ドラゴンアース anotherstory ‐死の魔女‐

とと

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王国襲撃

5.

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アールド王国の中心地に王城がそびえ立っている。

王城の周りには、城下街が所狭しと存在する。

さらに城下街の周りには、外敵からの侵入をふせぐ石積みされた城塞壁が、アールド王国を守っている。

アールド王国の七割近くの民が寝静まった深夜、城塞壁の上に設けられた警備所の鐘が高らかに鳴り響いた。

鐘の音が、人々の安眠をさまたげ、これから始まる残劇の合図となるとは、国民の誰一人思いもしないだろう…。

その合図となる鐘の音もすぐに消え、代わりに城塞壁の崩れる激しい轟音が国中に響き渡った。

轟音が治まると同時に、人々の悲鳴や怒声、様々な奇声が反響する。

城塞壁に設置された篝火かがりびが家屋に着火し、たちまち致る所に火が回り、人々が恐怖に逃げ惑う。

次に巨人の歩みのような地鳴りが、まるで地震のように起こった。

闇夜の火災が大きな黒影を鮮明に映した。

二十メートルある巨象。

そう、闇龍ダークドラゴン・キーカンバーであった。

夜の闇と同化したような身体をしたキーカンバーは、建物を狂ったように破壊の限りを尽くす。

逃げ惑う人々に容赦なく、象のような脚で踏み潰したり、闇龍の必殺、闇高熱の息吹(ダークヒートブレス)を浴びせ、惨殺する。

何故、突然にしてキーカンバーが王国を攻めに来たのか、恐怖におののく人々には考える余裕すらなかった。

そして、数々の破壊と殺戮を犯す闇龍は、警察館の前まで迫ってきた。

凄まじい地響きを起こしながら…。



地下の牢獄が激しい地鳴りにより、天井から凄まじいほどの埃が降ってきた。

その場にいる王国の宮廷魔術師パラガスだけが、青色の法衣に埃がつくのを嫌った。

エルフのペテンにドワーフのタンク、そしてアストの三人はもともと、汚れた格好であるせいか、埃を気にするそぶりも見せない。

問題はそのような事でなく、この地下全体を埋めつくすような激しい地響きにある。

「あっしには、地震の予知なんかでてないですよ!」

ペテンが半狂乱したかのように叫ぶ。

「確かにエルフの言うとおり、地震じゃない…」

「じゃあなんですか?この揺れは?」

パラガスの言葉にアストが反論する。

それ程の激しい揺れと地鳴りが、先程から四人に不安を与えているのだ。

「何か巨大な怪物の…」

パラガスの予想が途中で途切れた。

天井から大きな石が降ってきた為に…。

ペテンの悲鳴が地下全体に反響する。

「このままここに居るのは危険だな…」

冷静にパラガスが言い、階段へと振り向いた。

「あっしらを置いてかないで!」

頑丈に閉ざされた牢が、三人を閉じ込めている為、逃げたくても逃げれないのだ。

この場で自由がきくのは、パラガスだけだ。

「牢の鍵を貰いにいくだけだ」

パラガスは、気弱なエルフに冷たく答えた。

パラガスはアストに軽く頷き、階段に向かって一歩二歩と歩いた。

しかし…。

「危ないっ!」

アストが叫ぶ。

パラガスが昇ろうとした階段が、たちまちに崩れ落ちた。

そして、崩れ落ちた階段から、闇色の物体が四人の眼前に映しだされた。

闇色の物体が、先程の地響き、そして階段を含めこの建物を破壊したのは、間違いなかった。

「象の脚か…?」

アストがその物体を見て呟く。

この場にいる四人は、息を殺しながら身動きをとるのをやめていた。

「違うっ!キーカンバーだ!」

パラガスが否定した。

「キーカンバー?あの十龍の…」

「避けるんダッ!」

アストの言葉を遮り、タンクが珍しく叫んだ。

巨象のような脚がパラガス達に迫ってきたのだ。

パラガスはとっさに横へ飛び込み、窮地きゅうちを逃れる。

しかし、闇色の脚が地下の天井を破壊しながら、牢を蹴破り、アスト達に迫った。

三人は死を覚悟し、これ以上ないくらいで目をつむった。

アストの眼前まで迫る爪。

目はつむってても、スレスレまで迫ってるのは、皮膚が感じる。

心臓が破裂する勢いだった。

だが、巨龍の脚は天へと上がっていった。

危機一髪。

その場にいる四人は、奇跡的に助かった。

その場で安堵のため息がでる。

しかし、この場にいるのは危険。

「脱出するぞ、アスト」

パラガスは青色の法衣の埃を払いながら、力強く言った。

四人は崩れ落ちた石に、手をかけ、地上へと昇り始めた。

そして地上に出た時、四人の眼前には、これがアールドの街かと思う程の地獄図を目にした。

ペテンは腰を抜かし、タンクは呆然と燃え上がる街々を目にし、パラガスとアストは、闇色の龍キーカンバーが王城に向かって行く姿を目にし、唇を強く噛み締めた。
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