冤罪をかけられた聖女見習いは同情して助けてくれたイケメン騎士と楽しく暮らす

くるむ

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アルバート様を黒髪に

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「えっと、じゃあこちらに座ってください」
 背の高いアルバート様をベッドの淵に座らせて、私はその前に立った。頭の方に手をかざして、キラキラと輝く金髪を黒い髪色に変えるよう念じた。

 私の頭の中には、漆黒で艶やかな黒い髪をなびかせるアルバート様。
 アルバート様の端正な顔は、想像上は金髪でも黒髪でもどちらも綺麗で素敵だった……のだけど現実は厳しい。頑張ったのだけど集中力が続かなくて、アルバート様の髪は黒と金色が混ざるというありえない状態になっていた。これでは違和感があって逆に目立ってしまう。

「すみません、修行不足です。少し休んだらまた始めますから」
 と、謝りつつも、綺麗な顔の人はどんな髪色でも綺麗なわけで、天使な風貌の代わりにカッコいいけどクセがある色気のある男の人に変身していてさすがだなと思った。

 アルバート様も鏡の前でまじまじと自分の髪色を見ながら、「これはこれでありだな」と呟いていた。私もそう思っていたので。思わずうんうんと大きく頷いた。

「そうですよね! アルバート様はどんな姿でもカッコよくてきれいなんだなって認識しちゃいました!」
 興奮しながら言う私に、アルバート様が目を見開いてこちらを見た。
 あっ、調子に乗りすぎちゃった?

「す、すみません! 気持ち悪いですよね。失礼しました!」
「――いや、そんなことはない。大丈夫だ」

 それから私の顔をまじまじと見て、
「人によるものだなとちょっと驚いただけだ。嫌な気にはならなかったから気にしないでくれ」

 アルバート様がどういう意味でそれを言っているのかわからなかったけど、そのふんわりとした優しい笑顔に、また私の心臓はドキドキしてきた。近くに立っているのが少し恥ずかしくなって、ベッドの向かいにある小さな腰掛に移動して座った。

「す、少し休憩してからまた始めますね」
「ああ、頼む」

 落ち着こうと思ってふうっと息を吐き、体の力を抜いた。
 会話が途切れて部屋が静かになると、なんだか居心地がわるくなる。時々聞こえてくる食堂からの笑い声が、その気持ちを一層強くさせた。

 馬鹿なことを考えそうになって困る。

 アルバート様は高貴で優しいお方なのよ。だから虐げられてひどい目に遭っている平民の私にさえ心を砕いて下さった。
 優しい笑顔を向けてくれるからと言って勘違いしちゃダメ。私はこの優しい方に、おんぶに抱っこされる状況じゃダメなんだ。

 両手をグーパーグーパーさせてみる。よしっ。

「アルバート様、続きしましょうか」
「んー? もう大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか。じゃあ頼む」

 頷いたあとアルバート様は目を閉じた。疲れているのかリラックスしているのかわからないけど、後者だったらいいなと思いながら私はアルバート様の前に立って、髪色を変えるべく手をかざした。

 アルバート様の髪の色はどんどん黒くなり、完璧な黒髪に変わった。
 天使のような青年から、ストイックで大人の色気ある青年風に変貌していた。
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