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第128話:聖樹の恵みと商人の道、母となるアヤネの輝き
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アキオの町は、多くの新しい命の誕生を間近に控え、冬の寒さの中にも温かな期待感に満ちていた。その中心には、アキオの愛する妻たちの存在がある。
アヤネは、妊娠四ヶ月半ばを迎え、そのお腹の膨らみは傍目にもはっきりと分かるようになってきた。つわりもすっかりと落ち着き、その表情は母となる喜びに輝き、内側から発光するような穏やかな美しさを湛えている。彼女の「生命を育む慈愛の力」の萌芽は、自身の妊娠にも良い影響を与えているのか、体調は驚くほどすこやかだった。アキオは、そんなアヤネの身体を気遣い、時間を見つけては彼女のそばに寄り添い、お腹の子に優しく話しかけるのが日課となっていた。
キナ、セレスティーナ、レオノーラ、そしてヘルガもまた、それぞれの形で母となる準備を進めており、中央館は妊婦たちの穏やかな談笑や、生まれてくる子供たちのための品々を手作りする温かい光景に包まれている。アウロラもまた、「暁の御子」をその身に宿し、生命樹の麓で静かに瞑想するその姿は、まさに聖母そのものだった。
そんなある日、中央館の一室で、アキオ、シルヴィア、アウロラ、そしてセレスティーナとレオノーラが集まり、改めてエルドリア王国に関する話し合いが持たれていた。
「ヴァルト子爵から伺った情報は、僅かとはいえ、私たちにとって大きな希望となりました。ですが、弟クリストフや抵抗を続ける同胞たちの具体的な状況は、依然として分かりません…」
セレスティーナは、祈るような表情で言葉を続ける。
シルヴィアが静かに頷いた。「確かに、子爵様ご自身も、その情報の真偽は不明だとおっしゃっていました。おそらく、子爵様もまた、誰かから伝え聞いた情報なのでしょう」
「そうか…」アキオが腕を組む。「子爵が情報を得た相手…それが商人であれば、話は繋がるかもしれんな。交易路を通じて、様々な情報が集まるだろうから」
レオノーラが顔を上げた。「では、子爵様が情報を得たという商人を特定できれば…あるいは、同様にエルドリアの山岳地帯へ通じる可能性のある商人を見つけ出すことができれば、新たな手がかりが得られるかもしれません!」
アウロラもまた、その提案に静かに同意した。「商人たちは、時に国家間の密使よりも深く、そして広く情報網を持つことがあるからのぅ。じゃが、危険な情報や任務には、それ相応の対価が必要となろう」
そこでアキオは、妻たちと相談の上で、一つの決断を下した。それは、アキオの町が持つ最大の秘密の一つであり、切り札とも言える「生命樹の実」を、この目的のために限定的に活用することだった。
「俺が手折った生命樹の実は、特別な力を持つようだ。アウロラがそうであったようにな。これを、信頼できる商人に示し、協力を得るための対価とするのはどうだろうか。もちろん、実の出所は絶対に秘密にしてもらう、という条件付きで」
アキオの提案に、妻たちは真剣な表情で頷いた。それは、町の宝を外部の取引に使うという、大きな決断だったが、セレスティーナの悲願を思うと、それだけの価値があると考えられた。
数日後、アキオたちは、ヴァルト子爵領から産婆たちを送り届けるためにアキオの町に滞在していた商人団の中から、特にヴァルト子爵の信頼が厚く、かつてエルドリア方面へも交易に赴いたことがあるという壮年の商人、ヨハンという男を選び出し、密かに面会の機会を設けた。場所は、中央館の奥にある、人目につかない一室。アキオ、シルヴィア、そして当事者であるセレスティーナが彼と向き合った。
アキオはまず、ヨハンにこれまでの労をねぎらい、ヴァルト子爵との友好関係を深めたい旨を伝えた後、本題に入った。
「ヨハン殿、実は貴殿にお願いしたい、極めて内密な仕事がある。成功すれば、貴殿のこれまでの商人生涯で手にしたことのないほどの報酬をお約束しよう」
ヨハンは、アキオの真剣な眼差しに、ゴクリと喉を鳴らした。
アキオは、シルヴィアに目配せすると、彼女は大切に携えてきた小さな木箱を開け、中からアキオが数日前に生命樹から手ずから手折った、瑞々しい一つの実を取り出した。その実は、仄かな光を放ち、部屋全体に清浄な香りを漂わせる。
「これは…?」
「生命樹の実だ。特別な力が宿っている。例えば…」アキオは、その実からほんの僅かなかけらを削ぎ取り、ヨハンに差し出した。「試してみるといい」
ヨハンは、半信半疑ながらも、そのかけらを口にした。瞬間、彼の身体を経験したことのないほどの活力が貫き、長年の旅で蓄積した疲労が霧散し、持病であった腰の痛みが嘘のように消え去ったのを実感した。
「こ、これは…なんという霊薬だ! まさに奇跡…!」
ヨハンの驚愕の表情を見て、アキオは静かに続けた。
「エルドリア王国の抵抗勢力、そして保護されていると噂される幼い王子に関する、確かな情報を手に入れてほしい。可能であれば、この小さな包み(セレスティーナが震える手で差し出した、弟への想いを綴った手紙とお守り)を、信頼できるルートで彼らの元へ届けてほしいのだ」
アキオは、報酬としてさらに数個の生命樹の実を提示し、そしてこの実の出所については絶対に口外しないことを、神に誓って約束させた。
ヨハンは、生命樹の実の驚異的な効果と、その価値を瞬時に理解した。依頼の内容は極めて危険であり、成功の保証もない。しかし、目の前にある報酬は、そのリスクを補って余りあるものだった。そして何よりも、アキオたちの真摯な願いと、セレスティーナの悲痛なまでの表情が、彼の心を動かした。
「…アキオ様。このお仕事、お引き受けいたします。私の持つ全ての情報網と人脈を使い、必ずやご期待に応えてみせましょう。この実の秘密は、命に代えても守ります」
ヨハンは、深々と頭を下げた。セレスティーナは、涙を浮かべながら「ありがとうございます…ヨハン殿…」と、か細い声で礼を述べた。
こうして、アキオの町の聖なる恵みは、セレスティーナの細くも確かな希望の糸となり、遠いエルドリアの地へと繋がろうとしていた。
アキオの町では、貨幣制度の導入については、引き続きドルガンやアルトたちが必要性や方法論について議論を重ねていたが、アキオ自身は、まず外部との信頼関係を深め、町の基盤をさらに固めることが先決と考え、焦らずにその推移を見守ることにしていた。
全ては、この聖域に集う愛する者たちの、穏やかで幸福な未来のために。
アヤネは、妊娠四ヶ月半ばを迎え、そのお腹の膨らみは傍目にもはっきりと分かるようになってきた。つわりもすっかりと落ち着き、その表情は母となる喜びに輝き、内側から発光するような穏やかな美しさを湛えている。彼女の「生命を育む慈愛の力」の萌芽は、自身の妊娠にも良い影響を与えているのか、体調は驚くほどすこやかだった。アキオは、そんなアヤネの身体を気遣い、時間を見つけては彼女のそばに寄り添い、お腹の子に優しく話しかけるのが日課となっていた。
キナ、セレスティーナ、レオノーラ、そしてヘルガもまた、それぞれの形で母となる準備を進めており、中央館は妊婦たちの穏やかな談笑や、生まれてくる子供たちのための品々を手作りする温かい光景に包まれている。アウロラもまた、「暁の御子」をその身に宿し、生命樹の麓で静かに瞑想するその姿は、まさに聖母そのものだった。
そんなある日、中央館の一室で、アキオ、シルヴィア、アウロラ、そしてセレスティーナとレオノーラが集まり、改めてエルドリア王国に関する話し合いが持たれていた。
「ヴァルト子爵から伺った情報は、僅かとはいえ、私たちにとって大きな希望となりました。ですが、弟クリストフや抵抗を続ける同胞たちの具体的な状況は、依然として分かりません…」
セレスティーナは、祈るような表情で言葉を続ける。
シルヴィアが静かに頷いた。「確かに、子爵様ご自身も、その情報の真偽は不明だとおっしゃっていました。おそらく、子爵様もまた、誰かから伝え聞いた情報なのでしょう」
「そうか…」アキオが腕を組む。「子爵が情報を得た相手…それが商人であれば、話は繋がるかもしれんな。交易路を通じて、様々な情報が集まるだろうから」
レオノーラが顔を上げた。「では、子爵様が情報を得たという商人を特定できれば…あるいは、同様にエルドリアの山岳地帯へ通じる可能性のある商人を見つけ出すことができれば、新たな手がかりが得られるかもしれません!」
アウロラもまた、その提案に静かに同意した。「商人たちは、時に国家間の密使よりも深く、そして広く情報網を持つことがあるからのぅ。じゃが、危険な情報や任務には、それ相応の対価が必要となろう」
そこでアキオは、妻たちと相談の上で、一つの決断を下した。それは、アキオの町が持つ最大の秘密の一つであり、切り札とも言える「生命樹の実」を、この目的のために限定的に活用することだった。
「俺が手折った生命樹の実は、特別な力を持つようだ。アウロラがそうであったようにな。これを、信頼できる商人に示し、協力を得るための対価とするのはどうだろうか。もちろん、実の出所は絶対に秘密にしてもらう、という条件付きで」
アキオの提案に、妻たちは真剣な表情で頷いた。それは、町の宝を外部の取引に使うという、大きな決断だったが、セレスティーナの悲願を思うと、それだけの価値があると考えられた。
数日後、アキオたちは、ヴァルト子爵領から産婆たちを送り届けるためにアキオの町に滞在していた商人団の中から、特にヴァルト子爵の信頼が厚く、かつてエルドリア方面へも交易に赴いたことがあるという壮年の商人、ヨハンという男を選び出し、密かに面会の機会を設けた。場所は、中央館の奥にある、人目につかない一室。アキオ、シルヴィア、そして当事者であるセレスティーナが彼と向き合った。
アキオはまず、ヨハンにこれまでの労をねぎらい、ヴァルト子爵との友好関係を深めたい旨を伝えた後、本題に入った。
「ヨハン殿、実は貴殿にお願いしたい、極めて内密な仕事がある。成功すれば、貴殿のこれまでの商人生涯で手にしたことのないほどの報酬をお約束しよう」
ヨハンは、アキオの真剣な眼差しに、ゴクリと喉を鳴らした。
アキオは、シルヴィアに目配せすると、彼女は大切に携えてきた小さな木箱を開け、中からアキオが数日前に生命樹から手ずから手折った、瑞々しい一つの実を取り出した。その実は、仄かな光を放ち、部屋全体に清浄な香りを漂わせる。
「これは…?」
「生命樹の実だ。特別な力が宿っている。例えば…」アキオは、その実からほんの僅かなかけらを削ぎ取り、ヨハンに差し出した。「試してみるといい」
ヨハンは、半信半疑ながらも、そのかけらを口にした。瞬間、彼の身体を経験したことのないほどの活力が貫き、長年の旅で蓄積した疲労が霧散し、持病であった腰の痛みが嘘のように消え去ったのを実感した。
「こ、これは…なんという霊薬だ! まさに奇跡…!」
ヨハンの驚愕の表情を見て、アキオは静かに続けた。
「エルドリア王国の抵抗勢力、そして保護されていると噂される幼い王子に関する、確かな情報を手に入れてほしい。可能であれば、この小さな包み(セレスティーナが震える手で差し出した、弟への想いを綴った手紙とお守り)を、信頼できるルートで彼らの元へ届けてほしいのだ」
アキオは、報酬としてさらに数個の生命樹の実を提示し、そしてこの実の出所については絶対に口外しないことを、神に誓って約束させた。
ヨハンは、生命樹の実の驚異的な効果と、その価値を瞬時に理解した。依頼の内容は極めて危険であり、成功の保証もない。しかし、目の前にある報酬は、そのリスクを補って余りあるものだった。そして何よりも、アキオたちの真摯な願いと、セレスティーナの悲痛なまでの表情が、彼の心を動かした。
「…アキオ様。このお仕事、お引き受けいたします。私の持つ全ての情報網と人脈を使い、必ずやご期待に応えてみせましょう。この実の秘密は、命に代えても守ります」
ヨハンは、深々と頭を下げた。セレスティーナは、涙を浮かべながら「ありがとうございます…ヨハン殿…」と、か細い声で礼を述べた。
こうして、アキオの町の聖なる恵みは、セレスティーナの細くも確かな希望の糸となり、遠いエルドリアの地へと繋がろうとしていた。
アキオの町では、貨幣制度の導入については、引き続きドルガンやアルトたちが必要性や方法論について議論を重ねていたが、アキオ自身は、まず外部との信頼関係を深め、町の基盤をさらに固めることが先決と考え、焦らずにその推移を見守ることにしていた。
全ては、この聖域に集う愛する者たちの、穏やかで幸福な未来のために。
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