五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第155話:聖獣と聖女の共鳴、廃墟再生への前夜祭

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 エルドリアへの支援隊が出発してから二月(ふたつき)余りが過ぎ、アキオの町は初夏の気配に包まれ始めていた。生命樹の緑は一層深まり、森の木々は力強く葉を茂らせている。アヤネの二人目のお腹も、キナの三人目のお腹も、はちきれんばかりに大きく膨らみ、いつ陣痛が始まってもおかしくないほどだった。町全体が、新たな誕生への期待と、夏の訪れを予感させる穏やかな活気に満ちていた。

 そんなある日、森の奥から時折アキオの町へ姿を見せていた、あの白銀の毛並みを持つ鹿に似た成体の聖霊獣が、迷うことなくまっすぐにアウロラの私室へとやって来た。その時、アウロラは「暁の御子」アキラとアケミに、自らの聖なる力を分け与えるように優しく語りかけていた。聖霊獣は、アウロラの前に静かに進み出ると、その大きな黒曜石のような瞳で彼女と双子の御子たちをじっと見つめ、そして恭しく前脚を折り、頭を垂れた。
「まあ…やはり、あなたもこの星の未来を憂い、わらわたちの計画に力を貸してくださるのですね」
 アウロラの静かで慈愛に満ちた声に、聖霊獣は小さく一声、清らかな音色で鳴いた。それは、言葉を超えた、聖女と聖獣の間の確かな盟約の瞬間だった。アウロラの進める「廃墟の再生計画」に、また一つ、力強い協力者が加わったのだ。

 廃墟の本格的な再生に着手するにあたり、アキオ、シルヴィア、そしてアウロラはその準備に余念がない。第153話でアキオが聖霊獣に導かれて発見した、廃墟に自生していた特別な植物の株分けに加え、かつて森の主が鎮まった際に残していった種子や苗の中から、シルヴィアが特に生命力の強いもの、そして廃墟の土地の浄化と再生に適したものを選び出した。それらは、アキオの「生命の祝福」とアウロラの聖なる力で、さらにその力を増しているかのようだった。

 そして、いよいよ廃墟へと向かう前夜。生命樹の下、その聖なる根元が自然に形作った「愛の祭壇」に、アキオと彼の六人の妻たち――シルヴィア、アヤネ、キナ、セレスティーナ、レオノーラ、そしてアウロラ――は、厳かな気持ちで集っていた。シルヴィアの深い配慮により、その神聖な場には、産婆見習いの未亡人たちと凛も招かれていた。彼女たちは、アキオの家族の営みの最も根源的で神聖な儀式の一つに立ち会うことを許され、緊張と畏敬の念をもって、少し離れた場所からその様子を見守っている。
 生命樹が放つ七色の柔らかな光が、参加者たちを優しく包み込む。まず、アキオと妻たち全員が輪になり、生命樹とこの聖域、そしてこれから行われる大事業の成功を祈り、心を一つにする。それぞれの想いが生命樹のエネルギーと共鳴し、場には清浄で、しかし力強く脈打つような気が満ちていく。

 厳かな祈りの後、臨月間近のアヤネとキナ、そしてセレスティーナとレオノーラは、アキオへの信頼と愛情を込めた眼差しを送りながら、そっと数歩下がり、アキオと、その両脇に立つアウロラとシルヴィアを見守る体勢に入った。これから始まるのは、廃墟再生という神聖な事業に臨むための力を最大限に高め、そしてアキオの聖なる生命力を分かち合うための、特別な「前夜祭」である。
 アウロラは、アキオに自らが創り出した光の雫を差し出した。アキオがそれを恭しく飲み干すと、彼の全身から黄金色のオーラが立ち上り、その生命エネルギーは以前にも増して強大になる。そしてアキオは、その漲る力をもって、まずアウロラを、次にシルヴィアを、その腕に抱き、魂の交歓を行った。それは、魂の交歓であり、生命力の激しい奔流。アウロラとシルヴィアは、アキオの愛と、彼の内に満ちる生命樹と聖なる祝福の力を全身で受け止め、恍惚と法悦の中で、その力を自らの魂と融合させていく。

 儀式の頂点。アキオ、アウロラ、シルヴィアの三人が祭壇の中心で手を取り合うと、三者の魂から溢れ出した黄金、白銀、そして翠の光が一つに溶け合い、渦を巻いた。その光の渦の中心から、まるで凝縮された生命そのもののような、輝く蜜が滲み出し、シルヴィアが差し出した清浄な木の葉の器に、一滴、また一滴と集まっていく。
 そして、アウロラとシルヴィアは、互いに深く頷き合うと、その聖なる蜜が満たされた器を手に、見守っていた未亡人たちの方へ向き直り、シルヴィアが穏やかに、しかし力強い声で言った。
「皆様…これは、アキオ様と、わたくしたち、そしてこの生命樹からの、聖なる恵みの雫です。夫を失い、未来への希望を見失いかけていた皆様が、この聖域で新たな人生を歩み始めるための…そして、新しい命を育むための、祝福の力です。もしよろしければ、この恵みを、お受け取りください」
 未亡人たちは、目の前で繰り広げられた神聖な儀式と、シルヴィアの言葉に、ただただ圧倒されていた。アキオの生命の源が、彼の妻たちの聖なる力を経て、自分たちに分け与えられようとしている。それは、彼女たちの理解を超えた奇跡だった。しかし、その雫から放たれる清浄で力強い生命の気配と、シルヴィアとアウロラの慈愛に満ちた表情に、彼女たちの心は強く揺さぶられる。数人が、震える足で進み出て、その聖なる雫を恭しく口にした。途端、彼女たちの身体を温かい光が包み、長年の心労で翳っていた顔には血の気が差し、瞳には力強い生気が戻り、中には「身体が…若い頃のように軽い…!」と驚きの声を上げる者もいた。

 しかし、凛だけは、その輪に加わることができず、青ざめた顔で唇を固く結んでいた。「これほど神聖な力を…わたくしのような者が、いただいて良いはずがありません…!」彼女の心の傷が、その祝福を受け入れることを激しく拒絶していた。
 だが、聖なる雫を口にした他の未亡人たちが、みるみるうちに活力に満ち、その表情が希望に輝いていくのを目の当たりにし、凛の心は激しく葛藤した。知識では説明できない奇跡。しかし、現実に起きている変化。そして、彼女自身の心の奥底にある、生きることへの渇望と、失われた何かを取り戻したいという切なる願い。
「……っ!」
 皆が恵みを分かち合い終え、最後の一滴が残った器を、シルヴィアが静かに凛の前に差し出した。凛は、震える手でその器を受け取り、目を固く閉じて、意を決してそれを口に含んだ。
 瞬間、凛の全身を、まるで雷に打たれたかのような強烈な衝撃が貫いた。それは、単なる活力の回復ではない。心の奥底、氷のように固く閉ざされていた何かが砕け散り、魂が浄化され、そして、彼女が失っていたはずの、生きる喜び、未来への希望が、熱い奔流となって全身に流れ込んでくるような、圧倒的な感覚。彼女の身体は淡い光を放ち、その類稀なる美貌は、神々しいまでの輝きを帯びる。驚愕に目を見開いた凛の瞳からは、大粒の涙が止めどなく溢れ落ちた。
「これが…この町の…アキオ様の…『生命の祝福』の…本当の力…?」
 彼女は、フラフラとアキオの前に進み出ると、その場に膝をつき、絞り出すような、しかし切実な声で懇願した。
「アキオ様…! どうか…どうか、わたくしにもう一度…あの聖なる恵みを、お分けください…! この力の意味を…わたくしは、もっと知りたいのです…!」
 かつての拒絶が嘘のように、彼女は自らアキオにその奇跡を求めた。彼女は、この町の、そしてアキオの力の根源にある「秘密」と「可能性」の一端に、確かに触れてしまったのだ。アキオは、その凛の劇的な変化と必死な姿を目の当たりにし、言葉を失いつつも、彼女の魂の叫びを、そしてその内に秘められた大きな可能性を、無下にはできないと感じていた。

 濃厚で神聖な「前夜祭」は、参加した者たち全てに、それぞれの形で大きな変革と再生の種を蒔いた。アキオとシルヴィア、アウロラは、廃墟再生への決意を新たにし、その力を最大限に高めた。未亡人たちは、新たな希望と生きる力を得た。そして凛は、自身の過去と未来を揺るがすほどの、大きな転機を迎えたのだった。
 翌朝、アキオ、シルヴィア、そしてアウロラに代わってその使命を帯びたかのように寄り添う成体の聖霊獣は、祝福された苗と種を携え、夜明けの光の中、廃墟となった聖域へと、静かに出発するのだった。
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