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第204話:学び舎の新しい声と、才媛の再会
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ザックとユリアがヴァルト子爵領から帰還し、アキオの町には確かな安堵と、新たな秩序の兆しが生まれていた。子爵領で捕らえられた「荒くれ共」は、ザックの魂の叫びとユリアの赦しの姿を目の当たりにし、その多くが更生の道を選ぶことを決意したという。ヴァルト子爵は、アキオの町のやり方を参考に、彼らを自身の領地の開拓事業に従事させることを決定し、両領地の絆は、単なる同盟を超えた、思想の共有という段階にまで深まっていた。
そんな穏やかな日々が数週間続いた、ある晴れた日のこと。町の入り口の見張り台から、ヴァルト子爵領の方角から近づく、複数の馬車の姿が報告された。
「来たか…!」
アキオは、凛、そして町の運営を補佐するアヤネと共に、町の入り口へと向かった。先日、子爵から親書で伝えられていた、町の教育レベル向上のための「教師団」の到着である。
馬車から降りてきたのは、いずれも知的で、品の良い衣服に身を包んだ、五名の女性たちだった。そして、一行を率いていたのは、ひときわ目を引く、華やかな雰囲気を持つ一人の美女だった。銀に近い輝きを放つ金色の髪を背中まで流し、その鮮やかな青い瞳には、聡明さと、そして悪戯っぽい好奇の色が浮かんでいる。
「この度が、アキオ様でいらっしゃいますね。わたくし、アレクサンダー子爵様よりご命令を賜り、この町の学び舎にて教鞭をとらせていただくことになりました、クラウディアと申します。以後、お見知りおきを」
彼女が優雅に、しかし自信に満ちた声で挨拶した、その時だった。
アキオの隣に、秘書官として控えていた凛が、息をのむのが分かった。そのいつも冷静な瞳が、信じられないものを見るかのように大きく見開かれている。
「…クラウディア…!? あなたが…どうしてここに…」
凛の、普段の冷静さからは考えられない、驚きに満ちた声。
クラウディアと呼ばれた女性も、凛の姿を認めた瞬間、その快活な笑みを驚きに変え、目を見開いた。
「凛…! まさか、本当にあなただったなんて…!」
次の瞬間、クラウディアは理屈も体面もかなぐり捨て、一直線に駆け寄った。
「凛っ!」
彼女は、凛の華奢な身体を、力いっぱい抱きしめた。驚きと、喜びと、そして長い間の心配が、その腕に込められている。
凛は、その突然の抱擁に一瞬身体を強張らせたが、懐かしい親友の香り、その温もりを感じた途端、心の堰が切れたように、その背中にそっと、しかし強く腕を回した。彼女の瞳からは、これまで誰にも見せたことのない、大粒の涙が静かに溢れ落ちていた。王都が戦火に包まれ、離れ離れになって以来、もう二度と会えないとさえ思っていた、唯一無二の親友。
アキオもアヤネも、その感動的な再会を、ただ黙って、温かい眼差しで見守っていた。
しばらくして、互いの無事を確かめ合うように抱きしめ合っていた二人は、ゆっくりと身体を離した。
「もう、こんな場所で何をしてるのよ、あなた! どれだけ心配したと思っているの!」
クラウディアが、涙声ながらも、昔と変わらない親しみを込めて凛の肩を軽く叩く。
「…それは、こちらのセリフですわ、クラウディア。あなたこそ、無事で…本当によかった…」
凛は、涙の跡を隠そうともせず、心の底からの笑みを浮かべた。それは、アキオでさえ初めて見る、彼女の少女のような、無防備な笑顔だった。
クラウディアたち教師団は、かつてセレスティーナ様が礎を築き、現在はアヤネが中心となって運営されている「学び舎」を案内されると、その設備こそ質素ながらも、学ぶ子供たちの瞳が生き生きと輝いていることに深く感銘を受けた。
「素晴らしいですわ、アヤネ様。どのような環境でも、学ぶ意欲を引き出すことこそが、教育の第一歩ですもの」
クラウディアは、すぐにその明晰な頭脳と卓越したリーダーシップを発揮し始め、町の教育体制を飛躍的に向上させるための、具体的で効率的な計画を、その場で提案し始めた。
その日の午後、中央館の談話室では、凛とクラウディアが、数年ぶりの再会を祝して、二人きりでお茶を飲んでいた。
「それにしても、驚いたわ、凛。あなたが、結婚して、誰かの妻になるなんて。しかも、あれほど男性を嫌っていたあなたが…」
「…余計なお世話ですわ。わたくしには、わたくしの…この町には、この町なりの事情があるのです」凛は、少しむっとしたように答えるが、その表情はどこか柔らかい。
クラウディアは、そんな旧友の様子を、楽しそうに、しかし探るような目で見つめた。
「ねえ、凛。貴女、随分と雰囲気が変わったわね。王都にいた頃の、氷の刃のような鋭さが、少し丸くなったみたい。何か、良いことでもあったのかしら?」
その言葉に、凛の脳裏に、アキオの温かい手の感触と、彼が自分に向けてくれた、あの優しい眼差しが蘇る。彼女は、ふいと視線を逸らし、その白い頬を微かに染めた。
「…さあ。気のせいではございませんこと?」
その、凛にしては珍しい反応に、クラウディアは、この聖域と、アキオという男が、親友の固く閉ざされた心を溶かし始めていることを、確信せずにはいられなかった。
二人の才媛の再会は、町の教育レベルを飛躍的に向上させると共に、凛の心にも、新たな、そして温かい風を吹き込もうとしていた。
そんな穏やかな日々が数週間続いた、ある晴れた日のこと。町の入り口の見張り台から、ヴァルト子爵領の方角から近づく、複数の馬車の姿が報告された。
「来たか…!」
アキオは、凛、そして町の運営を補佐するアヤネと共に、町の入り口へと向かった。先日、子爵から親書で伝えられていた、町の教育レベル向上のための「教師団」の到着である。
馬車から降りてきたのは、いずれも知的で、品の良い衣服に身を包んだ、五名の女性たちだった。そして、一行を率いていたのは、ひときわ目を引く、華やかな雰囲気を持つ一人の美女だった。銀に近い輝きを放つ金色の髪を背中まで流し、その鮮やかな青い瞳には、聡明さと、そして悪戯っぽい好奇の色が浮かんでいる。
「この度が、アキオ様でいらっしゃいますね。わたくし、アレクサンダー子爵様よりご命令を賜り、この町の学び舎にて教鞭をとらせていただくことになりました、クラウディアと申します。以後、お見知りおきを」
彼女が優雅に、しかし自信に満ちた声で挨拶した、その時だった。
アキオの隣に、秘書官として控えていた凛が、息をのむのが分かった。そのいつも冷静な瞳が、信じられないものを見るかのように大きく見開かれている。
「…クラウディア…!? あなたが…どうしてここに…」
凛の、普段の冷静さからは考えられない、驚きに満ちた声。
クラウディアと呼ばれた女性も、凛の姿を認めた瞬間、その快活な笑みを驚きに変え、目を見開いた。
「凛…! まさか、本当にあなただったなんて…!」
次の瞬間、クラウディアは理屈も体面もかなぐり捨て、一直線に駆け寄った。
「凛っ!」
彼女は、凛の華奢な身体を、力いっぱい抱きしめた。驚きと、喜びと、そして長い間の心配が、その腕に込められている。
凛は、その突然の抱擁に一瞬身体を強張らせたが、懐かしい親友の香り、その温もりを感じた途端、心の堰が切れたように、その背中にそっと、しかし強く腕を回した。彼女の瞳からは、これまで誰にも見せたことのない、大粒の涙が静かに溢れ落ちていた。王都が戦火に包まれ、離れ離れになって以来、もう二度と会えないとさえ思っていた、唯一無二の親友。
アキオもアヤネも、その感動的な再会を、ただ黙って、温かい眼差しで見守っていた。
しばらくして、互いの無事を確かめ合うように抱きしめ合っていた二人は、ゆっくりと身体を離した。
「もう、こんな場所で何をしてるのよ、あなた! どれだけ心配したと思っているの!」
クラウディアが、涙声ながらも、昔と変わらない親しみを込めて凛の肩を軽く叩く。
「…それは、こちらのセリフですわ、クラウディア。あなたこそ、無事で…本当によかった…」
凛は、涙の跡を隠そうともせず、心の底からの笑みを浮かべた。それは、アキオでさえ初めて見る、彼女の少女のような、無防備な笑顔だった。
クラウディアたち教師団は、かつてセレスティーナ様が礎を築き、現在はアヤネが中心となって運営されている「学び舎」を案内されると、その設備こそ質素ながらも、学ぶ子供たちの瞳が生き生きと輝いていることに深く感銘を受けた。
「素晴らしいですわ、アヤネ様。どのような環境でも、学ぶ意欲を引き出すことこそが、教育の第一歩ですもの」
クラウディアは、すぐにその明晰な頭脳と卓越したリーダーシップを発揮し始め、町の教育体制を飛躍的に向上させるための、具体的で効率的な計画を、その場で提案し始めた。
その日の午後、中央館の談話室では、凛とクラウディアが、数年ぶりの再会を祝して、二人きりでお茶を飲んでいた。
「それにしても、驚いたわ、凛。あなたが、結婚して、誰かの妻になるなんて。しかも、あれほど男性を嫌っていたあなたが…」
「…余計なお世話ですわ。わたくしには、わたくしの…この町には、この町なりの事情があるのです」凛は、少しむっとしたように答えるが、その表情はどこか柔らかい。
クラウディアは、そんな旧友の様子を、楽しそうに、しかし探るような目で見つめた。
「ねえ、凛。貴女、随分と雰囲気が変わったわね。王都にいた頃の、氷の刃のような鋭さが、少し丸くなったみたい。何か、良いことでもあったのかしら?」
その言葉に、凛の脳裏に、アキオの温かい手の感触と、彼が自分に向けてくれた、あの優しい眼差しが蘇る。彼女は、ふいと視線を逸らし、その白い頬を微かに染めた。
「…さあ。気のせいではございませんこと?」
その、凛にしては珍しい反応に、クラウディアは、この聖域と、アキオという男が、親友の固く閉ざされた心を溶かし始めていることを、確信せずにはいられなかった。
二人の才媛の再会は、町の教育レベルを飛躍的に向上させると共に、凛の心にも、新たな、そして温かい風を吹き込もうとしていた。
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