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第261話:盟友からの凶報、そして才媛たちの分析
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アキオの町は、実りの季節を迎えていた。畑では、アキオが持ち込んだ大豆や、この土地ならではの作物が豊かな穂を垂れ、新しい住民たちの手によって次々と収穫されていく。その日のドルガン親方の鍛冶場もまた、一つの大きな「実り」を迎えていた。
「おお…! 見ろ、アキオ殿! 凛殿の設計図通り、寸分違わぬ出来栄えじゃ!」
ドルガン親方が、満足げにその巨体を揺らす。工房の中央で、その完成を誇るかのように鎮座していたのは、流線形の優美なフォルムを持つ、真新しい魔導車だった。多人数を一度に輸送可能な、ワゴンタイプの新型機『天馬』である。ドワーフ三兄弟とフレイヤの加入により、町の生産力は、もはや以前とは比較にならないレベルに達していた。
しかし、その喜ばしい成果を祝う間もなく、町の平穏は、一通の親書によって破られることになる。
ヴァルト子爵領から、これまでにないほど切迫した様子で、一頭の馬が駆け込んできた。馬上の使者は、汗だくのまま鞍から転がり落ちると、子爵からの親書を、震える手でアキオに差し出した。
「アキオ殿…! 子爵様を、お助けください…!」
中央館の執務室。アキオが、その蝋封を急いで切ると、中からは、盟友の焦りと苦悩が滲み出るような、乱れた筆跡の文章が現れた。
そこには、衝撃的な内容が記されていた。
ヴァルト子爵領を統治する、寄親であるスタンフィールド侯爵が、何の事前通告もなく、抜き打ちで子爵領の視察に訪れたこと。
子爵領の近年の目覚ましい発展——新しい農作物、住民たちの活力、そして傷病者の驚異的な回復率——に、侯爵が強い興味と、そして不審を抱いたこと。
そして決定的なことに、アキオが友好の証として贈った魔導車『試作一号機』を、侯爵が見てしまい、その未知なる技術に驚愕したこと。
侯爵は、子爵に対し「その力の源泉を、速やかに明らかにせよ」と、強い圧力をかけ始めており、下手をすれば、反逆の嫌疑をかけられかねない。子爵が、どう対応すべきか、アキオに助けを求めてきたのだった。
「…まずいことになったな」
アキオは、すぐに凛とクラウディアを招集し、手紙の内容を共有した。二人の才媛は、その深刻な内容に、表情を引き締める。
凛が、冷静に、しかし厳しい声で口火を切った。
「これは、我々の存在が、ついに外部の上位貴族に知られてしまったということ。侯爵という立場は、子爵とは比較にならない権力と軍事力を有しています。最悪の場合、侯爵が我々の技術を力ずくで奪いに来る可能性も、十分に考慮すべきです」
凛の分析は、常に最悪の事態を想定している。
一方、クラウディアは、その背景にある、より大きな政治の流れを読み解こうとしていた。
「ですが、侯爵が、なぜ今、突然視察に? 帝国の内紛が激化し、権力の空白が生まれている今、彼もまた、自らの勢力を拡大するために、新たな力の源泉を探しているのかもしれません。もしそうなら、我々を敵に回すことだけが、彼の選択肢ではないはずです」
「…というと?」
「我々を、彼の派閥に取り込もうとする可能性、ですわ。侯爵にとって、我々の技術は、この動乱の時代を勝ち抜くための、最大の切り札になり得ますから」
敵か、味方か。あるいは、その両方か。
三人は、これが単なる子爵領の問題ではなく、アキオの町の存亡にも関わる、重大な外交問題であると認識を新たにした。もはや、森の中に隠れて、平和な日常を享受できる時期は、終わりを告げようとしているのかもしれない。
アキオは、二人の才媛の分析を聞き、そして、一つの決断を下した。
「…分かった。これは、俺一人で決められる問題じゃない。今夜、皆を集めてくれ。妻たち全員と、そして、町の主だった者たちもだ。これは、家族全員で、この町の未来を、全員で決めるべき問題だ」
その日の夜、アキオの町は、その歴史上、最も重要な会議を開くことになる。聖域の主が、その家族と共に、世界とどう向き合うのか。その覚悟を、今まさに、試されようとしていた。
「おお…! 見ろ、アキオ殿! 凛殿の設計図通り、寸分違わぬ出来栄えじゃ!」
ドルガン親方が、満足げにその巨体を揺らす。工房の中央で、その完成を誇るかのように鎮座していたのは、流線形の優美なフォルムを持つ、真新しい魔導車だった。多人数を一度に輸送可能な、ワゴンタイプの新型機『天馬』である。ドワーフ三兄弟とフレイヤの加入により、町の生産力は、もはや以前とは比較にならないレベルに達していた。
しかし、その喜ばしい成果を祝う間もなく、町の平穏は、一通の親書によって破られることになる。
ヴァルト子爵領から、これまでにないほど切迫した様子で、一頭の馬が駆け込んできた。馬上の使者は、汗だくのまま鞍から転がり落ちると、子爵からの親書を、震える手でアキオに差し出した。
「アキオ殿…! 子爵様を、お助けください…!」
中央館の執務室。アキオが、その蝋封を急いで切ると、中からは、盟友の焦りと苦悩が滲み出るような、乱れた筆跡の文章が現れた。
そこには、衝撃的な内容が記されていた。
ヴァルト子爵領を統治する、寄親であるスタンフィールド侯爵が、何の事前通告もなく、抜き打ちで子爵領の視察に訪れたこと。
子爵領の近年の目覚ましい発展——新しい農作物、住民たちの活力、そして傷病者の驚異的な回復率——に、侯爵が強い興味と、そして不審を抱いたこと。
そして決定的なことに、アキオが友好の証として贈った魔導車『試作一号機』を、侯爵が見てしまい、その未知なる技術に驚愕したこと。
侯爵は、子爵に対し「その力の源泉を、速やかに明らかにせよ」と、強い圧力をかけ始めており、下手をすれば、反逆の嫌疑をかけられかねない。子爵が、どう対応すべきか、アキオに助けを求めてきたのだった。
「…まずいことになったな」
アキオは、すぐに凛とクラウディアを招集し、手紙の内容を共有した。二人の才媛は、その深刻な内容に、表情を引き締める。
凛が、冷静に、しかし厳しい声で口火を切った。
「これは、我々の存在が、ついに外部の上位貴族に知られてしまったということ。侯爵という立場は、子爵とは比較にならない権力と軍事力を有しています。最悪の場合、侯爵が我々の技術を力ずくで奪いに来る可能性も、十分に考慮すべきです」
凛の分析は、常に最悪の事態を想定している。
一方、クラウディアは、その背景にある、より大きな政治の流れを読み解こうとしていた。
「ですが、侯爵が、なぜ今、突然視察に? 帝国の内紛が激化し、権力の空白が生まれている今、彼もまた、自らの勢力を拡大するために、新たな力の源泉を探しているのかもしれません。もしそうなら、我々を敵に回すことだけが、彼の選択肢ではないはずです」
「…というと?」
「我々を、彼の派閥に取り込もうとする可能性、ですわ。侯爵にとって、我々の技術は、この動乱の時代を勝ち抜くための、最大の切り札になり得ますから」
敵か、味方か。あるいは、その両方か。
三人は、これが単なる子爵領の問題ではなく、アキオの町の存亡にも関わる、重大な外交問題であると認識を新たにした。もはや、森の中に隠れて、平和な日常を享受できる時期は、終わりを告げようとしているのかもしれない。
アキオは、二人の才媛の分析を聞き、そして、一つの決断を下した。
「…分かった。これは、俺一人で決められる問題じゃない。今夜、皆を集めてくれ。妻たち全員と、そして、町の主だった者たちもだ。これは、家族全員で、この町の未来を、全員で決めるべき問題だ」
その日の夜、アキオの町は、その歴史上、最も重要な会議を開くことになる。聖域の主が、その家族と共に、世界とどう向き合うのか。その覚悟を、今まさに、試されようとしていた。
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