304 / 387
第304話:王家の巡礼、そして聖域の心臓へ
しおりを挟む
スタンフィールド公爵領に生まれた「小さな聖域」。その東屋で、国王が、アキオの聖域への「巡礼」を決断した、その翌朝。公爵の都、アインクラッドの城門前には、歴史上、誰も見たことのない、壮大な隊列が、その出発の時を待っていた。
アキオの聖域が生み出した、四台の魔導車。それぞれが、異なる役割と、そして、異なる想いを乗せて、今、一つの目的地を目指す。
先頭を走るのは、オリハルコンの合金が、朝陽を浴びて淡い虹色に輝く、最新鋭の旗艦『流星』。その操縦席に座るのは、アキオではない。彼の第五夫人にして、筆頭秘書官である、凛だった。彼女は、その理知的な瞳で、前方の道と、手元の計器を冷静に見据え、その手は、複雑な操縦桿を、寸分の狂いもなく、完璧に握りしめている。
その後部座席。そこは、この旅の、最も重要で、そして、最も緊張感のある空間となっていた。
向かい合わせに設えられた、豪奢な主客室(メインキャビン)。片方には、この国の頂点に立つ、国王と、その正妻である王妃ソフィア。そして、もう片方には、聖域の主、アキオが、一人、ゆったりと腰を下ろしている。
国王は、操縦席に座る凛の、その淀みない完璧な操作技術と、そして、目の前で、自らと対等に、いや、むしろ、どこか余裕さえ感じさせる態度で語り合う、アキオという男に、改めて、この聖域の、底知れない力を感じ取っていた。
「…驚いたな、アキオ殿。君の妻は、これほどの乗り物を、女性一人で、やすやすと操るのか」
「ははは。凛は、優秀な秘書官でしてな。この『流星』の設計も、彼女の頭脳がなければ、生まれなかったでしょう。俺は、ただ、職人として、その設計図を形にしただけです」
アキオは、国王との対話に、完全に集中していた。彼のその、どこまでも自然体で、そして、妻への絶対的な信頼を隠さない姿に、国王は、初めて、自らが知る「王」や「皇帝」とは、全く違う種類の、「指導者」の形を、目の当たりにしているのかもしれない、と感じ始めていた。
そして、その傍らで、盲目の王女イザベラは、ただ、静かに、その会話に耳を澄ませていた。彼女の、類稀なる鋭敏な聴覚は、アキオの声の響きから、その誠実さと、嘘のない、温かい魂の在り方を、誰よりも正確に、感じ取っていた。
そして、『流星』の、主客室とは仕切られた、広々とした副客室(セカンドキャビン)。そこは、まさに「女神たちの談話室」と呼ぶにふさわしい、華やかで、そして、賑やかな空間となっていた。
「まあ、レオノーラさん。貴女のお腹も、少し、ふっくらとしてきましたわね」アヤネが、優しく声をかける。
「うむ。セレスティーナ様も、私も、この子らが、アキオ殿によく似た、元気な子であることを、祈っている」
「へへっ、だんなに似たら、あたしみてえに、食いしん坊になるかもな!」キナが、快活に笑う。
シルヴィア、アウロラ、セレスティーナ、レオノーラ、アヤネ、キナ、そしてクラウディア。七人の妻たちが、これから始まる、王女との共同生活について、期待と、そして、ほんの少しの、女としてのライバル心を、楽しそうに語り合っている。
その輪の中心で、リリアーナとシャルロッテは、その、あまりにも規格外な「家族」の形に、改めて、驚きと、そして、どこか羨望の念を抱かずにはいられなかった。
二番車として、その『流星』の後ろを続くのは、ヴァルト新侯爵が自ら操縦する、真新しい『天馬』。その客室は、さながら「貴族たちのサロン」と化していた。
「がっはっは! 大公殿下! ご覧くだされ、この安定した走り! 揺れ一つ感じぬでしょう! これぞ、アキオ殿の技術の粋ですな!」
スタンフィールド公爵が、アルバート大公に、まるで自分の手柄のように、魔導車の素晴らしさを、熱っぽく語っている。
「…確かに、見事なものだ。兄上が、これに執心するのも、無理はない」
アルバート大公は、冷静に、しかし、その瞳の奥に、強い興味の光を宿しながら、窓の外の景色と、目の前で、子供のようにはしゃぐ二人の領主を、静かに観察していた。彼は、軍人として、この魔導車が持つ、計り知れないほどの「戦略的価値」を、誰よりも正確に、理解していたのだ。
そして、三番車の『力王』と、四番車の『試作一号機』は、後方支援部隊として、その隊列を固めていた。そこには、ヴァルト侯爵の護衛兵たちと、万一に備えるための、大量の食料や、野営道具が、満載されていた。
四台の魔導車からなる、壮大な「王家の巡礼」の隊列。
旅は、穏やかに、そして、驚くほど、順調に進んだ。
アキオは、国王と、国の未来について、そして、家族について、多くのことを語り合った。王妃ソフィアは、凛の聡明さと、アキオの深い愛情に触れ、娘の未来を、この男に託す価値があるかもしれない、と、感じ始めていた。
そして、数日の旅の後。
一行の目の前に、巨大な生命樹が、天に向かってその枝を広げる、懐かしい、そして、神々しい光景が、広がった。
「…陛下。あれが、わたくしの町、全ての奇跡が始まり、そして、お嬢様の、最後の希望が眠る場所です」
アキオのその言葉に、国王夫妻、そして、王女イザベラは、息をのんで、その聖域の心臓を、見つめるのだった。
アキオの聖域が生み出した、四台の魔導車。それぞれが、異なる役割と、そして、異なる想いを乗せて、今、一つの目的地を目指す。
先頭を走るのは、オリハルコンの合金が、朝陽を浴びて淡い虹色に輝く、最新鋭の旗艦『流星』。その操縦席に座るのは、アキオではない。彼の第五夫人にして、筆頭秘書官である、凛だった。彼女は、その理知的な瞳で、前方の道と、手元の計器を冷静に見据え、その手は、複雑な操縦桿を、寸分の狂いもなく、完璧に握りしめている。
その後部座席。そこは、この旅の、最も重要で、そして、最も緊張感のある空間となっていた。
向かい合わせに設えられた、豪奢な主客室(メインキャビン)。片方には、この国の頂点に立つ、国王と、その正妻である王妃ソフィア。そして、もう片方には、聖域の主、アキオが、一人、ゆったりと腰を下ろしている。
国王は、操縦席に座る凛の、その淀みない完璧な操作技術と、そして、目の前で、自らと対等に、いや、むしろ、どこか余裕さえ感じさせる態度で語り合う、アキオという男に、改めて、この聖域の、底知れない力を感じ取っていた。
「…驚いたな、アキオ殿。君の妻は、これほどの乗り物を、女性一人で、やすやすと操るのか」
「ははは。凛は、優秀な秘書官でしてな。この『流星』の設計も、彼女の頭脳がなければ、生まれなかったでしょう。俺は、ただ、職人として、その設計図を形にしただけです」
アキオは、国王との対話に、完全に集中していた。彼のその、どこまでも自然体で、そして、妻への絶対的な信頼を隠さない姿に、国王は、初めて、自らが知る「王」や「皇帝」とは、全く違う種類の、「指導者」の形を、目の当たりにしているのかもしれない、と感じ始めていた。
そして、その傍らで、盲目の王女イザベラは、ただ、静かに、その会話に耳を澄ませていた。彼女の、類稀なる鋭敏な聴覚は、アキオの声の響きから、その誠実さと、嘘のない、温かい魂の在り方を、誰よりも正確に、感じ取っていた。
そして、『流星』の、主客室とは仕切られた、広々とした副客室(セカンドキャビン)。そこは、まさに「女神たちの談話室」と呼ぶにふさわしい、華やかで、そして、賑やかな空間となっていた。
「まあ、レオノーラさん。貴女のお腹も、少し、ふっくらとしてきましたわね」アヤネが、優しく声をかける。
「うむ。セレスティーナ様も、私も、この子らが、アキオ殿によく似た、元気な子であることを、祈っている」
「へへっ、だんなに似たら、あたしみてえに、食いしん坊になるかもな!」キナが、快活に笑う。
シルヴィア、アウロラ、セレスティーナ、レオノーラ、アヤネ、キナ、そしてクラウディア。七人の妻たちが、これから始まる、王女との共同生活について、期待と、そして、ほんの少しの、女としてのライバル心を、楽しそうに語り合っている。
その輪の中心で、リリアーナとシャルロッテは、その、あまりにも規格外な「家族」の形に、改めて、驚きと、そして、どこか羨望の念を抱かずにはいられなかった。
二番車として、その『流星』の後ろを続くのは、ヴァルト新侯爵が自ら操縦する、真新しい『天馬』。その客室は、さながら「貴族たちのサロン」と化していた。
「がっはっは! 大公殿下! ご覧くだされ、この安定した走り! 揺れ一つ感じぬでしょう! これぞ、アキオ殿の技術の粋ですな!」
スタンフィールド公爵が、アルバート大公に、まるで自分の手柄のように、魔導車の素晴らしさを、熱っぽく語っている。
「…確かに、見事なものだ。兄上が、これに執心するのも、無理はない」
アルバート大公は、冷静に、しかし、その瞳の奥に、強い興味の光を宿しながら、窓の外の景色と、目の前で、子供のようにはしゃぐ二人の領主を、静かに観察していた。彼は、軍人として、この魔導車が持つ、計り知れないほどの「戦略的価値」を、誰よりも正確に、理解していたのだ。
そして、三番車の『力王』と、四番車の『試作一号機』は、後方支援部隊として、その隊列を固めていた。そこには、ヴァルト侯爵の護衛兵たちと、万一に備えるための、大量の食料や、野営道具が、満載されていた。
四台の魔導車からなる、壮大な「王家の巡礼」の隊列。
旅は、穏やかに、そして、驚くほど、順調に進んだ。
アキオは、国王と、国の未来について、そして、家族について、多くのことを語り合った。王妃ソフィアは、凛の聡明さと、アキオの深い愛情に触れ、娘の未来を、この男に託す価値があるかもしれない、と、感じ始めていた。
そして、数日の旅の後。
一行の目の前に、巨大な生命樹が、天に向かってその枝を広げる、懐かしい、そして、神々しい光景が、広がった。
「…陛下。あれが、わたくしの町、全ての奇跡が始まり、そして、お嬢様の、最後の希望が眠る場所です」
アキオのその言葉に、国王夫妻、そして、王女イザベラは、息をのんで、その聖域の心臓を、見つめるのだった。
44
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
スキル『倍加』でイージーモードな異世界生活
怠惰怠man
ファンタジー
異世界転移した花田梅。
スキル「倍加」により自分のステータスを倍にしていき、超スピードで最強に成り上がる。
何者にも縛られず、自由気ままに好きなことをして生きていくイージーモードな異世界生活。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた
秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。
しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて……
テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる