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第395話:最後の独身夜
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イザベラの二十歳の誕生日、そしてアキオとの結婚式を翌日に控えた夜。
新・中央館は、明日の祝宴の準備に追われる侍女たちの心地よい足音も止み、静寂に包まれていた。
だが、主役であるイザベラは、自室のベッドに入ったものの、高鳴る胸の鼓動を抑えきれずにいた。
「……眠れませんわ」
彼女はベッドを抜け出し、薄絹のガウンを羽織ると、夜風に当たるためにバルコニーへと出た。
眼下には、聖域の街並みが月光に照らされ、静かに眠っている。かつては光さえ知らなかった自分が、今こうして美しい景色を眺め、愛する人の妻になろうとしている。その奇跡に、改めて胸が熱くなる。
「やはり、ここにいたか」
背後から、愛しい人の声がした。
振り返ると、そこには寝間着姿のアキオが、優しげな瞳で立っていた。手に持った二つのグラスが、月明かりを受けてキラリと光る。
「アキオ様……。申し訳ありません、明日のお支度があるのに、目が冴えてしまって」
「構わないさ。俺もだ」
アキオは隣に並び、グラスの一つをイザベラに手渡した。中には、アヤネ特製の果実水が入っている。
「……長かったか?」
アキオの問いに、イザベラは少し考えてから、首を横に振った。
「いいえ。とても濃密で、幸せな時間でしたわ。光を取り戻し、皆様と出会い、そして……アキオ様に恋をして。待っている時間は、愛を育てるための大切な準備期間でしたの」
イザベラはグラスを両手で包み込み、アキオを見上げた。
その瞳は、出会った頃の怯えた少女のものではない。愛を知り、覚悟を決めた、一人の大人の女性の瞳だった。
「アキオ様。わたくし、夢を見ているようです。あの日、暗闇の中で貴方様の温かい手に触れた時から、ずっと……」
「夢じゃないさ。明日からは、もっと幸せな現実が始まるんだ」
アキオは空いた手で、イザベラの頬をそっと包んだ。
古代都市から持ち帰った技術で、生活は便利になった。だが、こうして肌と肌が触れ合う温もりだけは、どんな技術も代わりにはなれない。
「イザベラ。俺との約束を守ってくれて、ありがとう。……明日は、世界で一番美しい花嫁にしてやるからな」
「はい……。貴方様の妻になれること、心から誇りに思います」
二人はグラスを軽く合わせ、静かに口をつけた。
甘い果実の香りが広がる。それは、これから始まる甘い新婚生活の予感のようでもあった。
「さあ、もう休もう。目の下に隈(くま)ができていたら、シルヴィアたちに怒られてしまう」
「ふふ、そうですわね。……おやすみなさいませ、アキオ様」
「ああ。おやすみ、俺のプリンセス。……『独身』としての最後の夜を、ゆっくり楽しむといい」
アキオは彼女の額にそっとキスを落とすと、名残惜しそうに部屋を後にした。
扉が閉まる音を聞きながら、イザベラは再びバルコニーの手すりに寄りかかった。
月が綺麗だ。
明日はきっと、素晴らしい日になる。
聖域の第9夫人が誕生する朝は、もうすぐそこまで来ていた。
新・中央館は、明日の祝宴の準備に追われる侍女たちの心地よい足音も止み、静寂に包まれていた。
だが、主役であるイザベラは、自室のベッドに入ったものの、高鳴る胸の鼓動を抑えきれずにいた。
「……眠れませんわ」
彼女はベッドを抜け出し、薄絹のガウンを羽織ると、夜風に当たるためにバルコニーへと出た。
眼下には、聖域の街並みが月光に照らされ、静かに眠っている。かつては光さえ知らなかった自分が、今こうして美しい景色を眺め、愛する人の妻になろうとしている。その奇跡に、改めて胸が熱くなる。
「やはり、ここにいたか」
背後から、愛しい人の声がした。
振り返ると、そこには寝間着姿のアキオが、優しげな瞳で立っていた。手に持った二つのグラスが、月明かりを受けてキラリと光る。
「アキオ様……。申し訳ありません、明日のお支度があるのに、目が冴えてしまって」
「構わないさ。俺もだ」
アキオは隣に並び、グラスの一つをイザベラに手渡した。中には、アヤネ特製の果実水が入っている。
「……長かったか?」
アキオの問いに、イザベラは少し考えてから、首を横に振った。
「いいえ。とても濃密で、幸せな時間でしたわ。光を取り戻し、皆様と出会い、そして……アキオ様に恋をして。待っている時間は、愛を育てるための大切な準備期間でしたの」
イザベラはグラスを両手で包み込み、アキオを見上げた。
その瞳は、出会った頃の怯えた少女のものではない。愛を知り、覚悟を決めた、一人の大人の女性の瞳だった。
「アキオ様。わたくし、夢を見ているようです。あの日、暗闇の中で貴方様の温かい手に触れた時から、ずっと……」
「夢じゃないさ。明日からは、もっと幸せな現実が始まるんだ」
アキオは空いた手で、イザベラの頬をそっと包んだ。
古代都市から持ち帰った技術で、生活は便利になった。だが、こうして肌と肌が触れ合う温もりだけは、どんな技術も代わりにはなれない。
「イザベラ。俺との約束を守ってくれて、ありがとう。……明日は、世界で一番美しい花嫁にしてやるからな」
「はい……。貴方様の妻になれること、心から誇りに思います」
二人はグラスを軽く合わせ、静かに口をつけた。
甘い果実の香りが広がる。それは、これから始まる甘い新婚生活の予感のようでもあった。
「さあ、もう休もう。目の下に隈(くま)ができていたら、シルヴィアたちに怒られてしまう」
「ふふ、そうですわね。……おやすみなさいませ、アキオ様」
「ああ。おやすみ、俺のプリンセス。……『独身』としての最後の夜を、ゆっくり楽しむといい」
アキオは彼女の額にそっとキスを落とすと、名残惜しそうに部屋を後にした。
扉が閉まる音を聞きながら、イザベラは再びバルコニーの手すりに寄りかかった。
月が綺麗だ。
明日はきっと、素晴らしい日になる。
聖域の第9夫人が誕生する朝は、もうすぐそこまで来ていた。
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