かなかったけど、なかなかの美人だ。
「おかゆをお持ちしました。厨房が立て込んでおりましたので私が作りましたので、お味はそこそこかと思いますけど……」
「とんでもないです! こちらこそお手間を掛けさせてすみませんでした。……壱琉、お前腹減ってるんだろう? おかゆだ、食べろよ」
慌ててきてくれたんだろう。賄いに使いそうな簡素なお盆に、1人用の土鍋と器を乗っけてくれていた。女性は、兄さんのベッドの脇にお盆を乗せる。
お腹を空かしているはずの兄さんは、なぜか女性に目が釘付けだ。
……もしかしてこの人、兄さんの好みのタイプなの?
すごーく不愉快! めっちゃ不愉快!
久しぶりに再会した弟よりも、美人に目が行くなんて兄さん腐ってるよ!
「俺の……? 食べてもいいのか?」
兄さんが窺うように僕らを見渡した。
それにみんな「うん」と頷いて、かゆを食べるように勧める。
「そうか」
「キャアッ!?」
えっ!?
言うなり兄さんは女性の手を引っ張って組み伏せ、圧しかかってキスをしている。
「なにしてんの、兄さん! 止めてよ!」
「壱琉! お前何してんだ! 止めろ、血迷ったか!?」
みんなで兄さんを女性から引き離そうとベッドに近寄る。手を伸ばして引き剥がそうとしたその時、女性の腕が強請るように兄さんの背中に回った。
「あ……」
「ええっと……、この場合……」
「合意?」
「ええっ!? なに言ってんのみんな、合意って! だからって……」
「うん……」
初めて出合って組み伏せられているっていうのに、明らかにこの女性は兄さんのキスに酔いしれているようだ。僕の目にもこの女性は、自分から兄さんを受け入れているように見える。
……そんなにいいの? 兄さんのキス……、て、じゃなくてっ!
「兄さん、お願いだから止めてよ! 目を覚ましてっ!!」
やっぱりこんな兄さんは見ていたくない!
兄さんはストイックで真面目で、男らしくて世界一かっこいい人なんだ。
こんな女性に飢えた兄さんなんて知らないよ!
「ほら、志音。邪魔になるから出るぞ」
言うなり大翔さんが僕の腕を引っ張った。
「え? ちょっと待って、何で僕らが出るの? このまま兄さんをあの人と2人っきりにするってこと?」
「……志音、あいつだって男だ。しばらく女性との接触も無くて溜まってたんだろ。あの様子じゃあの人もノリノリみたいだし。却って俺らが邪魔ものだ、ホラ」
新さんたちまでが同意して、僕の背中をグイグイと押してとうとう僕らは部屋から出る事になってしまった。
☆☆☆☆☆☆
「そろそろいいんじゃないか?」
ホテルのラウンジでしばらく時間を費やしてもう一時間が過ぎていた。
……そろそろってなんだよ。
ぶーたれる僕に、3人は苦笑しながら宥めて引っ張る。
一応カギは新さんが持って出ていたので、それで開けて、恐る恐る中を窺った。
「入るぞ、いいか?」
「ああ、おかげで腹も満たされた」
快活な返事に僕らはホッとして、ずかずかと奥の方へと進んだ。
あれ?
なに、コレ。おかゆ手付かずじゃないか。
「おい、壱琉。どういうことだ? おかゆちっとも減ってないぞ?」
そうなんだ。おかゆには、一口も手を付けられた形跡がない。
それなのに、兄さんは明らかにさっきと打って変わって血色がよくなっている。……どういうこと?
しかも、さっきの女性従業員の姿が無い。
「……あの人、どこに行ったの?」
……もしかして、事後で……シャワー浴びてるの?
そう考えた途端、胸が抉られるような気持になった。
……そりゃ、兄さんだって男だもの。女性とのそういうアレコレもしてないわけじゃないんだろうけど……。
「いないよ。喰ったから」
「壱琉。お前な、冗談聞いてるんじゃないんだぞ」
「冗談なんか言ってない。それに俺は、壱琉なんて名前じゃない」
「ええっ!?」
「はあっ!?」
「嘘っ!」
「嘘だ! 兄さんじゃなかったら、誰なんだよ!!」
みんなの驚きに眉を顰めた兄さん……、いや、目の前の男は、一つため息を吐いた後口を開いた。
「俺は違う世界の人間だ。名前なんかない」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
僕らは呆気に取られて兄さん……じゃなかった。男を見た。
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