五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第359話:金色の聖母と、未来への投資

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 聖域が夏の柔らかな日差しに包まれたある日の朝、その時はついに訪れた。
 臨月を迎え穏やかながらもどこか緊張した日々を過ごしていたクラウディアに、待望の陣痛が始まったのだ。
「…来たようね」
 凛のその冷静な一言を合図に、聖域は一つのチームとなって動き出す。

 分娩室には聖域の医療の叡智と、そして家族の温かい愛情が集結していた。
 クラウディアはアキオが設えた『安産椅子』にその身を預けている。椅子は出産モードへと変形し、彼女の身体を最も楽な角度で支えていた。
「クラウディア、大丈夫だ!俺がついている!」アキオが彼女の手を固く握る。
「ええ、クラウディア。わたくしもここにいるわ。何も心配いらない」凛がその汗を優しく拭う。
 ベテラン産婆のマーサが冷静な指示を飛ばす中、クラウディアは凛の時とはまた違う、素直な感情の発露を見せた。痛みに顔を歪めアキオの名を呼び、親友の励ましに涙を流す。
 だが安産椅子のおかげで彼女はパニックに陥ることなく、どこに力を込めるべきかをはっきりと意識することができた。

 長い陣痛の末、夜が明け始めた頃。
「奥様!もうすぐです!頑張って!」
 マーサの声が飛ぶ。
「クラウディア!俺たちの可愛い子に会えるぞ!」
 アキオの力強い励ましと凛の懸命なサポートを受け、クラウディアが最後の力を振り絞った、その時。

 オギャー、オギャー、オギャー!

 凛の息子、智明に負けないくらい元気で、そして太陽のように明るい産声が、朝焼けの聖域に響き渡った。
「おめでとうございます!今度は、それはもう可愛らしいお姫様でございますよ!」

 疲れ果てたクラウディアの腕に、産湯を使ったばかりの小さな赤子が抱かされる。
「…ああ…わたしの、あかちゃん…」
 クラウディアは涙で濡れた顔で、人生で最も美しい笑顔を見せた。
 アキオはそんな彼女と我が子を同時に優しく抱きしめる。

 翌日すっかり体力を回復したクラウディアの部屋は、祝福に訪れた妻たちで賑わっていた。
「この子の名前、もう決めたのよ」
 クラウディアはアキオと、そして親友である凛の顔を見ながら告げた。
「この聖域が、そしてわたくしたちの未来がいつまでも明るく照らされますようにと願いを込めて。そしてわたくしに光を与えてくれた凛への感謝も込めて…『陽奈(ひな)』と名付けますわ」
「陽奈…か。クラウディアらしい、素晴らしい名前だ」
 アキオは深く頷き、自らの二人目の娘、陽奈のその小さな頬にそっと口づけを落とした。
 金色の髪を持つ聖母と、その腕の中で眠る太陽の娘。聖域にまた一つ、かけがえのない光が生まれた瞬間だった。

 クラウディアと陽奈が健やかな眠りについている、その夜。
 アキオは執務室で一人、安堵と幸福感に浸っていた。
 そこへ控えめな、しかし確かな意志を感じさせるノックの音がした。
「シャルロッテか。どうした?」
「アキオ様。少しよろしいでしょうか。お祝いのお酒を持ってまいりました」
 入ってきたのは第八夫人、シャルロッテ。その手には最高級の葡萄酒のボトルと二つのグラスが握られている。

「今日は本当におめでとうございます。クラウディア様も陽奈様もご無事で何よりですわ」
「ああ、ありがとう。シャルロッテも色々と気をもんでくれただろう」
 二人は祝杯を交わす。シャルロッテはその悪戯っぽい瞳でアキオを見つめた。
「それでアキオ様? 今宵のお相手はもうお決まりなのでしょうか?」
 そのあまりにも直接的な問いにアキオは思わずむせた。
「リリアーナ様はイザベラ様の教育でお疲れのご様子。凛様は産後間もないクラウディア様のおそばに。…となると、今宵貴方様をお慰めできるのは、わたくししかおりませんでしょう?」

 シャルロッテはそう言うと、アキオの膝の上にことりと腰を下ろした。
「わたくし今日、陽奈様を見て思いましたの。わたくしもいつかアキオ様との子が欲しい、と。ですがその前に、わたくしにはやるべきことがございます」
 彼女は聖域街道開発公社の総裁として、自らが進めているプロジェクトの重要性を熱く語り始めた。それはただの道作りではない。聖域の未来の繁栄そのものへの「投資」なのだと。
「ですからアキオ様。今宵はわたくしに投資してくださいませんか? 貴方様のその愛と祝福をわたくしに注いでくだされば、わたくしは明日からもっともっと頑張れますわ」

 その公爵令嬢らしい大胆で知的な誘惑。アキオはもう抗うことなどできなかった。
 彼はシャルロッテを力強く抱きしめ、その唇を求めた。
「…まったく、君には敵わんな」
 その夜、アキオは若く美しい才媛の、その野心と愛情の全てをその身に受け止めた。
 それは聖域の新しい未来を創造するための、甘くそして刺激的な一夜となった。
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