ドラゴンアース anotherstory ‐死の魔女‐

とと

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トカゲ王の城

5.

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アストらがラッドビード王国に侵入した同じ頃。

死の魔女ミレアは、アランミューア大陸の東にある大陸一の広さをもつ森の中にいた。

この森の名はブディスの森と呼ばれ、様々な魔獣や動物、恐竜などが弱肉強食の暮らしをしている。

噂では高等耳長亜人(ハイエルフ)の隠れ集落や、ドワーフの王国があると言われているが、真偽は定かではない。

だがその噂より、真実かつ現実に存在する龍地球の子と呼ばれる十龍の一頭、緑龍グリーンドラゴン、フォレストボイスの住み処があるのだ。

アランミューア大陸には二頭の十龍がいる。

一頭がこのブディスの森の緑龍フォレストボイス。

そしてもう一頭が、この森に来訪しに来たミレアの動く屍、闇龍ダークドラゴン、キーカンバーだ。

その二頭の龍が今、対峙している。

一触即発。

フォレストボイスは来訪してきた龍と魔女に怒りをあらわにしていた。

辺り一面、緑に覆われた森のど真ん中に大きな湖があり、緑龍はその湖の上にアメンボのように浮いていた。

緑龍の容姿は本来の龍の顔をしているものの、全身は緑色をした巨大な蜘蛛だった。

八本脚の龍というより、蜘蛛の姿に龍の頭をつけた感じのほうが解りやすいだろう。

二頭の龍の全長は同じ位、黒色の象龍と緑色の蜘蛛龍が、いつ戦ってもおかしくない状況だった。

太陽が天高く輝いているのに、夜にしか活動しないキーカンバーを目にし、フォレストボイスは闇龍の死を実感した。

また、キーカンバーの頭にそびえ立つミレアがキーカンバーを操っていることをも実感した。

動く死体ゾンビの大群はこの場にいない。

闇龍との死闘の経験から、いても無駄だからだ。

「一瞬の命の者よ、何故キーカンバーを殺した」
緑龍がミレアに質問した。

緑龍の一言は、辺り一帯に響き、遠くの木々から鳥の大群が遠くへ逃げていった。

「アナタも死ねば解るわ、フォレストボイス…」

そう答えるとミレアは巨大な象龍から天へと飛び上がり、忽然と消えた。

ミレアの行動で緑龍は、大空へと浮遊し、脚一つに対し一本の爪がある緑龍の空からの攻撃が始まった。

蜘蛛龍フォレストボイスの八本の爪が容赦なく、象龍キーカンバーの身を裂く。

負けじと、象龍も蜘蛛龍に対し、必殺の闇高熱の息吹(ダークヒートブレス)を吹く。

緑龍はその息吹を空中で難無くかわし、かわしついでに鋭利な爪を、まるで蜂が相手を刺すように次々と闇龍の身体に穴を開けた。

はっきり言って、生前のキーカンバーなら間違いなく苦戦していただろう。

動く龍死体(ドラゴンゾンビ)として操られているキーカンバーの動きは鈍く、フォレストボイスの敵ではなかった。

どうしてキーカンバーはあんな小娘ごときに、長き命を絶たれたのだろう、フォレストボイスは攻撃を緩めずに、そう考えていた。

動く龍死体になんども致命傷の攻撃をしているのは、らちがあかない、そう思った緑龍は自らの必殺の息吹をかけることにした。

緑毒の息吹(グリーンポイズンブレス)

この息吹にかけられた者は、凄まじいウイルスにより数秒後には、肉が溶けて死にいたる。

緑龍の最大の必殺技だ。

それを今、闇龍に向かって吹いた。

死肉だろうが、みるみるうちにキーカンバーの腐った皮膚が溶けだした。

ただでさえ鈍い動きが、さらに鈍くなる。

象龍の原型はなくなり、肉は地面や湖へと落ちていき、骨が八割剥き出しになっていた。

「一時の命の小娘、何処に隠れても無駄だ、我を倒すなど不可能だ」

フォレストボイスは高らかに宣言した。

そして、フォレストボイスは辺り一帯に緑毒の息吹を吐き散らした。

周りの生ある者はフォレストボイスしか生き残れないだろう。

湖一帯の上空が緑色の霧のように、毒が充満していた。

すでにキーカンバーの身体は巨大な象というより、マンモスの骨のように変貌していた。

「小娘も溶けて消えたか…」

フォレストボイスはキーカンバーの姿を目にし、悲しみと怒りを感じた。

何故、龍地球最強の十龍、闇龍キーカンバーがいとも簡単に殺害されたのだろう…。

「貴様の死の痛みは…、死の国ボーライへの弔いは、アールド王国の民、千人を道連れにしよう」

緑龍の残虐性が解る発言だった。

「それには及びません、フォレストボイス、もうアールド王国はこの世に存在しませんから…」

「な、なにぃ……」

突然、ミレアの声が緑龍の耳に届き、緑龍は驚愕した。

「そしてキーカンバーには、これからも私の為に働いてもらいます。もちろん、フォレストボイス貴方にも…」

ミレアがフォレストボイスの眼前に姿を表した。

「貴様っ、我を愚弄するなぞ許さんぞっ!」

緑龍は叫び、再び大空へと浮遊した。

再び、緑毒の息吹をミレア目掛けて吹いた。

だが、ミレアの身体は溶けなかった。

ミレアは毒の息吹を浴びながら、何やらぶつぶつと口を動かしていた。

「ま、まさか、それは」

緑龍は溶けないミレアに驚いたのではなく、ミレアの口の動きに驚愕した。

急にフォレストボイスは天空へと、急速に上昇した。

危険を察知したのだ。

ミレアの胸の辺りに、亡霊三体が召喚され、丸くなり、ためらいなく、ミレアは天空に逃げる緑龍目掛けて放った。

霊魂弾禁断魔法(ソウルバスター)。

あまりにも凄まじい威力の禁断魔法。

弾として使われた霊魂は、凄まじい霊力の高まりにより、霊魂は消滅し二度と輪廻転生が出来なくなるため、古来の魔法使いが禁断とし、封印した魔法だ。

威力は極大、犠牲になる霊魂も標的者にとっても、最強最悪の魔法である。

その白い霊魂弾が天空に昇り、数秒後、空が一瞬だけ眩しく光った。

「墜ちてきなさい、フォレストボイス」

ミレアは天を見つめ呟くと、緑色の物体が落下し、それが湖へと墜ちた。

ミレアはその場所まで浮遊した。

澄みきった湖に緑色の血液が浮かび、さらに血液を流す物体が水中から見えてきた。

「しくじったか…」

物体を目にし、ミレアは悔しそうに答えた。

フォレストボイスのハ本脚のどこかの一脚だった。

ミレアは憎しみの表情で上空を見上げた。

そこには緑龍フォレストボイスの姿はなかった。

「逃げたか…」

ミレアは湖に浮かぶ緑龍の蜘蛛のような脚に、右手から破壊魔法を放った。

湖の水が激しいしぶきをあげ、フォレストボイスの脚は消滅した。

怒りは少しはおさまり、ミレアは誰もいない湖の上空で、微笑んだ。

「まあいいわ、緑龍は後回しにするわ、次はアランミューア大陸の南を抜け、嵐の群島に居る、嵐龍シックルランね」

ミレアはそう言い、キーカンバーの骸がある場所へと移動し、ぶつぶつと呪文を称えた。

「時間はたっぷりある、ゆっくり行きましょ、キーカンバー」

ミレアの一声に、骸だけと化したキーカンバーは、動く龍骸(ドラゴンスケルトン)として、ゆっくりと再び動き始めた。
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