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第333話:玉座の謁見と王の思惑
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黄金の扉が開かれ、アキオ一行は王の待つ玉座の間へと足を踏み入れた。
高い天井から差し込む七色の光が真紅の絨毯を照らし、その両脇にはこの国の有力貴族たちがずらりと並び、値踏みするような視線を投げかけてくる。
アキオはその空気に気圧されることなく堂々と玉座の前まで歩を進め、彼の後ろに続く妻たちもまた、完璧なカーテシーでその場を圧倒した。
「聖域伯アキオ殿。長旅ご苦労であった。面を上げよ」
国王の言葉にアキオは顔を上げた。
「は。国王陛下、並びに王妃殿下におかれましてもご健勝のこと、お慶び申し上げます。本日は先日の盟約に基づき、陛下への献上品をお持ちいたしました」
「ほう、献上品とな。して、それは例の魔導車であろうな。わしも興味がある。だが、この玉座の間に入れるわけにもいくまい」
「もちろんです。場所を改めてご覧いただきたく存じます」
アキオのその言葉に国王は満足げに頷いた。
「うむ、良かろう。ではわしも直々に見に行こう。宰相、中庭の準備を」
「はっ、陛下!?」
国王が自ら玉座を離れ出迎えの場に赴くなど前代未聞。宰相や周りの貴族たちが驚きにざわめくが、国王はそれを一瞥で黙らせた。
国王、ソフィア王妃、そして宰相や近衛騎士団長などごく一部の重臣だけがアキオたちに同行し、王城の美しい中庭へと場所を移した。
そこには既に聖域から運ばれてきた二つの巨大な何かが分厚い布で覆われ、静かに鎮座していた。アキオの合図で護衛役のキナがその布を勢いよく引き剥がす。
現れたのは黒曜石のように輝く流線形の『疾風』と、鋼の塊のような重厚感を持つ『大地』。
その異様な、しかし圧倒的な存在感を前に同行した重臣たちは息をのんだ。
「これが聖域の魔導車…!」
国王は満足げに頷くと威厳を持って告げた。
「聖域伯。見事な品、確かに受け取った。貴殿の盟友としての誠意、そしてその技術力、しかと見届けたぞ。…さて、場所を移し、茶でも飲みながらゆっくりと話そうではないか」
国王主催のささやかな歓迎の茶会。
表向きは和やかな雰囲気。しかしその会話の端々で、一部の保守的な貴族たちがアキオに対し侮蔑的とも取れる探りを入れてくる。
「ほう、聖域伯殿は元は職人であったとか。そのお立場でこれほどの栄誉を手にされるとは大したものですな」
マーカム侯爵のその棘のある言葉をクラウディアが完璧な笑みで受け流す。
「まあ侯爵様。アキオ様はただの職人ではございません。何もない荒れ地から人々の笑顔という国をお作りになった偉大な建国王でいらっしゃいますもの」
そのやり取りを国王はただ静かに微笑みながら見ているだけだった。
その夜、アキオたちが王城内の客室で休んでいると、遠くの廊下から複数の足音と押し殺したような声が聞こえてきた。
護衛役のキナがその獣人の鋭い聴覚でその音を拾う。
「…だんな。こりゃあただの夜警じゃねえな。近衛兵だ。それも本気で何かを捕まえに行く時の足音だぜ…」
その言葉通り、しばらくして遠くで誰かの短い悲鳴と金属がぶつかり合う音が響いたが、それもすぐに静寂に飲み込まれた。
翌朝、城内の空気は一変していた。
昨日とは打って変わって全ての使用人や役人たちが緊張した面持ちで足早に行き交っている。そして昨日あれほど嫌味を言ってきたマーカム侯爵を始めとする数名の貴族たちの姿がどこにも見えなかった。
そんな中アキオだけが国王の私室へと呼ばれた。
通された部屋で国王は玉座の威厳とは無縁の穏やかな老人としてアキオを迎えた。
「アキオ殿。昨夜は騒がしく申し訳なかった。少し城の庭の草むしりをさせていただいたのでな」
国王は穏やかな表情でそう切り出した。
「我が宮廷内にも残念ながら新しい時代の流れを受け入れられぬ古い根が残っておりました。貴殿とそのご家族への無礼な態度は即ち新しい同盟を結んだこのわしへの反逆そのものです。貴殿が来てくれたおかげでその不穏分子(雑草)が誰であるかはっきりと分かったのです」
アキオは息をのんだ。昨日のあの茶会は彼らを炙り出すための罠だったのだ。
「貴殿を知らぬ間に政争の道具として利用したこと心より詫びる。だがこれも我らの未来の同盟を盤石なものにするために必要な痛みだったとご理解いただきたい。これで我らの友情に水を差す不純物は一掃された」
国王はそこで初めて深く頭を下げた。
アキオはその王の非情さに一瞬背筋が寒くなるのを感じた。だが同時に理解する。王とは国という巨大な家族を守るため時には自らの手を汚すことも厭わない孤独な存在なのだと。
「…いえ、陛下。俺は貴方のやり方が好きではありません」
アキオは正直にそう告げた。
「ですが貴方が貴方の国という巨大な家族を守ろうとしたその覚悟は理解できます。…顔を上げてください」
その言葉に国王は顔を上げ、そして初めて心からの信頼を込めた笑みを浮かべた。
「…感謝する、盟友よ」
この瞬間、二人の関係はただの同盟相手から互いの背負うものの重さを理解し合った真の【盟友】へと昇華した。
王都の全ての障害が取り除かれ、いよいよアキオの本当の仕事が始まろうとしていた。
高い天井から差し込む七色の光が真紅の絨毯を照らし、その両脇にはこの国の有力貴族たちがずらりと並び、値踏みするような視線を投げかけてくる。
アキオはその空気に気圧されることなく堂々と玉座の前まで歩を進め、彼の後ろに続く妻たちもまた、完璧なカーテシーでその場を圧倒した。
「聖域伯アキオ殿。長旅ご苦労であった。面を上げよ」
国王の言葉にアキオは顔を上げた。
「は。国王陛下、並びに王妃殿下におかれましてもご健勝のこと、お慶び申し上げます。本日は先日の盟約に基づき、陛下への献上品をお持ちいたしました」
「ほう、献上品とな。して、それは例の魔導車であろうな。わしも興味がある。だが、この玉座の間に入れるわけにもいくまい」
「もちろんです。場所を改めてご覧いただきたく存じます」
アキオのその言葉に国王は満足げに頷いた。
「うむ、良かろう。ではわしも直々に見に行こう。宰相、中庭の準備を」
「はっ、陛下!?」
国王が自ら玉座を離れ出迎えの場に赴くなど前代未聞。宰相や周りの貴族たちが驚きにざわめくが、国王はそれを一瞥で黙らせた。
国王、ソフィア王妃、そして宰相や近衛騎士団長などごく一部の重臣だけがアキオたちに同行し、王城の美しい中庭へと場所を移した。
そこには既に聖域から運ばれてきた二つの巨大な何かが分厚い布で覆われ、静かに鎮座していた。アキオの合図で護衛役のキナがその布を勢いよく引き剥がす。
現れたのは黒曜石のように輝く流線形の『疾風』と、鋼の塊のような重厚感を持つ『大地』。
その異様な、しかし圧倒的な存在感を前に同行した重臣たちは息をのんだ。
「これが聖域の魔導車…!」
国王は満足げに頷くと威厳を持って告げた。
「聖域伯。見事な品、確かに受け取った。貴殿の盟友としての誠意、そしてその技術力、しかと見届けたぞ。…さて、場所を移し、茶でも飲みながらゆっくりと話そうではないか」
国王主催のささやかな歓迎の茶会。
表向きは和やかな雰囲気。しかしその会話の端々で、一部の保守的な貴族たちがアキオに対し侮蔑的とも取れる探りを入れてくる。
「ほう、聖域伯殿は元は職人であったとか。そのお立場でこれほどの栄誉を手にされるとは大したものですな」
マーカム侯爵のその棘のある言葉をクラウディアが完璧な笑みで受け流す。
「まあ侯爵様。アキオ様はただの職人ではございません。何もない荒れ地から人々の笑顔という国をお作りになった偉大な建国王でいらっしゃいますもの」
そのやり取りを国王はただ静かに微笑みながら見ているだけだった。
その夜、アキオたちが王城内の客室で休んでいると、遠くの廊下から複数の足音と押し殺したような声が聞こえてきた。
護衛役のキナがその獣人の鋭い聴覚でその音を拾う。
「…だんな。こりゃあただの夜警じゃねえな。近衛兵だ。それも本気で何かを捕まえに行く時の足音だぜ…」
その言葉通り、しばらくして遠くで誰かの短い悲鳴と金属がぶつかり合う音が響いたが、それもすぐに静寂に飲み込まれた。
翌朝、城内の空気は一変していた。
昨日とは打って変わって全ての使用人や役人たちが緊張した面持ちで足早に行き交っている。そして昨日あれほど嫌味を言ってきたマーカム侯爵を始めとする数名の貴族たちの姿がどこにも見えなかった。
そんな中アキオだけが国王の私室へと呼ばれた。
通された部屋で国王は玉座の威厳とは無縁の穏やかな老人としてアキオを迎えた。
「アキオ殿。昨夜は騒がしく申し訳なかった。少し城の庭の草むしりをさせていただいたのでな」
国王は穏やかな表情でそう切り出した。
「我が宮廷内にも残念ながら新しい時代の流れを受け入れられぬ古い根が残っておりました。貴殿とそのご家族への無礼な態度は即ち新しい同盟を結んだこのわしへの反逆そのものです。貴殿が来てくれたおかげでその不穏分子(雑草)が誰であるかはっきりと分かったのです」
アキオは息をのんだ。昨日のあの茶会は彼らを炙り出すための罠だったのだ。
「貴殿を知らぬ間に政争の道具として利用したこと心より詫びる。だがこれも我らの未来の同盟を盤石なものにするために必要な痛みだったとご理解いただきたい。これで我らの友情に水を差す不純物は一掃された」
国王はそこで初めて深く頭を下げた。
アキオはその王の非情さに一瞬背筋が寒くなるのを感じた。だが同時に理解する。王とは国という巨大な家族を守るため時には自らの手を汚すことも厭わない孤独な存在なのだと。
「…いえ、陛下。俺は貴方のやり方が好きではありません」
アキオは正直にそう告げた。
「ですが貴方が貴方の国という巨大な家族を守ろうとしたその覚悟は理解できます。…顔を上げてください」
その言葉に国王は顔を上げ、そして初めて心からの信頼を込めた笑みを浮かべた。
「…感謝する、盟友よ」
この瞬間、二人の関係はただの同盟相手から互いの背負うものの重さを理解し合った真の【盟友】へと昇華した。
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