五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
114 / 400

第114話:アルトの名と女騎士の熱情

しおりを挟む
 アキオの町では、妻たちの覚醒という大きな出来事の後も、変わらぬ日常が続いていた。その日は、中央館の広場で、アルト、ケンタ、ミコ、ユメ、そしてもう一人、同年代の村の少年が、何やら楽しげに木剣の訓練に励んでいた。五人の若者たちが元気に動き回る姿を、アキオは縁側から微笑ましく眺めていた。

 ふと、アキオは長年心の隅で感じていた小さな疑問を思い出した。それは、アルトの名前についてだった。ケンタ、ミコ、ユメといった名前は、どこかこの世界の響きとして自然に感じるのだが、アルトという名前だけが、ほんの少し異質な、それでいて聞き慣れたような不思議な響きを持っているように思えたのだ。
「なあ、アルト」訓練が一段落し、汗を拭うアルトに、アキオは声をかけた。「お前の名前なんだが、何か由来とかあるのか? 例えば、故郷で特別な意味があるとか…」
 他の四人も興味深そうにアキオとアルトを見る。
 アルトは少し照れたように頭を掻きながら答えた。
「いえ、アキオ様。実は、俺の本当の名前は…確か『ハルト』だったと思うんです」
「ハルト?」アキオは首を傾げる。
「はい。でも、まだ小さかった頃、村で誰かが遠くから俺を呼ぶ声が、どうも上手く聞き取れなかったみたいで…『ハルトー!』が、風に乗ったりすると『アルトー!』って聞こえちゃったらしいんです。それで、いつの間にか周りの皆も『アルト』って呼ぶようになって…俺自身も、もうすっかり『アルト』で慣れちまってます」
 アルトははにかみながら説明した。ミコやユメも「へえ、そうだったんだー!」と初めて聞く話に目を丸くしている。
 アキオは、その思わぬ由来に思わず笑みをこぼした。遠くからの呼び声の聞き間違いが、一人の少年の名前として定着してしまったとは。だが、「アルト」という名前は、今の彼によく似合っている。実直で、力強く、そしてどこか澄んだ響きがある。
「そうか、ハルトだったのか。だが、アルトという名前も、お前らしくて良い名前だと思うぞ」
 アキオの言葉に、アルトは嬉しそうに「ありがとうございます!」と頭を下げた。長年の小さな疑問が解けたアキオは、どこか晴れやかな気持ちで、再び若者たちの賑やかな声に耳を傾けるのだった。

 その日の午後、アキオの心は別のことで占められていた。今日は、第四夫人であるレオノーラと過ごす日。最近、妻たちの覚醒が相次ぎ、アキオ自身も彼女たちとの新たな関係性を育む中で、どこか満たされた日々を送っていた。しかし、その一方で、町の運営や大きな計画についてはドルガンやアルト、シルヴィアたちに任せることも増え、元来身体を動かすことが好きなアキオにとっては、少しばかりエネルギーが有り余っている状態でもあった。
(レオノーラとの時間は、久しぶりに思い切り…いや、彼女の訓練の邪魔をしては悪いな)
 そんなことを考えながら訓練場へ向かうと、ちょうどレオノーラが激しい鍛錬を終え、軽装鎧のまま息を整えているところだった。額には玉の汗が光り、白い肌は火照ってうっすらと赤みを帯びている。鍛え上げられた身体のラインを強調する濡れた訓練着と、わずかに金属の匂いが混じる汗の香りが、アキオの理性を強く揺さぶった。
「アキオ殿…お待ちしておりました」レオノーラがアキオに気づき、騎士らしい敬礼をしようとする。
 だが、アキオは待ちきれなかった。有り余るエネルギーと、目の前のレオノーラのあまりにも魅力的な姿に、彼の衝動は限界を超えていた。
「レオノーラッ!」
「ひゃっ?! ア、アキオ殿?!」
 アキオは、驚くレオノーラを力強く抱き寄せると、彼女が「わ、わたくしは汗臭いですわ…!」と抗議するのも聞かず、その唇を貪るように塞いだ。軽装鎧の硬い感触と、その下の熱く柔らかな肌のコントラストが、アキオをさらに興奮させる。レオノーラも初めは驚きと戸惑いを見せていたが、アキオの剥き出しの情熱と、自身の内に眠る覚醒した力が呼応するかのように、やがてその身を委ね、熱い吐息を漏らし始めた。
 その場での子作りは、まさに嵐のようだった。アキオの有り余るエネルギーと、レオノーラの鍛え上げられた肉体と覚醒した力がぶつかり合い、互いの全てを求め合う、激しくも純粋な交歓。それは、もはや訓練場の一角とは思えぬほどの、濃密な愛の空間と化していた。

 事が終わり、ぜえぜえと肩で息をするアキオに対し、レオノーラは頬を真っ赤に染めながらも、どこかスッキリとしたような、それでいて少し呆れたような表情でアキオを見つめていた。
「アキオ殿…貴方というお方は…! 少しは場所と状況をお考えください!」
 言葉は厳しかったが、その声には怒りよりも、むしろ心地よい疲労感と、そして隠しきれない喜びが滲んでいる。
「はは…すまん、レオノーラ。だが、君があまりにも魅力的だったからな…」
 アキオは悪びれもなく笑う。結局、レオノーラもそれ以上は何も言えず、二人で連れ立って温泉へと向かうことになった。

 温泉で汗を流し、互いの身体を清め合うと、先ほどの激しさとは打って変わって、穏やかで甘やかな時間が流れ始めた。そして、アキオはレオノーラの大きな変化に改めて気づかされる。
 湯に浸かる彼女の肌は、以前の騎士としての生活で刻まれた無数の古傷や荒れが嘘のように消え去り、まるで磨き上げられた白磁のような、ハリと艶のある滑らかなものへと変わっていたのだ。
「レオノーラ…本当に、綺麗になったな…肌が、ツヤツヤだ」
 アキオが感嘆の声を漏らすと、レオノーラは恥ずかしそうに俯きながらも、その手でそっと自身の腕を撫でた。
「…はい。アキオ殿の、あの…祝福のおかげで…。今まで、肌のことなど気にしたこともありませんでしたが…このように綺麗になると、その…少し、嬉しいものなのですね…」
 彼女の声は、いつになくか細く、そして甘やかだった。かつては、その傷だらけの肌に、女性としての自信を持てずにいたレオノーラ。だが、今は違う。生まれ変わったような美しい肌は、彼女の内に眠っていた女性としての喜びと自信を呼び覚ましたのだ。
 そして、レオノーラは、アキオの胸にそっと寄りかかり、まるで猫のように甘え始めた。それは、以前アキオが「お気に入り」として引き出した、彼女の意外な一面の、さらにその先にある、心からの信頼と愛情に満ちた甘え方だった。
「アキオ殿…もっと…わたくしに触れてください…」
 その言葉と共に、アキオを見上げるレオノーラの表情に、彼はハッと息をのんだ。
 レオノーラは、他の妻たちと比べると、どこか顔つきがやや険しい。切れ長の涼やかな眼は、騎士としての彼女を象徴するものであり、時にはそれが冷たく、人を寄せ付けない印象を与えることもあった。だが、今の彼女の表情は違った。その鋭い眼差しはそのままだが、覚醒によって内側から滲み出るような生命力と、アキオへの深い愛情が、そこに得も言われぬ「艶やかさ」を加えているのだ。それは、単に美しいという言葉では足りない、見る者の心を射抜くような、まさに「破壊力抜群」の魅力だった。
「レオノーラ…」
 アキオは、その新たな魅力に完全に心を奪われ、再び彼女を強く抱きしめた。騎士としての誇りと強さ、そして生まれ変わった女性としての自信と艶やかさ。その全てを併せ持つレオノーラは、アキオにとって、また一人、かけがえのない、そして抗いがたいほどに愛しい存在となったのだった。
 温泉での時間は、先ほどの訓練場での激しさとは対照的に、ひたすら優しく、そして甘美に過ぎていった。レオノーラがこれほどまでに素直に甘え、そして女性としての喜びを全身で表現するのは、アキオにとっても初めての経験であり、その夜は二人にとって忘れられない、新たな絆を育む一夜となった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

家ごと異世界ライフ

もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...