これは兄さんじゃありません

くるむ

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第二章

兄さん(一理)を説得

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パンパン!

突然掌を叩く音が聞こえて、びっくりして我に返った。

掌を叩いていたのは大翔さんで、僕のことを複雑な表情で見ていた。

「いろいろ思うところはみんなあると思うけど、まずは……え~っと、名無しだったな。こいつのことを何て呼ぼうか」

「壱琉」
「はあっ!?」

晴斗さんのつぶやきに、大翔さんと新さんが一斉に非難の目を向ける。

「だってさー、こんなに激似なんだぜ? 壱琉の方がしっくりくるじゃん」
「だからって何言ってんだよ! 本物の壱琉が戻って来た時にややっこしいだろ」
「……じゃあ、似る?」

「晴斗……。お前、少しはまともに考えろよ」

大翔さんのこめかみが、ぴくぴくと引き攣っている。どうやら本気で怒っているみたいだ。

「あの……、いい?」
「ああ、志音はどう思うんだ?」
「……僕は、兄さんの名前に似た名前を付けた方が良いと思う。同じなのはダメだけど、他の人が聞いた時に兄さんだって思われた方がこの異世界人の説明をしなくていいし、その方がかえっていいかなって思う」

「……だけど壱琉が戻って来たら?」
「その時は、似てるわけだから従弟とかなんとか言い訳できるでしょ?」
「ああ……、なるほど」

いろいろとみんなで話し合った結果、(異世界人の意向は無視)イチルの語感に似ているものにしようという事で一理イチリと名付けることに決定した。


「で、一理。お前、何でこの世界にやって来たんだ? どんな理由で?」

みんなにジッと見つめられて尋問され、兄さ……一理は居心地悪そうだ。

「理由なんて無い。……稀に時空が歪んで別の世界に入り込んでしまうことが、俺らの世界にはあるみたいなんだ。狩りをしていたら目の前が急にぐにゃりと歪んで、気が付いたらここに放り出されていた。……気を失っていたから詳しいことは分からないんだが、多分この世界にたどり着くまでに相当な日数がかかっていたんだと思う。気が付いた時には腹が減り過ぎて、狩りをしようにも俊敏な動きがまるで出来なかったからな」

「……狩りって、一理の住んでる異世界はどんなとこだよ」

「普通に男は狩りに出て野生動物を捕ってくるぞ。女は布を作り裁縫をしたりして着るものや小物などを作ったりしている。たまに大量に獲物を狩って来て鮮度が落ち気味な時は、肉を焼いて調理したりしてるな」

「…………」
「どんな生活だよ……」

「それに、たまに部族同士の争いもあってな。勝った方が負けた方を食料にすることも希にだがあるぞ」

「兄さん……じゃなかった一理、ここではそんな生活は駄目だからね!!」
「……は?」
「ここで、お腹が空いたからって言って通りがかりの誰かや、犬とか猫とか……その辺にいる人や動物を殺しちゃ絶対にだめだ。そんな事してみろ、すぐに通報されて捕まって、酷い場合には死刑だぞ」

「……死刑」
「そうだ、死刑だよ。極悪非道な犯罪を犯した人が処せられる刑罰だ。平たく言うと殺されるって事だ」
「変わった世界だな……」

「……不思議だなあ」

あんまり何にも考えていなさそうに、ぽやんと事の成り行きをただ傍観していた晴斗さんが首を傾げた。

「なんだ、突然」
「うん? だってさー、こいつ俺らと普通にしゃべってんじゃん。異世界から来てるのに、何でコイツ俺らの言葉を普通に理解出来てんの?」

「……!?」
(作者、大汗)

「…………」
「…………」
「…………」

「……まあ、あまり深く考えてやるなよ。察してやれ」
「そ、そうだよ晴斗さん。アホな作者を悩ませちゃ可哀そうだよ」

「…………」
「…………」

「……ふうん。ま、いっか。話が分かった方がスムーズにコトが進むもんな」
「そうそう、そういうこと。……で、とにかく一理!」

「……なんだよ」
「お前はここに迷い込んでしまったんだから、この世界のしきたりに従わなきゃだめだ」
「…………」
「おい、返事は?」
「…………」

大翔さんの忠告が気に入らないのか、兄さん……一理はムッとした様子で返事をしようとしない。

「おい、一理。こればっかりは守らなきゃだめだぞ。お前言ってたじゃないか。焼いた肉も食べることは出来るって」
「だが、まずい」
「不味いからってなんだよ!!」

新さんも説得しようと宥めるように話してくれてるのに、わがままを崩そうとしない兄さんに(兄さんじゃないことは分かってるよ。だけど、どうしても兄さんと混同しちゃって頭の中がぐちゃぐちゃなんだ)、僕は腹が立った。

「そんなこと言って……、捕まって、死刑になったらどうするんだよ……。それが嫌だから、……だから僕らはしちゃいけないことをして、兄さんを助け出したんじゃないか!! 酷いよ、……そんなんじゃ、あの女性も浮かばれないじゃないか……。勝手すぎるよ!!」

ボロボロと次から次へと涙がこぼれる。

分かってる。酷いのはきっと僕の方だ。
人として許されないことと分かっているくせに、兄さんに激似のこの人をどうしても失いたくなくてみんなを巻き込んだ。

だけど、

「僕はどうしても兄さんに、この世界に馴染んで欲しいんだ。……捕まってほしくないんだよ」
「志音……」


大粒の涙をこぼしながら訴える僕に、兄さんは驚いた表情で、瞬きすら忘れたように僕を凝視していた。
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