ご近所STORY ハイブラウシティ【改訂版】

主道 学

文字の大きさ
32 / 54
危険な恋

31話

しおりを挟む
「お嬢様。こちらへ……」
「嫌です!!」
「向こうへ行きなさい!!」
 父親と数人の男に奈々川さんは、抵抗虚しく連れ去られようとした。

「お呼びでしょうか?」
 背の高い男が書斎に入って来た。……こいつがひょっとして谷多部か? その男の後ろには4人の背広のボディガードがいた。

 首相たちの背広と同じく高級なスーツを着こなし、髪は銀髪。そして、鼻が外国人のように高く均整のとれた顔立ちの男だった。
「ああ、谷多部くん。晴美が戻って来たよ。そっちへ連れて行ってくれ、それから夜鶴くんだっけ……15分だけ話そうじゃないか。忙しい身でね。でも、君も言いたいことが私と同じくあるんだろう。よろしい、聞こうじゃないか」
 奈々川さんが谷多部たちに連れ去られた後、私はあらゆる疑問が渦巻く頭を二三度振って、
「奈々川首相」
「首相で結構だよ」
「首相。ハイブラウシティ・Bとは一体どういうものなのですか?この辺で確かなことを知りたいんです」
 首相はぶるぶる震えると、
「簡単には機械が人間を管理し、同時に労働をなくす……。そういうことだ。具体的な事を話してあげようか?まず、ことの次第は谷多部 創玄。つまり、谷多部くんの父親が考案した未来都市で。三年前から続いている安価なアンドロイドによる大規模な都市開発が発端だった。人工知能を搭載した大量のアンドロイドは、工事や建設の作業をしていたのだが、あまりにも高度な技術力と正確さを発揮した。そして、安価だ。大勢の都市開発研究者の間では、近い将来に人の技術は機械の管理をするだけで、道路も医療も建物もアンドロイドができる。というのが確実になったのだ。それが、ハイブラウ(知識人・文化人)シティ・Bだ。それを応用すると人間の労働を無くして機械が労働を変わりにすることが出来るのだよ。今までの生活が一変する。それを提唱しているのが矢多部 創玄だったわけだ」

「つまり、偶然機械を使っていたら、未来都市が浮かんだ?」
 首相は首を振って、
「いや、それは違う。必然なのだよ。簡単なことだ。人間の技術がある域に達しただけだ。しかし、その未来都市は獏大な金が掛かる。このB区の五本の指に入る大金持ちの谷多部親子でも、その額は容易には支払えないのだ。……だからなのだよ。晴美や私の出番なのだ。これは、国を挙げなければ叶わない夢なのだ。もっと具体的には、高齢者の介護もできるほどの性能を保持し、医学薬学、建築学、科学などのプログラム作成。そして、アンドロイドの大規模な量産。アンドロイドの収納施設、安全管理、修理施設、研究施設などなど。それでいて大規模な需要を得られる。これはこの国だけの技術革新だ」
 私はこんな未来都市は御免だった。
 だって、そうだろう。労働を私たちから取ったら一体何が残る?

「A区の人たちはどうなるんですか。機械の管理が出来る人々はB区の人たちしかいません」
 首相は笑った。

「はっはっ。A区の人たちには農業や漁を営んでもらうんだよ。昔通りの生活を営んでもらうことが一番だ。一時的にだが何年かは失業者数が何十パーセントと出てくるだろうが、その辺の対策にも時間と労力を使うつもりだよ。私はね。今の時代を発展というより社会の大改革をするつもりだ。人としての暮らしを見直し、経済を潤す人間の労働をなくし、それでいて需要を大幅に増やすことができる。それが、ハイブラウシティ・Bだ。治安にもハイブラウシティ・Bが貢献することもある……機械の交通整理。犯人逮捕。裁判。などなど、どれも高性能で安価なアンドロイド開発の賜物なのだ。私の政策には――」
 やや熱を持って(脂肪をこれでもかと揺らし)演説を始めた奈々川首相。

「そんな……」
 これでは、奈々川さんが言った失業者を急増させる都市が、現実のものとなってしまう。人は希望や努力を奪うと何もできないものではないだろうか?農業や漁といっても失業者である何千万の人々がやれるわけではないはずだ。
 奈々川首相はB区のことしか頭にないどころか、人々のことを考えているのだろうか……。
 それに、私たちA区の人たちは、高価なパソコンなんて買ったら、銃や弾丸が買えない。弾丸は毎日必要なのだ。

「話は終わったな。君のことは警察の者に引き渡すよ。容疑は(奈賀の)殺人罪と娘の監禁罪だ。後、合田くんと奈賀くん。これから私は国会へ行くので、その護衛を……」
 奈賀 比企下……私が撃った男だった。どうやら、変装していたのだろう。


「二人は探偵か……」



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

処理中です...