五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第154話:エルドリアへの便り、聖獣たちの邂逅、そして新たな絆の兆し

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 エルドリアへの支援物資と親書の準備は、アキオと妻たち、そして町の有志たちの協力により数日のうちに整った。アキオが改良を加えた馬車は、長距離の移動にも耐えうる頑丈さと、多少の悪路でも乗り心地を損なわない工夫が凝らされている。ヴァルト子爵への連絡も済み、子爵領からはエルドリア解放地域への案内に慣れた者と、護衛の任に堪える屈強な兵士数名が協力してくれることになった。アキオの町からも、レオノーラが信頼する若い衆の中から特に腕の立つ者二名が、この重要な任務に志願した。

 出発の日。早朝の清々しい空気の中、支援物資を積み込んだ馬車と、それを護衛する者たちが中央館の前に集った。セレスティーナとレオノーラは、クリストフ王子への個人的な手紙と、エルドリアの仲間たちへのささやかな贈り物を、使者の一人に託す。その瞳には、不安と期待、そして故郷への熱い想いが複雑に交錯していた。 「どうか、よしなに…我々の想いを、王子と民へ届けてください」セレスティーナが深々と頭を下げる。 「道中、くれぐれも気をつけて。必ずや、この支援がエルドリアの夜明けを早めると信じています」レオノーラも力強く言葉を添えた。 アキオは、使者たち一人一人の肩を叩き、激励の言葉をかける。「頼んだぞ。無事に任務を果たし、そして必ず元気で帰ってきてくれ」 多くの町民に見送られ、エルドリア支援隊は、東の空が白み始める頃、ヴァルト子爵領を経由して遠きエルドリアへと、希望を乗せて静かに出発していった。その姿が見えなくなるまで、セレスティーナとレオノーラは、アキオと共に、じっとその方向を見つめ続けていた。

 支援隊が出発してから、アキオの町には穏やかながらも着実な日常が流れた。季節は春から初夏へと移り変わり、生命樹の緑は一層その輝きを増し、森は豊かな生命力に満ち溢れていた。

 それから、二月(ふたつき)余りの月日が流れた。

 この間、町では様々な変化と成長が見られた。 エルドリアへ向かった支援隊からは、ヴァルト子爵経由で「道中概ね順調に進んでいる」との短い連絡が一度あったきりで、今はただ彼らの任務の成功と無事の帰還を待つ日々が続いていた。セレスティーナとレオノーラは、日々の育児や町の仕事に励みながらも、その胸には常に故郷への想いと弟君への祈りを抱いていた。

 産婆見習いの未亡人たちは、マーサの厳しくも愛情深い指導のもと、熱心に学び、少しずつ助産や新生児のケアに関する知識と技術を身につけていった。彼女たちは共同生活にも慣れ、中央館の運営を助け、町の子供たちにも優しく接するなど、すっかりアキオの町の一員として溶け込んでいた。アキオは、彼女たちとは付かず離れずの距離を保ちつつも、その真摯な姿を温かく見守っていた。

 才媛・凛は、表向きは未亡人たちのまとめ役としての立場を続けながら、その鋭い観察眼でアキオの町の隅々までを見つめていた。アキオは、ヴァルト子爵夫妻からの手紙で彼女の過去と類稀なる才能を知って以来、意識して彼女に敬意を払い、いくつかの町の記録の整理や、資料の分類といった仕事(秘書官としての準備段階ともいえる)を依頼するようになっていた。ある日、アキオが書庫で凛に声をかけた。 「凛殿、先日頼んでいた古い文献の整理、ありがとう。君のおかげで、ずっと手が付けられなかった資料が息を吹き返したようだ。さすがだな」 アキオの率直な称賛の言葉に、凛は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに常の冷静さを取り戻し、「…お役に立てたのであれば、幸いです。アキオ様が収集された資料は、非常に興味深いものが多く、わたくし自身も学ぶところが多々ございます」と、硬質な、しかしどこか以前よりは棘の取れた声で答えた。アキオの、彼女の過去に踏み込まず、ただその能力を信頼しようとする姿勢は、凛の固く閉ざされた心に、ほんの僅かな変化をもたらしつつあるのかもしれない。

 森の聖獣たちにも変化があった。キナが世話をする「聖獣の子たち」(チビ銀たち三匹)はすっかり大きくなり、子犬サイズから中型犬ほどの体躯へと成長していた。彼らは、時折森から生命樹の元へやってくる、あの鹿に似た成体の聖霊獣にすっかり懐き、まるで親子か兄弟のようにじゃれ合ったり、森の中を共に駆け回ったりする姿が見られるようになった。成体の聖霊獣もまた、その子供たちを優しく見守り、時には何かを教え諭すかのような仕草を見せる。その光景は、アキオの町の聖域としての神秘性をさらに深めていた。

 そして、アキオ家では、新たな命の誕生への期待が日増しに高まっていた。 アヤネの二人目のお腹は、臨月を迎えんばかりに大きく膨らみ、その胎動も力強い。キナの三人目のお腹もまた、それに追いつかんばかりに大きく、彼女は「今度こそ、双子かもしれねえな!」と豪快に笑うほどだった。シルヴィアの娘セレーネ、ヘルガの娘ゲルダ、そしてアウロラの双子アキラとアケミも、多くの愛情を受けてすくすくと成長し、中央館は赤ん坊たちの笑顔と泣き声、そしてそれをあやす母親たちの優しい声で満ち溢れていた。

 廃墟の再生計画も、アキオが発見した特別な植物の分析と、生命樹の麓での試験的な栽培がアウロラとシルヴィアによって続けられていた。その植物は驚くべき生命力と浄化能力を示し、本格的な廃墟への移植の時期が待たれていた。

 支援隊の出発から二月余り。アキオの町は、表面上は穏やかな時を重ねながらも、その内側では、新しい命、新しい関係、そして新しい未来への確かな胎動が、力強く育まれ続けていた。そして、その静かな日常に、再び大きな変化をもたらすであろう出来事が、すぐそこまで近づいていた。
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