五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第361話:神狼の産声、そして五番目の光

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 聖域に夏の気配が色濃くなり始めたある日、町の広場では、第二夫人であるキナが、元気に育つ我が子たち(リク、そら、ルナ、大地)と、聖獣の子たちを相手に、鬼ごっこに興じていた。大きなお腹を抱えているとは思えないほどの、その身軽でエネルギッシュな姿に、アヤネやシルヴィアは、少しだけ心配そうな、しかし微笑ましい眼差しを向けていた。
「キナさん、あまり無理をしては駄目ですよ。もう、いつ生まれてもおかしくないのですから」
「へへっ、平気だって、アヤネ姉ちゃん! あたしら狼獣人は、身体が資本だからな! このくらいでへばってちゃ、だんなの嫁は務まらねえよ!」
 キナは、そう言って快活に笑う。その太陽のような笑顔は、町の誰もを元気づける、聖域の宝の一つだった。

 だが、その日の午後。事件は、突然、訪れた。
 子供たちとの遊びを終え、アキオと共に中央館の庭で木の実を食べていた、まさにその時。キナが、ふと動きを止め、その大きな瞳を、まん丸く見開いた。
「…おっと」
「どうした、キナ?」
「だんな…。どうやら、こいつ、もう、だんなや兄ちゃん姉ちゃんたちに、会いたくなっちまったみてえだぜ…!」
 彼女は、苦しげに、しかし、どこか楽しそうに、自らの大きなお腹をさすった。アキオは、獣人である彼女の出産が、人間のそれよりも早く、そして力強く訪れることを経験から知っていた。
「来たか! すぐにマーサさんとシルヴィアを呼ぶ!」

 中央館の分娩室は、瞬く間に、聖域の医療チームによって、完璧な準備が整えられた。ベテラン産婆のマーサと、今やその右腕として成長したハナ。薬草師として、母体を支えるシルヴィアとミコ。そして、姉妹であり、母親の先輩として、キナの手を握り、励ますアヤネ。
 キナの出産は、彼女の性格そのものを、体現しているかのようだった。
「ぐっ…! こ、こいつ、今までの奴らより、腹を蹴る力が、つええぞ…!」
 陣痛の激しい波に耐えながらも、その口からは、威勢のいい言葉が飛び出す。その姿は、痛みに苦しむ妊婦というよりは、強大な敵と、一人で戦う、孤高の女戦士のようでもあった。
 アキオは、そんな愛しい妻の手を、ただ、固く、固く、握りしめ、その耳元で、励ましの言葉を、送り続けることしかできなかった。

 そして、陣痛が始まってから、半日も経たない、夕暮れ時。
「おぎゃあ! おぎゃあっ!」
 これまでの、どの赤子よりも、力強く、そして、生命力に満ち溢れた産声が、聖域の空に、高らかに響き渡った。
「おめでとうございます! キナ様、アキオ様! とてもお元気な、お母上そっくりの、可愛らしいお姫様でございますよ!」
 マーサが、湯で清められた赤ん坊を、キナの胸元へと運ぶ。赤ん坊は、母親譲りの、美しい赤銅色の髪を僅かに生やし、ぴくぴくと動く小さな狼の耳と尻尾を持っていた。
「へへ…やったぜ、だんな…! 女の子だ! リクの妹ができたぞ!」
「ああ、キナ…! 本当によく頑張ったな…! ありがとう…!」
 アキオは、キナと、そして生まれたばかりの娘を、まとめて力強く抱きしめた。

 その夜、体力の回復も驚くほど早いキナは、アキオと共に、新しい娘の名前を考えていた。
「なあ、だんな。この子の名前、あたしに考えさせてくれねえか?」
「もちろんだ。お前が産んだ、お前の子だからな」
「へへ、ありがとよ。…この子は、花のように、皆に愛され、そして、この聖域を、明るく照らす、光になってほしい。だから…『華(はな)』ってのは、どうだ?」
「華…か。良い名前だ。キナ、お前にぴったりの、素晴らしい名前だよ」

 アキオは、妻と、新しく生まれた娘「華」が健やかに眠る寝顔を見つめながら、その生命力の強さに改めて感嘆していた。
(それにしても、キナは本当にたいしたもんだ。獣人の出産は、人間とはこうも違うものかと、リクの時もルナの時も驚かされたが、何度見てもすげえもんだ。この生命力の塊のような妻と、新しく生まれたこの小さな華。俺の、かけがえのない宝物だ)

 聖域に、また一つ、新しい光が灯った。神狼の血を引く、その、小さな華の誕生は、この、祝福された土地の、未来を、さらに、明るく、そして、力強く、照らし出していくことだろう。
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