6 / 44
雨の日
6話
しおりを挟む
花田の言葉はもっともだと思い。帰りの道をトボトボと歩く。今度家に向かい調べてくれるそうだ。
花田からその調査結果を記してあるという本を買った。薄いその本は税抜きでも1500円もした。
自分が何をしているのかが解らない……。
あの暴れ橋も調べると言っていた……。
しかし、調べていくとどうなるのだろうか?
娘が帰ってくるのだろうか?
俺は何をやっているのだろう?
隆が家に着く頃にはそれまでの小雨からパラパラと降りだしていた。
「あなた。そんなことして、一体どうするつもりよ!」
智子はやかんに火をかけ、開口一番その言葉を口にした。
「何かでてくるはずさ」
「そんなことしても、意味はまったくないわ! それにお金はどうするのよ。家はお金が足りないから長時間仕事をしていたのでしょう。違うの!?」
隆の眼の前にはテーブルの上にカップラーメンがポツンとある。智子のところにもある。
「調べてみないと解らないことだってあるさ。きっと、娘が見つかる手掛かりになるかもしれないじゃないか……。娘が戻ってきたら、お前。俺は職場復帰ができるじゃないか」
シュンシュンと鳴くやかんの火を止めて、カップラーメンにお湯を注ぐ作業になったが、二人を包む重い空気は変わらない。
「ふー。あなた。雨の日はそんなに特別ってことは無いわよ。ただ、陰鬱な気分になったり、お洗濯物が干せなくなったり、お散歩や外へ出たくなくなったりするくらいじゃない。何も調べなくてもいいんじゃない?」
「いや……そうじゃないみたいなんだ。ここ10年で雨の日にたくさんの不幸が起きているみたいなんだよ。俺はその原因と娘が関係していると思っているんだ。お前も明日、花田 正志に会って聞いてみれば納得するさ。俺たちの娘もそのせいなんだ」
智子は「ハアー……」と溜息を吐いて、カップラーメンを食べた。
「それだけじゃない。俺の娘はどこかで生きていて。その雨の日に起きる不幸の原因が解れば戻ってくるはず……」
隆は自分の説に段々と自信がついてきた。
「ふー……。お金がかかるのなら途中で帰ってもらいましょう。家にはお金がないのだから……」
隆は夜遅くまで、寝室で寝ている智子を置いてキッチンで花田から買った本を読んでいた。
翌日
花田 正志は新品同然のオペル社のカスケーダ(スペイン語で滝を意味する車)で玉江宅へと着いた。
花田は二階建ての一戸建てを見ては住所を確認している。
方向音痴なのだ。
占い稼業をしてからもう10年も経つが、どの家も住所を何度も確認しては面食らった。
方向があってないのだ。
不幸の調査結果を記した本の売れ行きもいい。だが、依頼は10年前から数多く受けているが、これといって何が原因かはまだ解っていなかった。
「こんにちは。玉江さん。私です。花田 正志です」
花田はインターホンを押しながら、挨拶をしていた。
すると、少しだけ元気を取り戻した隆がのっそりと現れた。
次に隆の後ろから智子が玄関に現れる。
智子は今日だけは、特別にダブルワークの片方、日中だけ休日を得たのだ。白のTシャツに青のジーンズ姿である。
「花田さん。私の娘は戻ってきますか?」
隆の不安な声色には少しの希望が生じていた。
「……まずは調査をしましょう。それからです……」
花田は商売用の誠意溢れる姿勢になると、車からコンパスと、理科の授業に使うスポイトの入ったビーカーを取り出した。
「あの……お金は掛かりませんよね」
智子の心配の声に花田はニッコリとして、
「ええ。お金の心配はこの際しないほうがいいですよ」
そういうと、花田は作業を始めるために岡尾橋へと向かった。
「あなた……。大丈夫なの?」
「ああ……。花田さんに任せればいい」
花田は岡尾橋の水を苦心してスポイトで取り、その水滴をビーカーへと入れ。二三回振ると戻って来た。次にコンパスと地図を持って岡尾橋の周囲を歩き回った。
それらが終わると花田は納得をしたようで。
「経費は……と……ガソリン代と調査費。そして、出張費。それと、川の水の分析費を含めて……」
花田は車から電卓を持ってきた。
「締めて税込みで6万4千800円になります」
隆と智子は顔を見合わせた。
「ちょっと、待って下さい……」
隆は真っ青になり、智子と一旦家に入るとかれこれ一時間も花田を外で待たせた。
すると、しばらくして俯いた隆は玄関を開けて。
「……払います」
智子はキッチンでカップラーメンのチャーシューを摘まむところだった。
「ああ。これで、娘も帰って来るさ。あの花田さんに頼ればいい。そう、これでいいんだ」
6万4千800円の調査費を苦渋して何とか支払い。調査の結果は明日になるそうだ。
そうは言ったが隆は正直。何の調査か解らなかったが……。
「これからは、毎日が大変ね。そんなことばかりしていると、娘が帰ってきてもどうしようもないわよ。私だって娘が早く帰ってきてほしいけれど……あまりに不合理的で非現実的過ぎないかしら。占いに頼らなくても神様に頼ればいいと私は思うわ。そうすれば、お金はきっとかからないし。それに早く職を見つけないといけないじゃない。それまでなんとか貯金をしておかないと……。いざという時に困るわよ」
隆はスーパーの売れ残りの弁当を開け、
「花田さんも言っていただろう。この世には雨が降っているけれど、あの世にも雨が降っていて、そこには何か関係があるのかも知れないって」
「あの花田って人。どうも胡散臭いわ。詐欺ってことはないでしょね?」
智子は心配の表情を隆に向ける。
「いや、その逆だよ。たくさん依頼が来ているようだし、本も出しているんだから。詐欺じゃないと思う」
隆は気楽に受け答えをしていた。
翌日、外傷も何もない里実の死体が岡尾橋の下流で発見された。
花田からその調査結果を記してあるという本を買った。薄いその本は税抜きでも1500円もした。
自分が何をしているのかが解らない……。
あの暴れ橋も調べると言っていた……。
しかし、調べていくとどうなるのだろうか?
娘が帰ってくるのだろうか?
俺は何をやっているのだろう?
隆が家に着く頃にはそれまでの小雨からパラパラと降りだしていた。
「あなた。そんなことして、一体どうするつもりよ!」
智子はやかんに火をかけ、開口一番その言葉を口にした。
「何かでてくるはずさ」
「そんなことしても、意味はまったくないわ! それにお金はどうするのよ。家はお金が足りないから長時間仕事をしていたのでしょう。違うの!?」
隆の眼の前にはテーブルの上にカップラーメンがポツンとある。智子のところにもある。
「調べてみないと解らないことだってあるさ。きっと、娘が見つかる手掛かりになるかもしれないじゃないか……。娘が戻ってきたら、お前。俺は職場復帰ができるじゃないか」
シュンシュンと鳴くやかんの火を止めて、カップラーメンにお湯を注ぐ作業になったが、二人を包む重い空気は変わらない。
「ふー。あなた。雨の日はそんなに特別ってことは無いわよ。ただ、陰鬱な気分になったり、お洗濯物が干せなくなったり、お散歩や外へ出たくなくなったりするくらいじゃない。何も調べなくてもいいんじゃない?」
「いや……そうじゃないみたいなんだ。ここ10年で雨の日にたくさんの不幸が起きているみたいなんだよ。俺はその原因と娘が関係していると思っているんだ。お前も明日、花田 正志に会って聞いてみれば納得するさ。俺たちの娘もそのせいなんだ」
智子は「ハアー……」と溜息を吐いて、カップラーメンを食べた。
「それだけじゃない。俺の娘はどこかで生きていて。その雨の日に起きる不幸の原因が解れば戻ってくるはず……」
隆は自分の説に段々と自信がついてきた。
「ふー……。お金がかかるのなら途中で帰ってもらいましょう。家にはお金がないのだから……」
隆は夜遅くまで、寝室で寝ている智子を置いてキッチンで花田から買った本を読んでいた。
翌日
花田 正志は新品同然のオペル社のカスケーダ(スペイン語で滝を意味する車)で玉江宅へと着いた。
花田は二階建ての一戸建てを見ては住所を確認している。
方向音痴なのだ。
占い稼業をしてからもう10年も経つが、どの家も住所を何度も確認しては面食らった。
方向があってないのだ。
不幸の調査結果を記した本の売れ行きもいい。だが、依頼は10年前から数多く受けているが、これといって何が原因かはまだ解っていなかった。
「こんにちは。玉江さん。私です。花田 正志です」
花田はインターホンを押しながら、挨拶をしていた。
すると、少しだけ元気を取り戻した隆がのっそりと現れた。
次に隆の後ろから智子が玄関に現れる。
智子は今日だけは、特別にダブルワークの片方、日中だけ休日を得たのだ。白のTシャツに青のジーンズ姿である。
「花田さん。私の娘は戻ってきますか?」
隆の不安な声色には少しの希望が生じていた。
「……まずは調査をしましょう。それからです……」
花田は商売用の誠意溢れる姿勢になると、車からコンパスと、理科の授業に使うスポイトの入ったビーカーを取り出した。
「あの……お金は掛かりませんよね」
智子の心配の声に花田はニッコリとして、
「ええ。お金の心配はこの際しないほうがいいですよ」
そういうと、花田は作業を始めるために岡尾橋へと向かった。
「あなた……。大丈夫なの?」
「ああ……。花田さんに任せればいい」
花田は岡尾橋の水を苦心してスポイトで取り、その水滴をビーカーへと入れ。二三回振ると戻って来た。次にコンパスと地図を持って岡尾橋の周囲を歩き回った。
それらが終わると花田は納得をしたようで。
「経費は……と……ガソリン代と調査費。そして、出張費。それと、川の水の分析費を含めて……」
花田は車から電卓を持ってきた。
「締めて税込みで6万4千800円になります」
隆と智子は顔を見合わせた。
「ちょっと、待って下さい……」
隆は真っ青になり、智子と一旦家に入るとかれこれ一時間も花田を外で待たせた。
すると、しばらくして俯いた隆は玄関を開けて。
「……払います」
智子はキッチンでカップラーメンのチャーシューを摘まむところだった。
「ああ。これで、娘も帰って来るさ。あの花田さんに頼ればいい。そう、これでいいんだ」
6万4千800円の調査費を苦渋して何とか支払い。調査の結果は明日になるそうだ。
そうは言ったが隆は正直。何の調査か解らなかったが……。
「これからは、毎日が大変ね。そんなことばかりしていると、娘が帰ってきてもどうしようもないわよ。私だって娘が早く帰ってきてほしいけれど……あまりに不合理的で非現実的過ぎないかしら。占いに頼らなくても神様に頼ればいいと私は思うわ。そうすれば、お金はきっとかからないし。それに早く職を見つけないといけないじゃない。それまでなんとか貯金をしておかないと……。いざという時に困るわよ」
隆はスーパーの売れ残りの弁当を開け、
「花田さんも言っていただろう。この世には雨が降っているけれど、あの世にも雨が降っていて、そこには何か関係があるのかも知れないって」
「あの花田って人。どうも胡散臭いわ。詐欺ってことはないでしょね?」
智子は心配の表情を隆に向ける。
「いや、その逆だよ。たくさん依頼が来ているようだし、本も出しているんだから。詐欺じゃないと思う」
隆は気楽に受け答えをしていた。
翌日、外傷も何もない里実の死体が岡尾橋の下流で発見された。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる