五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第260話:棟梁と男たち、そして聖域の酒宴

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 アキオの町に、ヴァルト子爵領から引き入れた数十人の元「荒くれ共」。その大半は、ザックやゴルドーといった「先輩」たちの姿と、町の温かい雰囲気に触れ、再生班での労働に真面目に参加し始めていた。
 しかし、そのうち数名だけ、最後まで何もしようとしない者たちがいた。彼らは、かつての帝国軍の中でも、特に精鋭であったことを誇りとする、古参の兵士たち。そのリーダー格である、顔に大きな傷跡を持つ男、ブルクを中心に、彼らは与えられる最低限の配給だけで生き延び、ただ、虚空を睨むように日々を過ごしていた。

 カイやアルト、ケンタは、彼らを町の不安要素として、強制的にでも働かせるべきだとアキオに進言した。だが、アキオは静かに首を横に振った。
「力で押さえつけても、心はついてこん。…よし、今夜は、男だけの宴会だ」

 その夜、アキオは、大量の酒樽と、アヤネが腕によりをかけて作った猪肉の丸焼きをリヤカーに積むと、たった一人で、ブルクたちがいる隔離区画へと入っていった。
 男たちの間に、緊張が走る。
「何の用だ、村長。俺たちは、あんたらの言いなりになるつもりはねえぞ」
 ブルクが、鋭い視線でアキオを威嚇する。
 アキオは、そんな彼らの敵意を意にも介さず、どかりと酒樽を地面に置いた。
「今日は、お前たちの話を聞きに来た。まずは一杯どうだ?」
 アキオは、自ら盃に酒を注ぎ、ぐいっと飲み干してみせる。やがて、カイやアルト、ケンタ、そしてザックやゴルドーといった、町の男たちも、続々と集まってきた。

 最初は警戒していたブルクたちも、極上の酒と、香ばしい肉の匂いには抗えない。やがて、一人、また一人と、無言で盃を受け取り始めた。
 アキオは、彼らを更生させようと説教するでもなく、ただ、一人の男として、彼らに語りかけた。職人としての誇り、ものづくりの喜び、そして、この町で家族と暮らす、何気ない日々の温かさ。そして、ブルクたちにも、兵士としての誇りや、失われた仲間たちのことを尋ねた。
 酒が進むにつれ、彼らの固く閉ざされた心は、少しずつ解かされていく。

 宴が最高潮に達した頃、アキオは立ち上がった。
「腹が膨れたら、次は風呂だ。今日は貸切温泉だ。皆で、汗と、心の垢を洗い流そうぜ!」
 その、あまりにも無防備な誘いに、ブルクたちは、毒気を抜かれたように顔を見合わせた。そして、温泉に浸かり、身も心も完全に武装解除された時、彼らは、目の前の男が、ただのお人好しではなく、自分たちの魂の奥底までをも見透かす、とてつもなく器の大きな「棟梁」であることを、認めざるを得なかった。

 翌日。ブルクたちは、自らの意志で、再生班の仕事に加わった。
 彼らが、慣れない手つきで木材の加工をしていると、そこへ、子爵領から来た若い独身女性たちの一団が、差し入れを持ってやってきたのだ。彼女たちは、町で「最後まで誇りを捨てなかった、一番腕の立つ兵士たちがいる」という噂を聞きつけ、興味津々だったのだ。
「あなたが、ブルク様ですか!? とても、お強そうですわ!」
「まあ、その腕の傷…! 多くの戦いを経験されてきたのですね…!」
 女性たちは、物怖じすることなく、ブルクたちを取り囲み、質問攻めにする。歴戦の勇士であるはずのブルクたちは、いまだかつて経験したことのない事態に、ただただ面食らい、顔を真っ赤にして固まってしまった。

 その光景を、アキオがカイと共に、少し離れた場所から笑いながら見ていた。そして、戸惑うブルクに向かって、大声で叫んだ。
「おい、ブルク! この町で家庭を持つなら、お前たち、最低5人だぞ!」
「え? 何がですか!?」
 ブルクが、素っ頓狂な声を上げる。すると、彼を囲んでいた女性の一人が、くすくすと笑いながら言った。
「子供の数ですって! ふふ、頑張ってくださいね、未来の旦那様?」
 その言葉に、ブルクは、カッと顔を赤らめ、天を仰いだ。いくら偉ぶっても、多勢に無勢。 美しい女性たちの、好意という名の数の暴力に、彼らはなすすべもなく屈したのだった。

「アキオ様…まさか、これも計算のうちで?」カイが、呆れながらも感心して尋ねる。
「いや、何となく、な。これが、アキオの町の秘密兵器さ。…女性は、強い!」
 アキオは、そう言って、楽しそうに笑うのだった。
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