五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
203 / 400

第203話:贖罪の使者、赦しという名の光と共に

しおりを挟む
 アキオの町に、ヴァルト子爵領から新たな報せがもたらされた。それは、アキオの町の技術力への驚嘆と感謝、そして、また新たに捕縛した数十名の「荒くれ共」の処遇に窮しているという、盟友からの切実な相談だった。
 アキオは、町の主要メンバーと協議の上、今度は彼らを受け入れるのではなく、こちらから「道を示す者」を送るという、新たな策を講じることを決断した。

 白羽の矢が立ったのは、元荒くれのリーダーであり、今や町の建設現場で欠かせない存在となったザック。そして、彼の犯した罪を赦し、その再生のきっかけを作った未亡人のユリアだった。アキオは、二人を執務室に呼ぶ。
「ザック。お前に、子爵領へ行ってもらいたい。お前が、この町で得たものを、今度は、かつてのお前と同じ者たちに、お前自身の言葉で伝えてほしい。それが、お前の贖罪の、最後の仕上げとなるだろう」
 ザックは、そのあまりに重い任務に、言葉もなく俯いた。だが、隣に立つユリアが、そっと彼の手に自分の手を重ねた。
「…わたくしも、参ります」
 凛とした、しかしどこまでも優しい声だった。
「彼が、その道を最後まで歩み通せるよう、わたくしが、その証人となります。この町が、赦しと再生の場所であることを、わたくしが証明いたします」
 自分を襲った男と共に、その男の更生の証人として旅立つ。ユリアのその、聖母にも似た強さと慈愛に、アキオも、そしてザック自身も、胸を打たれるばかりだった。

 数日後。ザックとユリア、そして護衛として町の若者数名を乗せた馬車が、ヴァルト子爵領へと出発した。
 子爵領の薄暗い牢獄で、新たに捕らえられた荒くれ共の前に、ザックは立った。彼の背後には、ユリアが静かに佇んでいる。

「…俺も、お前たちと同じだった」
 ザックが、自らの罪を、絶望を、そしてこの聖域で与えられた再生への機会を、訥々と、しかし真摯に語り始めた、その時だった。牢の中から、ひときわ体格の良い男が立ち上がり、鉄格子を掴んで叫んだ。

「黙れ、裏切り者が! てめえ、そっちの貴族共に魂でも売り渡しやがったか! 俺たちを見捨てて、自分だけいい思いしようって魂胆だろうが!」

 その言葉に、他の者たちも「そうだ、そうだ!」「今更どんなツラして来やがった!」と野次を飛ばし始める。彼らにとって、ザックは仲間を売って、敵であるはずの権力者側に寝返った、許しがたい裏切り者に見えたのだ。

 しかし、ザックは、その罵声を浴びながらも、少しも動じなかった。彼は、静かに、しかし、牢の中の全ての者の心に突き刺さるような、力強い声で答える。
「ああ、そうだ。俺は裏切った。てめえらが信じてた、奪うだけ、傷つけるだけの、クソみてえな生き方をな。そして、俺は手に入れた。汗水流して働く喜びと、誰かに『ありがとう』と言われる温かさをだ。お前たちも、その道を選ぶ権利がある。それだけを、伝えに来た」

 ザックの言葉の後、場を支配したのは、重い沈黙だった。その沈黙を破るように、ユリアが静かに一歩前に出た。彼女は、牢の中の男たちを、恐れるでもなく、憐れむでもなく、ただ真っ直ぐな瞳で見つめた。
「わたくしは、この男に襲われました。そして、この男に命を救われました。どちらも、紛れもない事実です。わたくしは、彼を赦しました。ですが、彼の罪が消えたわけではありません。彼は、今も、その罪を背負い、この町で生きています。アキオ様の町は、そういう場所です」
 被害者自身の、その静かで、しかし絶対的な重みを持つ言葉。荒くれ共は、返す言葉もなかった。

 アキオの町の「矯正プログラム」は、今、更生した者自身が使者となることで、新たな、そしてより力強い段階へと進化を遂げようとしていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

家ごと異世界ライフ

もちもちほっぺ
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...