五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

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第376話:三つの光と、新しい時代の夜明け

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 アキオが黄金色に輝く『神聖樹液の結晶』をその手に握りしめ中央館へと帰還した時、アウロラの命の灯火はまさに消えかかろうとしていた。彼女の体から溢れ出す制御不能の魔力は、もはや嵐というよりも、全てを飲み込む巨大な渦潮のように部屋全体を覆い尽くしていた。
「アキオ殿! よくぞご無事で……! そして、それは……!?」
 工房で為すすべもなく待機していた老賢者パラケルススが、アキオの手に握られた神々しいまでの生命力の塊に目を見開く。
「話は後だ! これを使ってくれ!」
 アキオの悲痛なまでの叫びが反撃の狼煙だった。

 工房はにわかに戦場と化した。
「リザ! 『賢者の石』を溶解炉へ! 触媒の安定化を図る!」「ドルガン殿! この神聖樹液のエネルギーを受け止める筐体の最終強化を! アキオ鋼にミスリル銀をコーティングするのじゃ!」「おう、任せておけ!」
 パラケルススの鋭い指示が飛ぶ。その頭脳は絶望的な状況の中、むしろ冴え渡っていた。リザはその正確無比な手つきで錬金術の奥義を尽くし、増幅装置の心臓部を構築していく。ドルガン親方とドワーフたちがその巨大なエネルギーに耐えうる頑丈な筐体を鍛え上げる。そしてアキオは自らの「生命の祝福」を組み上げられていく各部品に注ぎ込み、その結合を物理的にも魔術的にも強化していく。
 魔法と科学、そして職人技。これまで決して交わることのなかった異世界の三つの叡智がアウロラという一人の女神を救うため、今、完全に一つに融合した。

 夜が明けきるその直前、ついに増幅装置は完成した。
 それは美しいガラスと銀で作られた祭壇のようでもあり、あるいは未知の生命の心臓のようでもあった。その中央には神聖樹液の結晶が埋め込まれ、穏やかな、しかし力強い光を放っている。
 完成した装置はすぐにアウロラの眠る分娩室へと運び込まれた。
「アキオ殿、もはや一刻の猶予もない! 全ての力をこの装置に!」
 アキオは覚悟を決め、装置の中央に立った。その両手を装置の両脇にある水晶のパネルに置く。シルヴィアがその後ろからアキオの体を支えるようにその背中にそっと手を触れた。凛や他の妻たちも部屋の隅で、ただ祈るようにその光景を見守っている。

「うおおおおおおおおっ!」
 アキオは吠えた。自らの命そのものを削り、魂を燃し尽くす覚悟で、全ての「生命の祝福」を増幅装置へと注ぎ込む。
 その瞬間、神聖樹液の結晶が眩い黄金色の光を放った。アキオの温かい生命の力がその神聖な触媒によって何十倍にも増幅され、そして完全に安定化された巨大な生命エネルギーの奔流へと変わる。
 黄金色の光の川。それは装置からアウロラの体へとゆっくりと、しかし確実に注ぎ込まれていった。
 荒れ狂っていた魔力の嵐が嘘のように鎮まっていく。アウロラの苦痛に満ちた表情が次第に穏やかな寝顔へと変わっていく。

 そしてついに奇跡の瞬間が訪れた。
 その巨大な生命エネルギーに満たされたアウロラの体から、三つの巨大な光の球体がゆっくりと生まれ出たのだ。それはもはや「出産」というよりも、新しい星が生まれる瞬間に似ていた。
 光の球体は部屋の中をしばらく漂った後、ゆっくりとその輝きを収束させていく。
 光が完全に消えた時、そこには三人の小さな赤ん坊が、柔らかな光の毛布に包まれるようにして穏やかな寝息を立てていた。

 一人はアキオによく似た力強い男の子。
 もう一人はアウロラの神々しさを受け継いだ美しい女の子。
 そして三人目。その子も女の子だった。しかし他の二人とは明らかに違う、神々しいまでのオーラを放っていた。肌はまるで光そのものを練り上げたかのように輝き、その銀色の髪は自ら光を放っているかのようだ。瞳はまだ閉ざされているというのに、その内側から計り知れないほどの叡智が溢れ出しているかのようだった。

「……ああ……」
 その光景に部屋にいた誰もが言葉を失っていた。
 やがてアウロラがゆっくりとその瞼を開けた。彼女は自らが産み落とした三つの光を見つめると、疲れ果てた表情の中に至上の母の笑みを浮かべた。
「……ありがとう、アキオ。そして皆……。わらわの可愛い赤子たち……」

 アキオとシルヴィア、そしてアウロラの三人は、それぞれの赤ん坊をその腕に抱いた。
 そして彼らはその新しい家族に名前を贈る。

 力強い男の子には獅子座の一等星の名から『レグルス』。
 双子の美しい女の子には虹の女神の名から『イリス』。
 そして三人目の奇跡の光の子には。
「この子は……」アウロラがその子を抱きしめながら慈愛に満ちた声で言った。「古代の光の女神の名を授けましょう。この聖域の、そしてわらわ達の新しい光となるように。……『ティア』と」

 レグルス、イリス、そしてティア。
 アキオとシルヴィア、そしてアウロラは三つのかけがえのない宝物を代わる代わるその腕に抱いた。その至福の時間の後、アウロラは満足げな、しかしどこか儚げな笑みを浮かべてアキオに語りかけた。

「アキオ……」
「どうしたアウロラ。疲れただろう、ゆっくり休むといい」
「うむ。……そのことなのじゃが、わらわは少し永い眠りにつきます」
 その言葉にアキオは息をのんだ。
「永い眠り!? アウロラ、大丈夫なのか! 体に何か……!」
 アキオが狼狽するのを見て、アウロラはくすりと優しく微笑んだ。
「案ずるでない、愛しい人よ。この三人の光の子をこの世に産み出すために、わらわの力のほとんどを使い果たしてしもうたからの。じゃが心配はいらぬ。この生命力に満ちた聖域で眠ることで、わらわの力はいずれ完全に回復する。ただの休息じゃ。だから心配せずともよい」

 彼女はそう言うと、三人の我が子の額に、そして最後にアキオの唇にそっと口づけをした。
「少し留守にするが、この子たちと皆のことを頼んだぞ、アキオ……」
 そして彼女はまるで安らかな眠りに落ちるかのように静かにその瞳を閉じた。彼女の体は淡い光の繭に包まれ、その寝顔はどこまでも穏やかだった。

 アキオはそのあまりにも神々しい光景に言葉もなく、ただ頷くことしかできなかった。
 聖域の女神のしばしの休息。それは新しい時代の始まりを静かに見守るための聖なる眠り。
 アキオと妻たちは彼女が再び目覚めるその日まで、この聖域と新しい三つの光を全力で守り抜くことを心に誓うのだった。

 そしてその奇跡の中心に、疲れ果ててはいるものの、これ以上ないほどに満足げで誇らしげな笑みを浮かべる一人の父親が立っていた。
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