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不思議なドア
2話
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しばらく、壁に出来た穴を這っていくと出口が現れた。真っ暗な穴から光が差し込んでいる。僕はそこまで這っていくと、また別の通路へと出た。
その通路はドアがいくつかあり、また、安全だった。
「おい、蜘蛛。お腹が空いてきたよ」
僕は朝から何も食べていなかった。おじいちゃんの死を知らされてから、今まで走りっぱなしだった。
「そのドアを開けてみな」
蜘蛛の言う通りに赤いドアを軽くノックして開けると、
「いらっしゃい。おチビちャん」
中には、包丁片手に黄色のエプロン姿の筋肉隆々の中年男性がいた。髪は少し茶色を覗かせている。白い色のズボンとシャツを着ている。精悍な顔つきはボクシングでもしているのだろう。
「こんにちは」
「おチビちゃん。お腹は空いてないかい。よかったら食べていきなよ」
気軽な口調の中年男性は僕に御馳走してくれるみたいだ。僕は今日一日での初めての食事を切望した。
その部屋は正面から全て見える。いとこのおにいちゃんのいる1Kのようだった。こじんまりとしていて、手前が大きな鍋があるキッチン。奥の部屋は小さいベットが端っこにポツンとある。独り暮らしのようで、ちょっとだけの生活感。ちょっと留守にするだけで生活感が消えそうな場所だ。
僕は小さいテーブルに座った。蜘蛛は何を食べるのだろう。
「おい、おじさん。俺にはキュウリを」
肩に乗った蜘蛛がきゅうりを貰おうとする。
「了解。蜘蛛さんには新鮮なきゅうりをやろう。おチビちゃん待っててくれ、今とびきりの飯をくれてやるから」
中年男性は意気揚揚とキッチンで包丁を振るい。少しの間で大きな鍋にいろいろな食材を入れるようになる。
辺りにとてもいい匂いがしてきて、僕は改めて空腹感を覚える。
「ほれ出来たぞ。じゃんじゃん召し上がれ」
ドッカと小さいテーブルにはみ出しそうな皿が二つ、大きなハムサンドバーガーだった。中の野菜はシチューのように味付けされた鍋の中で出来上がったようだ。分厚いハムは適度に火を通してあり、熱々の肉の旨味を醸し出していた。
「ありがとう」
僕はとてもおいしいハムサンドバーガーを御馳走になった。
肩に乗っていた蜘蛛はテーブルに落っこちてきて新鮮なキュウリにありついた。
中年男性とゆっくりとした食事を終えると、僕と蜘蛛のお腹がいっぱいになり、眠くなってきた。
「おチビちゃん。今日は泊まってきな」
小さいテーブルに向かいあった中年男性がシチューは美味いかとも言ったが、僕は眠気に打ち勝つことが出来ない頭でただ肯いて、
「ありがとう」
端っこのベットに寝かせてもらった。中年男性は床にタオルケットを敷いて寝転んだ。時間は今何時だろう。次第に眠気が僕の瞼を重くしていった……。
「坊主。明日はどの部屋で寝るんか」
肩の蜘蛛が薄い掛け布団の上に乗った。
「どこかにはこの部屋のようなところがあるさ」
僕はあまり気にせずに楽観視して眠りに着いた。
翌朝は天気が解らないので、取り合えず気分的に快晴。
「よお、おチビちゃん。おはよう。今、朝食を作るよ」
中年男性があっという間に起き出した。
僕は今までになかった爽快な気分で起き出す。ここにはあの意地悪な両親がいない。僕とドアの住人と蜘蛛だけだ。そうだ、蜘蛛に名前を付けよう。
「ねえ、蜘蛛。君は名前を持っているかい?」
ベットの上にいた蜘蛛は僕の肩までやってきて、
「それなら無いぞ。坊主」
「じゃあ。僕が付けてあげよう。蜘蛛……。雲助?雲助にしよう」
僕はうんと伸びをしてから、
「この館には雲や空が無いから、時々見たくなる空から名前を持ってきたんだ」
「雲助か……。まあいいだろう」
そんなことをしていると、
「出来たぞおチビちゃん」
今日はカレー。
せせこましいキッチンには中年男性と僕だけでスペースがいっぱいになった。カレーの匂いが充満し、それだけでも食欲が満たされそうだ。
「おチビちゃん。何日か泊まるのかい。泊まっていきなよ」
やさしい中年男性の声に、
「いや、御免。もう出掛けないと……この館の探険をしたいし。あまり遅いとおじいちゃんになってしまうかも」
「どうしても行くのかい」
筋肉隆々の中年男性がスプーン片手に僕に寂しそうに話しかける。
「うん。他のドアも知りたいし」
僕は嫌と言うほどの冒険という名の探究心に奮い立たされている。そんな気持ちも今まで一度も持ったことがなかった。
ドアを開け、おじいちゃんの館へと戻る。雲助と振り向くと、中年男性がゆっくりと手を振っていた。
ドアだらけの空間を右に左に入り組んだ迷路のような道を歩く。色とりどりの同じ形のドアを目にしては僕は楽しくて仕方がない。豪華にも装飾や天使や女神の絵が設けられた天井には、無数の蛍光灯が縦横無尽にあった。でたらめな作り方だったけど、見ていて楽しい。
その通路はドアがいくつかあり、また、安全だった。
「おい、蜘蛛。お腹が空いてきたよ」
僕は朝から何も食べていなかった。おじいちゃんの死を知らされてから、今まで走りっぱなしだった。
「そのドアを開けてみな」
蜘蛛の言う通りに赤いドアを軽くノックして開けると、
「いらっしゃい。おチビちャん」
中には、包丁片手に黄色のエプロン姿の筋肉隆々の中年男性がいた。髪は少し茶色を覗かせている。白い色のズボンとシャツを着ている。精悍な顔つきはボクシングでもしているのだろう。
「こんにちは」
「おチビちゃん。お腹は空いてないかい。よかったら食べていきなよ」
気軽な口調の中年男性は僕に御馳走してくれるみたいだ。僕は今日一日での初めての食事を切望した。
その部屋は正面から全て見える。いとこのおにいちゃんのいる1Kのようだった。こじんまりとしていて、手前が大きな鍋があるキッチン。奥の部屋は小さいベットが端っこにポツンとある。独り暮らしのようで、ちょっとだけの生活感。ちょっと留守にするだけで生活感が消えそうな場所だ。
僕は小さいテーブルに座った。蜘蛛は何を食べるのだろう。
「おい、おじさん。俺にはキュウリを」
肩に乗った蜘蛛がきゅうりを貰おうとする。
「了解。蜘蛛さんには新鮮なきゅうりをやろう。おチビちゃん待っててくれ、今とびきりの飯をくれてやるから」
中年男性は意気揚揚とキッチンで包丁を振るい。少しの間で大きな鍋にいろいろな食材を入れるようになる。
辺りにとてもいい匂いがしてきて、僕は改めて空腹感を覚える。
「ほれ出来たぞ。じゃんじゃん召し上がれ」
ドッカと小さいテーブルにはみ出しそうな皿が二つ、大きなハムサンドバーガーだった。中の野菜はシチューのように味付けされた鍋の中で出来上がったようだ。分厚いハムは適度に火を通してあり、熱々の肉の旨味を醸し出していた。
「ありがとう」
僕はとてもおいしいハムサンドバーガーを御馳走になった。
肩に乗っていた蜘蛛はテーブルに落っこちてきて新鮮なキュウリにありついた。
中年男性とゆっくりとした食事を終えると、僕と蜘蛛のお腹がいっぱいになり、眠くなってきた。
「おチビちゃん。今日は泊まってきな」
小さいテーブルに向かいあった中年男性がシチューは美味いかとも言ったが、僕は眠気に打ち勝つことが出来ない頭でただ肯いて、
「ありがとう」
端っこのベットに寝かせてもらった。中年男性は床にタオルケットを敷いて寝転んだ。時間は今何時だろう。次第に眠気が僕の瞼を重くしていった……。
「坊主。明日はどの部屋で寝るんか」
肩の蜘蛛が薄い掛け布団の上に乗った。
「どこかにはこの部屋のようなところがあるさ」
僕はあまり気にせずに楽観視して眠りに着いた。
翌朝は天気が解らないので、取り合えず気分的に快晴。
「よお、おチビちゃん。おはよう。今、朝食を作るよ」
中年男性があっという間に起き出した。
僕は今までになかった爽快な気分で起き出す。ここにはあの意地悪な両親がいない。僕とドアの住人と蜘蛛だけだ。そうだ、蜘蛛に名前を付けよう。
「ねえ、蜘蛛。君は名前を持っているかい?」
ベットの上にいた蜘蛛は僕の肩までやってきて、
「それなら無いぞ。坊主」
「じゃあ。僕が付けてあげよう。蜘蛛……。雲助?雲助にしよう」
僕はうんと伸びをしてから、
「この館には雲や空が無いから、時々見たくなる空から名前を持ってきたんだ」
「雲助か……。まあいいだろう」
そんなことをしていると、
「出来たぞおチビちゃん」
今日はカレー。
せせこましいキッチンには中年男性と僕だけでスペースがいっぱいになった。カレーの匂いが充満し、それだけでも食欲が満たされそうだ。
「おチビちゃん。何日か泊まるのかい。泊まっていきなよ」
やさしい中年男性の声に、
「いや、御免。もう出掛けないと……この館の探険をしたいし。あまり遅いとおじいちゃんになってしまうかも」
「どうしても行くのかい」
筋肉隆々の中年男性がスプーン片手に僕に寂しそうに話しかける。
「うん。他のドアも知りたいし」
僕は嫌と言うほどの冒険という名の探究心に奮い立たされている。そんな気持ちも今まで一度も持ったことがなかった。
ドアを開け、おじいちゃんの館へと戻る。雲助と振り向くと、中年男性がゆっくりと手を振っていた。
ドアだらけの空間を右に左に入り組んだ迷路のような道を歩く。色とりどりの同じ形のドアを目にしては僕は楽しくて仕方がない。豪華にも装飾や天使や女神の絵が設けられた天井には、無数の蛍光灯が縦横無尽にあった。でたらめな作り方だったけど、見ていて楽しい。
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