五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第105話:揺れる妻心、森からの来訪者

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 聖霊様の衝撃的な変貌と、彼女に明らかに心を奪われたアキオの様子は、その夜の中央館での緊急妻会に重たい空気をもたらしていた。ランプの灯りが、シルヴィア、アヤネ、キナ、レオノーラ、そしてセレスティーナの真剣な顔を照らし出す。

「…というわけなのじゃ。わらわは、アキオを愛しておる。そして、この村と森の未来のために、アキオとの間に子を成し、その子に森の創成を託したい。じゃが、それには聖霊としての力を失うやもしれぬという危険が伴う…」
 変化後の美しい姿のまま、しかしその瞳には真摯な光を宿して、聖霊様は自らの壮大な計画と、それに伴うリスクを包み隠さず妻たちに語った。生命樹の実を食べたことで、以前より力が増した感覚はあるものの、子を成すことへの影響が完全に消えたわけではない、と。

 聖霊様の言葉に、妻たちは押し黙った。誰もが聖霊様への深い感謝と尊敬の念を抱いている。彼女がアキオとこの町を心から愛し、その未来を真剣に考えていることは痛いほど伝わってくる。しかし、そのために彼女自身が大きな犠牲を払うかもしれないという事実は、あまりにも重かった。

 最初に口を開いたのは、正妻であるシルヴィアだった。
「聖霊様…貴女様のお気持ち、そしてアキオ様への深い愛情は、痛いほど理解できます。ですが、貴女様がその力を失ってしまうかもしれないという危険を、私たちは安易に受け入れることはできません…」
 その声には、家族全体の調和と聖霊様の安全を願う苦悩が滲んでいた。
 アヤネも、「聖霊様の純粋な想いを疑うわけではありません。でも…そのご決断は、あまりにも…」と言葉を濁す。アキオが聖霊様に惹かれていることも察しており、複雑な心境だった。
「聖霊様がそんな危ねえことしなくても、村のことはだんなとあたしたちで何とかするぜ!」キナが真っ直ぐな目で言う。
 レオノーラも、「聖霊様には、この町の守り手として、末永くお健やかでいていただきたいのです」と静かに続けた。
 セレスティーナもまた、「貴女様のお心は、アキオ様も、私たちも、きっと同じように大切に思っております。ですが、その代償は…」と眉を曇らせた。

 妻たちの言葉は、どれも聖霊様を深く思いやるからこそのものだった。しかし、聖霊様の決意もまた固い。アキオはこの話し合いには直接参加していなかったが、聖霊様から直接その想いと計画を聞かされており、妻たちと同様に、あるいはそれ以上に深く葛藤していた。
 結局、その夜の妻会では結論は出ず、それぞれが複雑な想いを抱えたまま、一旦解散となった。

 翌日、アキオはレオノーラと共に、町の警備状況の確認と、森の主が以前暴れたことで境界線が曖昧になったエリアの巡回に出かけていた。聖霊様の件で頭がいっぱいだったが、村長としての務めは果たさねばならない。
 森の奥へと慎重に進んでいくと、不意に複数の人影が茂みから現れた。彼らは皆、疲労困憊の様子で、しかしその目には切実な光を宿していた。武装はしているものの、敵意は感じられない。
「止まれ! 何者だ!」レオノーラが鋭く声を上げ、剣の柄に手をかける。
 その中の一人、リーダー格と思われる壮年の男が、悲痛な面持ちで一歩前に出た。
「我々は…数ヶ月前、この森の恐ろしい何者かに村を襲われ、逃げ延びた者たちを探してここまで来た。もう…生きている者はいないかもしれぬ。じゃが、もしこのあたりに同胞が埋葬されているのであれば、せめて墓標なり、花の一本でも手向けたいのだ。もっと早くに見つけられればよかったのだが、この森はあまりに深く、我々だけでは太刀打ちできなくてな…」
 男の言葉に、アキオは目を見開いた。彼らが探しているのは、間違いなく、アキオたちが保護した避難民たちのことだろう。
「…あなた方が探している村の人々は、生きていますよ」
 アキオが静かに告げると、探索者たちは一様に顔を上げた。
「えっ? 生きて…いる? 本当か!?」
「ええ、我々の町で保護しています。怪我をされた方もいましたが、今は皆、元気に暮らしています」
「おお…! なんということだ…!」
 探索者たちの中から、嗚咽が漏れ始める。

 アキオとレオノーラは、彼らを町へと案内した。中央館の広場に避難民たちが集められると、そこにはまさに奇跡のような光景が広がった。
「父さん!」「マリア! 生きていたのか!」「ああ、神よ…!」
 抱き合って涙する者、互いの無事を喜び合う者、そしてアキオたちに向かって何度も何度も頭を下げる者たち。それは、絶望の淵から救い上げられた者たちと、彼らを必死で探し求めていた者たちとの、感動的な再会の瞬間だった。
 探索者たちは、アキオの町の豊かな自然、生命樹の神々しい佇まい、そして何よりも、そこに住む人々の温かさと活力に目を見張った。そして、自分たちの同胞が、これほど安全で豊かな場所で保護されていたことに、心の底から感謝の言葉を述べた。
「アキオ殿…いや、村長様! このご恩は、決して忘れませぬ!」
 探索者たちのリーダーは、アキオの前に深々と膝をつき、感謝のあまり言葉も途切れ途切れだった。

 聖霊様の愛と決意、そしてそれに揺れる妻たちの心。
 時を同じくして訪れた、森からの来訪者たちと感動の再会。
 アキオの町は、内なる愛の問題と、外からの新たな繋がりという、二つの大きな出来事に直面していた。これらの出来事が、この町とアキオ、そして聖霊様の未来にどのような影響を与えていくのか、それはまだ誰にも予測できなかった。
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