お前以外には触らせてないんだよ!

くるむ

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自習室だから、安心だろ?

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部屋に入ろうとしたところで、中から羽瀬川が教科書とノートを抱えて出て来た。

「もしかして、これから自習室?」
「おう」
「じゃあ、ちょっと待っててくれ。俺らも一緒に行く」
「わかった」
「え?」

羽瀬川の『わかった』と岡田の『え?』が被ったが、無視。あえて知らないふりを通した。
部屋に入って、必要な教科書と筆記用具を持ってササッと部屋を出る。

「お待たせ、行こうか」

案の定、岡田は不本意な表情をしていたけれど無駄な揉め事はごめんだし、これ以上和基と別れた方がいいとか変な説得をされるのはやっぱり不愉快なので、正直2人にはなりたくないんだ。

自習室は相変わらず混んでいた。
それには、ちょっと理由もある。ここには時々ふらりと先生方が立ち寄ってくれて、分からないところがあったりすると教えてくれたりもするんだ。だから部屋で勉強するよりも効率が上がるという事で、三年のたまり場にもなっている。
もちろん勉強目的なら、三年生だけでなく下級生でも出入りは自由だ。

「あ、タイちゃん!」

廊下の向こうから自習室に向かってくる一年の夕月が、羽瀬川に向かって手を振っている。ちなみに、太ちゃんというのは、羽瀬川の名前が太輔タイスケなので太ちゃんと呼んでいるようだ。……仲のよろしいことで。

空いてる席を探して四人で腰かけた。
岡田は俺の隣に座り、数学の教科書を開く。向かいに腰かけ羽瀬川たちも、大人しく勉強をしていた。
ここは遊び目的は厳禁なので、無駄口を叩くものはいない。
岡田も、時々何か言いたげに俺を見たりしていたけど、解き方を教わる以外に無駄なおしゃべりは一切しかけて来なかった。


壁にかかった時計の針が六時を回った頃、凄い勢いでダダダダーと足音が聞こえて来た。それは廊下から近づいて、自習室の中までやって来る。

そろそろ部屋に戻ろうとする人たちもいる中で、ガタガタと席を立つ音が聞こえてくる時間でもあったから、そこまで迷惑な足音では無いけれどあまりにもドタドタと走り過ぎる。
誰だと思って顔を上げると、和基がキョロキョロと辺りを見回していた。

……こいつか。

凄い足音の犯人が和基だと分かった時点で、『こいつならしょうがない』とみんなは思ったようだ。ほとんど気にも留めずに、戻り支度を始めている。

俺も教科書を纏めて立ち上がり、手を上げて和基に合図を送った。

「青葉さん!」

目が合うと同時に、和基は満面の笑みを俺に向ける。
おかげで俺の心臓が、キュウッとなった。

本当に、なんなんだ。この和基の俺に対する半端ない破壊力は。
……俺が好きすぎるだけか。許せん。

「もう、部屋にいないから一瞬焦りましたよ」
「ああ……。悪かったな。岡田に誘われたから、効率のいい自習室に来たんだよ。ここならみんないるから、分からない時に誰かに聞けるだろ? 運が良ければ先生方も来てくれるし」

それとなく言い訳をしておいた。
お前も、岡田と俺が2人で部屋にいるよりはいいだろう?という意味も込めて。

和基は、俺の言葉に初めて岡田が傍にいることに気づいたらしい。

「岡田先輩、青葉さんに変なちょっかい出さないでくださいよ」
「ハア? 変なちょっかいってなんだよ。俺に言わせりゃ、お前の方が青葉に纏わりついて迷惑かけてるんじゃないのかって話だぞ?」

「なに言ってるんですか。俺は青葉さんの恋人なんですよ?」
「…………」

……和基、お前なに堂々と恋人宣言してるんだよ。
ヤバイ。顔がどんどん熱くなる。これだから和基のバカは嫌なんだ。

「和基。腹減った、そろそろ学食に行こう。部屋に戻らないといけないし」

俺はみんなに顔を見られないように少し俯いて、和基の腕を引っ張って歩き出した。

「はい!」

途端に機嫌のいい声に代わった和基は、大人しく俺に引かれて歩き出す。
俺の視界の隅に、さも可笑しそうに笑う羽瀬川が見えた。

……あのヤロー。楽しんでやがったな。


俺は引率するように廊下を進みながら、未だ忙しなく鳴り続ける心臓を宥めるため、呼吸を整えようと細く口から息を吐きだした。
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