五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第329話:エルドリアからの、公式な使者

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 歴史的な三国会談が幕を閉じてから数週間。
 アキオの聖域には未来への確かな希望と穏やかな日常が流れていた。
 第七夫人となったリリアーナはその卓越した知識でアキオの政治的な相談役として、その地位を確固たるものにしていた。第八夫人のシャルロッテは早速「聖域街道開発公社」の総裁としてその恐るべき手腕を発揮し始め、ドルガン親方やアルトたちと連日熱い議論を交わしている。
 アキオ自身もスタンフィールド公爵との約束を果たすべく、王都へ向かう旅の準備を進めていた。ガレージでは国王への献上品となる新型魔導車の最終調整が行われている。
 全てが順調に新しい未来へと向かって動き出していた。
 そんなある日の午後だった。
 見張りの兵士から緊急の報せがもたらされた。
「報告! エルドリア王家の紋章を掲げた魔導車『白百合』が聖域の入り口に向かっております!」
「何、エルドリアからだと!?」
 アキオは驚いた。クリストフたちが帰国してからまだ一月も経っていない。何かトラブルでも起きたのだろうか。
 アキオはシルヴィアや凛たち、近くにいた妻たちと共に急いで新・中央館の前へと向かった。
 やがて到着した『白百合』。
 その扉が静かに開かれ、現れた人物の姿にアキオは再び目を見開いた。
 そこに立っていたのはセレスティーナとレオノーラだった。
 だが、そのたたずまいは以前とは全く違っていた。エルドリアの公式な儀礼服にその美しい身を包み、背後には数名の文官らしい男たちを従えている。彼女たちはもはやただのアキオの妻ではない。エルドリア王国の公式な使者としての気品と威厳をまとっていた。
 セレスティーナはアキオの前まで進み出ると、愛しい夫への想いをその理知的な仮面の下に隠し、そして一人の大使として完璧な淑女の一礼をした。
「アキオ盟主様。弟、エルドリア国王クリストフより貴殿への親書をお預かりしてまいりました」
 彼女は王家の紋章で封蝋された一通の親書をアキオに恭しく差し出した。
 アキオは戸惑いながらもその親書を受け取り、封を切った。
 凛が隣からその書面を覗き込む。そこに力強い文字で記されていたのは、若き王の驚くべき政治的な決断だった。
『親愛なるアキオ義兄上、そして偉大なる盟主殿へ。
 先日の会談での貴殿の寛大なお心遣い、改めて感謝申し上げる。
 我がエルドリア王国は貴殿が率いる新しい連合の一員となれたことを誇りに思う。
 つきましては、その揺るぎない同盟の証として、ここに布告する。
 我が実の姉セレスティーナ、及び騎士レオノーラ・フォン・クライストを、我がエルドリア王国の全権大使として『アキオ連邦』の中枢に常駐させるものとする。
 彼女たちの言葉は即ち我が言葉と心得よ。
 エルドリア国王、クリストフ・フォン・エルドリア』
 その内容を読み終えたアキオは思わず呟いた。
 (……アキオ連邦? クリストフ殿は本当に大袈裟な名前をつけるのが好きだな。まあ、いい。それよりも、これでセレスとレオがずっとここにいられる大義名分ができたというわけか……)
 彼の関心はもはや政治的な呼称などではなかった。ただ愛しい二人の妻が堂々とこの聖域に戻ってきたという、その事実だけが彼の心を満たしていた。
 隣で親書を読んでいた凛とその後ろにいたシルヴィアが一瞬だけ目を見合わせ、くすり、と微笑んだ。彼女たちはその一文に込められたクリストフ国王の高度な政治的意図(メイプルウッドへの牽制と主導権の誇示)を正確に理解していた。だが、今はそれを野暮に解説する時ではない。
 全ての公的な儀式が終わったその瞬間。
 セレスティーナの大使としての仮面がはらり、と剥がれ落ちた。
「あなた……!」
 彼女はアキオの胸にその顔をうずめ、再会の喜びをかみ締めた。
「ただいま戻りました……! 私たちの本当の我が家へ!」
 レオノーラもまたその厳格な騎士の表情を崩し、安堵の笑みを浮かべて深く頭を下げた。
 アキオはそんな二人の妻を力強く抱きしめた。
「……ああ、おかえり。俺の愛しい大使様たち」
 その軽口にその場の全員が温かい笑いに包まれた。
 アキオ連邦とエルドリア王国の新しい、そしてより強固な関係が始まった瞬間だった。
 聖域はまた一人、そしてもう一人と、そのかけがえのない家族を取り戻したのだ。
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