五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ

文字の大きさ
377 / 387

第377話:新しい風と、父の休日

しおりを挟む
 アウロラの出産という聖域の存亡を懸けた一大危機を乗り越え、町は祝福と、そして新しい時代の始まりを告げる穏やかな日常を取り戻していた。

 その日の朝、聖域の工房地区の一角はこれまでにない活気に満ちていた。先日、聖域の新しい仲間となった錬金術師パラケルススとその一族に与えられた真新しい工房。その中では孫娘のリザが、ドルガン親方の一番弟子であるドワーフのギムルと、激しい、しかしどこか楽しげな口論を繰り広げていた。
「だから違うと言っているだろう! ゴーレムの関節部分の強度は単純な金属の硬度だけでは決まらない! 錬金術による柔軟性の付与こそが重要なんだ!」
 リザが油のついた手で設計図を指さしながら叫ぶ。
「何を言うか小娘! ドワーフの鍛冶技術をなめるな! このアキオ鋼とミスリル銀の積層装甲に勝るものなどありはしないわ!」
 ギムルも負けじと鍛え上げたばかりのゴーレムの腕部パーツを誇らしげに叩いてみせた。
 その若き天才職人たちの技術論争をパラケルススとドルガン親方が腕を組みながら満足げに眺めている。科学と魔法。錬金術と鍛冶。その異文化の交流と衝突が、聖域に新しい技術革新の風をもたらそうとしていた。

 一方、アキオはその日一日を完全な「休日」とすることを宣言していた。彼はまず中央館の託児所へと向かう。そこでは産後間もないセレスティーナ、レオノーラ、そしてシルヴィアが、生まれたばかりの我が子をあやしながら穏やかな時間を過ごしていた。
 アキオはその一人一人の労をねぎらい、心からの感謝を伝えた。
「セレスティーナ、アルフォンスは君の気品を受け継いで本当に賢そうな顔をしているな」
「レオノーラ、ローザリアのその力強い眼差しは君にそっくりだ。きっと強い女性になるぞ」
「そしてシルヴィア……。ステラ・ノヴァはまるで君とアウロラの良いところだけを集めたような奇跡の子だ。本当にありがとう」
 その夫からの優しい言葉に、三人の妻たちは母親として、そして一人の女性として至上の幸福感に包まれるのだった。

 そして午後。アキオはアルトとミコ、ケンタとユメのそれぞれの家庭を訪れた。目的はもちろん生まれたばかりの「孫」に会うためだ。
「おお、アルムか! 元気にしてたか、じいじだぞー」
 アルトとミコの家では、ミコに抱かれた小さな赤ん坊に、アキオは相好を崩した。アルトはその隣でどこか誇らしげに、しかし照れくさそうに頭を掻いている。アキオがその子を抱き上げると、赤ん坊はアキオの指をその小さな手できゅっと握り返した。そのあまりの愛おしさにアキオは盟主の威厳などどこへやら、ただのだらしない「じいじ」の顔になっていた。
「こっちはケンジか! どれ、じいじに高い高いをさせてみろ!」
 ケンタとユメの家では父親になったばかりのケンタが悪戦苦闘していた。「うわーん! ケンジがまた泣き止まないんだよー! アキオさん、どうしたらいいんだ!?」
 アキオは笑いながら手慣れた様子で孫のケンジをあやし、そして新米パパであるケンタに「父親の心得」を優しく説いてやるのだった。

 盟主や棟梁としてではない、ただの「じいじ」としてのアキオの姿。それは聖域の平和と繁栄を何よりも象徴する光景だった。

 その日の夜。アキオは全ての妻たちが集う夕食の席で一つの提案をした。
「皆、聞いてくれ。この聖域に新しい仲間とたくさんの新しい命が生まれたことを祝って、近々、盛大な収穫祭を開こうと思う」
 その提案にイザベラが待っていましたとばかりに、その瞳を輝かせた。
「まあ、アキオ様! それでしたらわたくしにお任せくださいませ! この聖域の初めてのお祭りをわたくしが必ずや素晴らしいものにしてごらんにいれます!」
 彼女のその初めて見せる積極的な申し出。それは聖域が次の新しいステージへと向かう合図でもあった。
 そして、その祭りの喧騒の中でアウロラがその永い眠りからついに目を覚ますことになるのだが、それはまた別の物語である。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

勇者パーティを追放されてしまったおっさん冒険者37歳……実はパーティメンバーにヤバいほど慕われていた

秋月静流
ファンタジー
勇者パーティを追放されたおっさん冒険者ガリウス・ノーザン37歳。 しかし彼を追放した筈のメンバーは実はヤバいほど彼を慕っていて…… テンプレ的な展開を逆手に取ったコメディーファンタジーの連載版です。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...