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雨の日
6話
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花田の言葉はもっともだと思い。帰りの道をトボトボと歩く。今度家に向かい調べてくれるそうだ。
花田からその調査結果を記してあるという本を買った。薄いその本は税抜きでも1500円もした。
自分が何をしているのかが解らない……。
あの暴れ橋も調べると言っていた……。
しかし、調べていくとどうなるのだろうか?
娘が帰ってくるのだろうか?
俺は何をやっているのだろう?
隆が家に着く頃にはそれまでの小雨からパラパラと降りだしていた。
「あなた。そんなことして、一体どうするつもりよ!」
智子はやかんに火をかけ、開口一番その言葉を口にした。
「何かでてくるはずさ」
「そんなことしても、意味はまったくないわ! それにお金はどうするのよ。家はお金が足りないから長時間仕事をしていたのでしょう。違うの!?」
隆の眼の前にはテーブルの上にカップラーメンがポツンとある。智子のところにもある。
「調べてみないと解らないことだってあるさ。きっと、娘が見つかる手掛かりになるかもしれないじゃないか……。娘が戻ってきたら、お前。俺は職場復帰ができるじゃないか」
シュンシュンと鳴くやかんの火を止めて、カップラーメンにお湯を注ぐ作業になったが、二人を包む重い空気は変わらない。
「ふー。あなた。雨の日はそんなに特別ってことは無いわよ。ただ、陰鬱な気分になったり、お洗濯物が干せなくなったり、お散歩や外へ出たくなくなったりするくらいじゃない。何も調べなくてもいいんじゃない?」
「いや……そうじゃないみたいなんだ。ここ10年で雨の日にたくさんの不幸が起きているみたいなんだよ。俺はその原因と娘が関係していると思っているんだ。お前も明日、花田 正志に会って聞いてみれば納得するさ。俺たちの娘もそのせいなんだ」
智子は「ハアー……」と溜息を吐いて、カップラーメンを食べた。
「それだけじゃない。俺の娘はどこかで生きていて。その雨の日に起きる不幸の原因が解れば戻ってくるはず……」
隆は自分の説に段々と自信がついてきた。
「ふー……。お金がかかるのなら途中で帰ってもらいましょう。家にはお金がないのだから……」
隆は夜遅くまで、寝室で寝ている智子を置いてキッチンで花田から買った本を読んでいた。
翌日
花田 正志は新品同然のオペル社のカスケーダ(スペイン語で滝を意味する車)で玉江宅へと着いた。
花田は二階建ての一戸建てを見ては住所を確認している。
方向音痴なのだ。
占い稼業をしてからもう10年も経つが、どの家も住所を何度も確認しては面食らった。
方向があってないのだ。
不幸の調査結果を記した本の売れ行きもいい。だが、依頼は10年前から数多く受けているが、これといって何が原因かはまだ解っていなかった。
「こんにちは。玉江さん。私です。花田 正志です」
花田はインターホンを押しながら、挨拶をしていた。
すると、少しだけ元気を取り戻した隆がのっそりと現れた。
次に隆の後ろから智子が玄関に現れる。
智子は今日だけは、特別にダブルワークの片方、日中だけ休日を得たのだ。白のTシャツに青のジーンズ姿である。
「花田さん。私の娘は戻ってきますか?」
隆の不安な声色には少しの希望が生じていた。
「……まずは調査をしましょう。それからです……」
花田は商売用の誠意溢れる姿勢になると、車からコンパスと、理科の授業に使うスポイトの入ったビーカーを取り出した。
「あの……お金は掛かりませんよね」
智子の心配の声に花田はニッコリとして、
「ええ。お金の心配はこの際しないほうがいいですよ」
そういうと、花田は作業を始めるために岡尾橋へと向かった。
「あなた……。大丈夫なの?」
「ああ……。花田さんに任せればいい」
花田は岡尾橋の水を苦心してスポイトで取り、その水滴をビーカーへと入れ。二三回振ると戻って来た。次にコンパスと地図を持って岡尾橋の周囲を歩き回った。
それらが終わると花田は納得をしたようで。
「経費は……と……ガソリン代と調査費。そして、出張費。それと、川の水の分析費を含めて……」
花田は車から電卓を持ってきた。
「締めて税込みで6万4千800円になります」
隆と智子は顔を見合わせた。
「ちょっと、待って下さい……」
隆は真っ青になり、智子と一旦家に入るとかれこれ一時間も花田を外で待たせた。
すると、しばらくして俯いた隆は玄関を開けて。
「……払います」
智子はキッチンでカップラーメンのチャーシューを摘まむところだった。
「ああ。これで、娘も帰って来るさ。あの花田さんに頼ればいい。そう、これでいいんだ」
6万4千800円の調査費を苦渋して何とか支払い。調査の結果は明日になるそうだ。
そうは言ったが隆は正直。何の調査か解らなかったが……。
「これからは、毎日が大変ね。そんなことばかりしていると、娘が帰ってきてもどうしようもないわよ。私だって娘が早く帰ってきてほしいけれど……あまりに不合理的で非現実的過ぎないかしら。占いに頼らなくても神様に頼ればいいと私は思うわ。そうすれば、お金はきっとかからないし。それに早く職を見つけないといけないじゃない。それまでなんとか貯金をしておかないと……。いざという時に困るわよ」
隆はスーパーの売れ残りの弁当を開け、
「花田さんも言っていただろう。この世には雨が降っているけれど、あの世にも雨が降っていて、そこには何か関係があるのかも知れないって」
「あの花田って人。どうも胡散臭いわ。詐欺ってことはないでしょね?」
智子は心配の表情を隆に向ける。
「いや、その逆だよ。たくさん依頼が来ているようだし、本も出しているんだから。詐欺じゃないと思う」
隆は気楽に受け答えをしていた。
翌日、外傷も何もない里実の死体が岡尾橋の下流で発見された。
花田からその調査結果を記してあるという本を買った。薄いその本は税抜きでも1500円もした。
自分が何をしているのかが解らない……。
あの暴れ橋も調べると言っていた……。
しかし、調べていくとどうなるのだろうか?
娘が帰ってくるのだろうか?
俺は何をやっているのだろう?
隆が家に着く頃にはそれまでの小雨からパラパラと降りだしていた。
「あなた。そんなことして、一体どうするつもりよ!」
智子はやかんに火をかけ、開口一番その言葉を口にした。
「何かでてくるはずさ」
「そんなことしても、意味はまったくないわ! それにお金はどうするのよ。家はお金が足りないから長時間仕事をしていたのでしょう。違うの!?」
隆の眼の前にはテーブルの上にカップラーメンがポツンとある。智子のところにもある。
「調べてみないと解らないことだってあるさ。きっと、娘が見つかる手掛かりになるかもしれないじゃないか……。娘が戻ってきたら、お前。俺は職場復帰ができるじゃないか」
シュンシュンと鳴くやかんの火を止めて、カップラーメンにお湯を注ぐ作業になったが、二人を包む重い空気は変わらない。
「ふー。あなた。雨の日はそんなに特別ってことは無いわよ。ただ、陰鬱な気分になったり、お洗濯物が干せなくなったり、お散歩や外へ出たくなくなったりするくらいじゃない。何も調べなくてもいいんじゃない?」
「いや……そうじゃないみたいなんだ。ここ10年で雨の日にたくさんの不幸が起きているみたいなんだよ。俺はその原因と娘が関係していると思っているんだ。お前も明日、花田 正志に会って聞いてみれば納得するさ。俺たちの娘もそのせいなんだ」
智子は「ハアー……」と溜息を吐いて、カップラーメンを食べた。
「それだけじゃない。俺の娘はどこかで生きていて。その雨の日に起きる不幸の原因が解れば戻ってくるはず……」
隆は自分の説に段々と自信がついてきた。
「ふー……。お金がかかるのなら途中で帰ってもらいましょう。家にはお金がないのだから……」
隆は夜遅くまで、寝室で寝ている智子を置いてキッチンで花田から買った本を読んでいた。
翌日
花田 正志は新品同然のオペル社のカスケーダ(スペイン語で滝を意味する車)で玉江宅へと着いた。
花田は二階建ての一戸建てを見ては住所を確認している。
方向音痴なのだ。
占い稼業をしてからもう10年も経つが、どの家も住所を何度も確認しては面食らった。
方向があってないのだ。
不幸の調査結果を記した本の売れ行きもいい。だが、依頼は10年前から数多く受けているが、これといって何が原因かはまだ解っていなかった。
「こんにちは。玉江さん。私です。花田 正志です」
花田はインターホンを押しながら、挨拶をしていた。
すると、少しだけ元気を取り戻した隆がのっそりと現れた。
次に隆の後ろから智子が玄関に現れる。
智子は今日だけは、特別にダブルワークの片方、日中だけ休日を得たのだ。白のTシャツに青のジーンズ姿である。
「花田さん。私の娘は戻ってきますか?」
隆の不安な声色には少しの希望が生じていた。
「……まずは調査をしましょう。それからです……」
花田は商売用の誠意溢れる姿勢になると、車からコンパスと、理科の授業に使うスポイトの入ったビーカーを取り出した。
「あの……お金は掛かりませんよね」
智子の心配の声に花田はニッコリとして、
「ええ。お金の心配はこの際しないほうがいいですよ」
そういうと、花田は作業を始めるために岡尾橋へと向かった。
「あなた……。大丈夫なの?」
「ああ……。花田さんに任せればいい」
花田は岡尾橋の水を苦心してスポイトで取り、その水滴をビーカーへと入れ。二三回振ると戻って来た。次にコンパスと地図を持って岡尾橋の周囲を歩き回った。
それらが終わると花田は納得をしたようで。
「経費は……と……ガソリン代と調査費。そして、出張費。それと、川の水の分析費を含めて……」
花田は車から電卓を持ってきた。
「締めて税込みで6万4千800円になります」
隆と智子は顔を見合わせた。
「ちょっと、待って下さい……」
隆は真っ青になり、智子と一旦家に入るとかれこれ一時間も花田を外で待たせた。
すると、しばらくして俯いた隆は玄関を開けて。
「……払います」
智子はキッチンでカップラーメンのチャーシューを摘まむところだった。
「ああ。これで、娘も帰って来るさ。あの花田さんに頼ればいい。そう、これでいいんだ」
6万4千800円の調査費を苦渋して何とか支払い。調査の結果は明日になるそうだ。
そうは言ったが隆は正直。何の調査か解らなかったが……。
「これからは、毎日が大変ね。そんなことばかりしていると、娘が帰ってきてもどうしようもないわよ。私だって娘が早く帰ってきてほしいけれど……あまりに不合理的で非現実的過ぎないかしら。占いに頼らなくても神様に頼ればいいと私は思うわ。そうすれば、お金はきっとかからないし。それに早く職を見つけないといけないじゃない。それまでなんとか貯金をしておかないと……。いざという時に困るわよ」
隆はスーパーの売れ残りの弁当を開け、
「花田さんも言っていただろう。この世には雨が降っているけれど、あの世にも雨が降っていて、そこには何か関係があるのかも知れないって」
「あの花田って人。どうも胡散臭いわ。詐欺ってことはないでしょね?」
智子は心配の表情を隆に向ける。
「いや、その逆だよ。たくさん依頼が来ているようだし、本も出しているんだから。詐欺じゃないと思う」
隆は気楽に受け答えをしていた。
翌日、外傷も何もない里実の死体が岡尾橋の下流で発見された。
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