冤罪をかけられた聖女見習いは同情して助けてくれたイケメン騎士と楽しく暮らす

くるむ

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逃げるぞ

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 給仕が運んできた食事はいつもと変わらなかった。今までおいしいとありがたく食べていたのに今日は喉を通ってくれない。

 私は何のために生まれて来たんだろう。私なりに一生懸命頑張って生きてきたのに。涙が頬を伝ってポトリと落ちた。

 泣きたくない。
 そう思って唇を噛み締めたけど、涙は後から後からあふれ出して止まらなかった。
 
 どれくらい泣いていたのかわからない。みっともなくしゃくりあげていたら、ガタガタと誰かがドアを強く揺さぶっているような音が聞こえてびっくりして口に手を当てた。 

 いやだ、誰? 怖い。

 身をすくめて息を殺していたら、小さく私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「ココ、いるのか? 俺だ、アルバートだ」
「アルバート様?」
 
 一瞬幻聴かと思った。最後に一目会いたいと思っていたから、願望で、いもしない人の声が聞こえてきたのかと思った。

「噂が嘘であって欲しいと思っていたんだが……。ちょっと扉から離れていろ。今開けるから」
「えっ?」

「扉から離れているな?」
「は、はい。離れています」
「よし!」

 どんと体当たりするような音がした。それが二度ほど続いた後、今度は足で思いっきり蹴飛ばした形でアルバート様がドアを壊して入ってきた。

 思いもよらない光景に、私は目をぱちくりとさせた。

「逃げるぞ」
「えっ?」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は助かりますけど、私を逃がしたと知れたらアルバート様は困るんじゃないですか?」

「困りはしない。一緒に逃げるんだから」
「ええっ?」
 
 思わず素っ頓狂な声を上げてしまって、私は慌てて口を自分の手で押さえた。
 思いもよらないことにおろおろする私に、アルバート様は私の手を取った。

「冤罪を甘んじて受ける必要はない。さあ、早くここを出よう」

「待ってください! 私は嬉しいです。とてもありがたいですけど、私と一緒に逃げてアルバート様に何の利もありません。アルバート様はここに残ってください。私は大丈夫で――」

「大丈夫なんかじゃないしおれも嫌だ! 俺は聖女の専任の護衛騎士になるともう決められている。ここに居れば、あの能力も低く性格の悪い令嬢の護衛騎士を努めなければならないのは目に見えている。俺はそんなもののために騎士になったんじゃない。国の為民のために身を捧げるつもりで頑張って来たんだ。目先の欲の為に相手を陥れるような奴の騎士になるために今まで頑張ってきたんじゃない」

「アルバート様……。いいんですか?」

「もちろんだ。君が本来は聖女になる人だ。たとえ国が聖女と認めなくても、君に出来ることが何かあるはずだ。俺はそれをそばで守りたい」

「あ、ありがとうございます」

 ポロポロと涙が溢れてきて視界が滲んだ。
 嬉しくて涙が止まらないなんて、そんなこともあるんだ。

「さあ、そうと決まったら早くここを出よう」
「はっ、はい」 

 アルバート様の格好はいつもの騎士様然とした姿ではなく、チュニックにブレーというスタイルだった。そしてフード付きのポンチョを被っている。最初から私を連れ出して一緒に逃げてくれるつもりでいたのだろう。そう思ったら、また胸の中が熱くなった。

「ほら、ココも」

 アルバート様は私にポンチョを手渡した。

「念のため、顔は晒さないほうがいいだろう」
「ありがとうございます」

 私は素直にそれを被り、アルバート様と納屋を出て、暗闇に紛れてここを脱出した。
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