五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
134 / 387

第134話:双生の王子と聖女の胎動、エルドリアの微光

しおりを挟む
 アキオの町は、冬の深まりと共に、次々と訪れる新しい命の誕生に、かつてないほどの喜びに沸いていた。アヤネがアサヒを、キナがルナを無事に出産し、中央館は愛らしい赤ん坊たちの声で一層賑やかになっていた。そして、その祝福の連鎖は、さらに続こうとしていた。セレスティーナとレオノーラ――二人の出産予定日が、ほぼ時を同じくして近づいていたのだ。

 その日、まず産気づいたのはセレスティーナだった。アキオは、以前アヤネの出産に立ち会った時と同じように、彼女の部屋に駆けつけ、その手を固く握りしめた。元王女としての気品を保ちながらも、額に玉の汗を浮かべ、必死に痛みに耐えるセレスティーナ。彼女の覚醒した生命力は、その身体を内側から支えているかのようだった。マーサ、シルヴィア、そしてアウロラもまた、万全の態勢で彼女の出産を助ける。
 そして、数時間の後。力強い産声と共に、セレスティーナは元気な男の子を産み落とした。それは、彼女の第一子ステラとはまた違う、アキオの面影を色濃く受け継いだ、精悍な顔つきの赤ん坊だった。
「まあ…男の子…! アキオ様、見てくださいまし、私たちの…!」
 セレスティーナは、涙ながらにその子を胸に抱いた。アキオもまた、感動に声を詰まらせながら、妻と新しい息子を優しく抱きしめた。

 驚くべきことに、セレスティーナの出産からわずか半日後、今度はレオノーラの陣痛が始まった。まるで申し合わせたかのようなタイミングに、マーサもアキオも、そして妻たちも、嬉しい悲鳴を上げながらレオノーラの部屋へと駆けつけた。
 元騎士であるレオノーラは、その鍛え上げられた精神力と、覚醒によって完璧な健康体となった肉体で、セレスティーナとはまた違う、力強い出産を見せた。彼女の出産は比較的スムーズに進み、夕暮れ時、やはり元気な男の子の産声が中央館に響き渡った。こちらの赤ん坊もまた、アキオに似た力強い生命力を感じさせる、快活そうな子だった。エルザもお兄ちゃん(あるいは弟? 年の差が僅かなので、ここでは兄としよう)の誕生に興味津々のようだ。
「アキオ殿…やりましたぞ…! 我らの、息子です…!」
 レオノーラは、汗を輝かせながらも、誇らしげな笑顔でアキオにそう告げた。

 一日も経たぬうちに、アキオ家に二人の男の子が新たに加わった。セレスティーナの息子には、彼女の故国エルドリアの賢王の名から「エドワード」、レオノーラの息子には、勇猛な騎士であった彼女の祖父の名から「ライナス」と名付けられた。
 これでアキオの子供は、アルス、リク、エルザ、ステラ、アサヒ、ルナ、そしてエドワード、ライナスと、総勢八人。町は、まさに前代未聞のベビーラッシュの頂点を迎えていた。

 成人したユメは、これらの生命の誕生の奇跡を、アキオから贈られた真新しい日記帳に、その大きな瞳で見たまま、感じたまま、真摯な言葉で綴っていた。
『――セレスティーナ様とレオノーラ様が、同じ日に、それぞれ元気な男の子をお産みになった。中央館は、赤ちゃんの泣き声と、お祝いの言葉でいっぱいだ。アキオ様は、少しやつれたけれど、とても幸せそうだった。新しい命が生まれるというのは、こんなにも町を明るくするんだなぁ、と改めて思った。私も、いつか…――』
 その筆致は、まだ拙いながらも、確かに歴史を刻む者の眼差しを感じさせた。

 アウロラの「暁の御子」の妊娠もまた、順調に進んでいた。彼女のお腹はまだそれほど目立たないが、宿る御子の存在感は日ごとに増し、アウロラ自身もまた、その神秘的な胎動に耳を澄ませ、母となる喜びを静かに噛み締めている。時には、彼女が生命樹の麓で瞑想していると、お腹の御子と生命樹が共鳴し、周囲に淡いオーロラ色の光が満ち溢れ、近くにいた動物たちが敬虔に頭を垂れるといった、不思議な現象も起こっていた。アキオは、そんなアウロラと御子のために、変わらず「聖なる営み」を続け、彼女たちを支えていた。

 そんなある日、ヴァルト子爵領から、産婆研修団の代表者と、ゲルト・リーゼロッテ夫妻の紹介を受けた一人の商人が、アキオの町を訪れた。商人ヨハンの仲間であり、彼からの最初の連絡を携えてきたのだという。
 セレスティーナは、レオノーラと共に、緊張した面持ちでその商人と対面した。アキオとシルヴィア、アウロラも同席している。
 商人が恭しく差し出したのは、ヨハンからの短い手紙と、そして小さな革袋だった。
 手紙には、エルドリアの山岳地帯への道は険しく、抵抗勢力との接触は容易ではないが、いくつかの手がかりを得て、現在慎重に調査を進めていること、そして託された手紙(セレスティーナからのもの)は、信頼できる仲介者に渡すことができた、と記されていた。
 そして、小さな革袋の中には…エルドリア王家の紋章が微かに刻まれた、古びた小さな指輪が一つ、入っていた。
「これは…! クリストフが幼い頃、私が贈った…!」
 セレスティーナは、その指輪を震える手で握りしめ、嗚咽を漏らした。それは、弟クリストフ王子が確かに生きており、そして彼女からの手紙を受け取ったという、何よりの証だった。
「王子は…ご無事なのですね…!?」
「はい。詳細はまだ掴めておりませぬが、王子は確かに、忠実な臣下に守られ、ご健勝にお過ごしであるとの情報を得ました。ただ、その周辺は依然として危険が多く、直接お会いするのは極めて困難かと…」
 商人の言葉に、セレスティーナは何度も頷き、涙ながらに感謝の言葉を述べた。まだ細く、そして遠い道のりではあるが、確かに希望の光は見えたのだ。アキオは、そんなセレスティーナの肩を強く抱きしめ、彼女の喜びを分かち合った。

 アキオの町では、新しい命の誕生が続き、若い世代が成長し、そして外部世界との繋がりの中で、新たな希望の物語が紡がれ始めていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...