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第378話:聖域の収穫祭、鉄の巨人、そして女神の目覚め
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「じいじ、見て! 金魚すくいがある!」
「こっちには輪投げが! じいじ、あれやりたい!」
聖域の歴史上初めてとなる「大収穫祭」の朝。アキオは増えに増えた我が子と孫たちの小さな手に両側から引かれ、喧騒と喜びに満ちた広場を歩いていた。空はどこまでも高く澄み渡った秋晴れで、アヤネとキナが腕を振るった各国の料理が並ぶ屋台からは食欲をそそる香ばしい匂いが立ち上っている。
「ほう、金魚か。よし、じいじが良いところを見せてやるかな!」
「輪投げも後で行こうな。まずは腹ごしらえにしないか? キナ母ちゃんの焼いた肉の匂いがするぞ」
「お肉食べるー!」
子供たちの元気な歓声に包まれ、アキオは目を細めた。今日は盟主でも棟梁でもない。ただの「父親」であり「じいじ」でいられるかけがえのない一日だった。
祭りの余興として開催された腕相撲大会では、生命樹の実の恩恵を受けたカイやザック、そして元「荒くれ共」の男たちがその有り余る力を存分に発揮し観衆を沸かせていた。
「いっけえええ、あなた! そのまま押し潰しちゃいなさい!」
サラが夫であるカイにお腹の子供に響くほどの大声援を送る。
「カイの兄貴、負けるなよ! 俺たちの棟梁はあんただけだ!」
若い職人たちの声に後押しされ、カイは唸り声をあげて相手の腕をねじ伏せた。ワッと湧き上がる歓声。その誇らしげな姿を見てアキオは満足げに頷いた。聖域の男たちの悩みはどうやら完全に解決されたようだ。
工房地区の出店ではリザとギムルが共同製作した「からくり灯籠」がひときわ大きな人だかりを作っていた。魔石の光で自動で絵が動く幻想的なその美しさに、子供たちが目を輝かせている。
「ふん。お前の言う錬金術の理論も少しは参考になるな。この魔石の出力安定回路はまあまあの出来だ」
「そっちこそ。ドワーフの精密加工技術は悪くないわ。この歯車の噛み合わせ、ミクロン単位のズレもないじゃない。やるわね、お爺ちゃんドワーフの孫」
「誰が爺の孫だ! それに、この灯籠の本体設計は俺がやったんだぞ!」
「あら、心臓部たる魔力回路を組んだのは私よ? 体だけあったって意味ないでしょうが」
相変わらず憎まれ口を叩き合いながらも、その横顔には互いの才能を認め合う職人としての確かな信頼関係が見て取れた。
そして祭りが最も盛り上がる昼過ぎ。メインステージの上にこの祭りの総責任者であるイザベラが立った。先日19歳の誕生日を迎え、成人した女性としての一歩を踏み出した彼女が初めて取り仕切る記念すべき初仕事だ。
マイクの前に立った彼女は眼下に広がる人々の海に一瞬息をのんだが、すぐに凛とした表情で顔を上げた。
「皆様! 本日は聖域の大収穫祭へようこそおいでくださいました! メイプルウッド王国第一王女、イザベラと申します!」
深々と頭を下げるその姿に温かい拍手が送られる。
「この収穫祭はこの一年、私たちが流した汗の結晶であり、この豊かな大地と生命樹様の恩恵への感謝の証です。そして何よりも、ここに集う全ての家族と仲間たちの平和と幸福を祝うためのものでございます!」
もはやかつてのおどおどした少女ではない。その声には女王としての威厳と民を愛する慈愛が満ちていた。
「そして今日、この祭りは新たな時代の幕開けを皆様にお見せする場でございます! 私たちの聖域がドワーフの皆様の巧みな技術と、新たなる仲間、錬金術師の方々の叡智と手を取り合った、その最初の奇跡をお披露目いたします!」
彼女のその言葉を合図に、ステージの後ろにかかっていた巨大な幕がゆっくりと引き上げられていった。
住民たちの前に姿を現したのは一体の鉄の巨人だった。ドワーフたちが鍛え上げた美しいアキオ鋼の装甲に身を包み、体内の至る所に錬金術によって精製された魔石が脈打つように青白い光を放っている。「錬金術式ゴーレム」の試作一号機であった。
広場がどよめきと、信じられないものを見るかのような驚きの声で満たされる。
ゴーレムの肩に乗ったリザとギムルがその驚異的なパワーで巨大な丸太を持ち上げ、そして寸分の狂いもなく別の場所にそっと置くという精密さを見せつけると、広場からは割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
お披露目が大成功に終わった後、アキオはステージの袖で興奮冷めやらぬイザベラを待っていた。
「イザベラ」
「アキオ様……! ご覧いただけましたでしょうか!」
「ああ、見ていたよ。本当によくやった。見事な演説と采配だった。俺の自慢の姫君だ」
アキオは19歳となり見違えるほどに成長した彼女の姿に改めて胸を熱くし、その華奢な体を人々の見守る前で優しく、そして力強く抱きしめた。
「えっ……?」
驚く彼女を壊れ物を扱うかのようにそっと抱きしめる。耳元で囁かれたその誰よりも優しい声。イザベラの心臓が大きく高鳴った。
アキオはゆっくりと体を離すと、彼女の潤んだ瞳をまっすぐに見つめた。そしてその美しい額に自らの唇をそっと押し当てる。それは誓いの口づけ。
「これは未来の俺の最高の妻への誓いの印だ。よく頑張ったな、イザベラ」
「……はい……はい、アキオ様……!」
イザベラはもはや言葉にならず、ただ涙を流しながら何度も頷くことしかできなかった。
そして夜。祭りがクライマックスを迎える頃。イザベラが企画した演劇「聖域の始まりの物語」が上演され、アキオが森でアヤネたちと出会うシーンに差し掛かったその時。
中央館の最上階、アウロラが眠る部屋の窓が内側から黄金色の神々しい光を放った。それは祭りのどんなイルミネーションよりも強く、そして温かい光。
全ての住民が息をのみその光に注目する。
やがて中央館の扉がゆっくりと開かれ、その光と共にアウロラが姿を現した。彼女は永い眠りから目覚め、以前にも増して神々しく力強い生命力に満ち溢れていた。
アウロラはモーゼの奇跡のように道を開ける人々の間をゆっくりと歩き、ステージの前に立つアキオの元へと向かう。
「アキオ……。ただいま、戻りました。少し長く眠りすぎたようじゃのう」
その鈴の音のように美しく、そして懐かしい声。アキオの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「アウロラ……! おかえり……! 心配したんだぞ、馬鹿者……!」
アキオは愛しい妻をそのありったけの力で抱きしめた。失われていた半身がようやく還ってきたかのような絶対的な安心感。
「もう、どこにも行くな」
「うむ。もう離れぬぞ。そなたのそばがわらわの玉座じゃからの」
アキオはその言葉と共に、愛しい女神のその唇に深く、そして永遠を誓うかのように口づけた。
聖域の最初の収穫祭は女神の帰還という最高の奇跡と共に、その幕を閉じたのだった。
「こっちには輪投げが! じいじ、あれやりたい!」
聖域の歴史上初めてとなる「大収穫祭」の朝。アキオは増えに増えた我が子と孫たちの小さな手に両側から引かれ、喧騒と喜びに満ちた広場を歩いていた。空はどこまでも高く澄み渡った秋晴れで、アヤネとキナが腕を振るった各国の料理が並ぶ屋台からは食欲をそそる香ばしい匂いが立ち上っている。
「ほう、金魚か。よし、じいじが良いところを見せてやるかな!」
「輪投げも後で行こうな。まずは腹ごしらえにしないか? キナ母ちゃんの焼いた肉の匂いがするぞ」
「お肉食べるー!」
子供たちの元気な歓声に包まれ、アキオは目を細めた。今日は盟主でも棟梁でもない。ただの「父親」であり「じいじ」でいられるかけがえのない一日だった。
祭りの余興として開催された腕相撲大会では、生命樹の実の恩恵を受けたカイやザック、そして元「荒くれ共」の男たちがその有り余る力を存分に発揮し観衆を沸かせていた。
「いっけえええ、あなた! そのまま押し潰しちゃいなさい!」
サラが夫であるカイにお腹の子供に響くほどの大声援を送る。
「カイの兄貴、負けるなよ! 俺たちの棟梁はあんただけだ!」
若い職人たちの声に後押しされ、カイは唸り声をあげて相手の腕をねじ伏せた。ワッと湧き上がる歓声。その誇らしげな姿を見てアキオは満足げに頷いた。聖域の男たちの悩みはどうやら完全に解決されたようだ。
工房地区の出店ではリザとギムルが共同製作した「からくり灯籠」がひときわ大きな人だかりを作っていた。魔石の光で自動で絵が動く幻想的なその美しさに、子供たちが目を輝かせている。
「ふん。お前の言う錬金術の理論も少しは参考になるな。この魔石の出力安定回路はまあまあの出来だ」
「そっちこそ。ドワーフの精密加工技術は悪くないわ。この歯車の噛み合わせ、ミクロン単位のズレもないじゃない。やるわね、お爺ちゃんドワーフの孫」
「誰が爺の孫だ! それに、この灯籠の本体設計は俺がやったんだぞ!」
「あら、心臓部たる魔力回路を組んだのは私よ? 体だけあったって意味ないでしょうが」
相変わらず憎まれ口を叩き合いながらも、その横顔には互いの才能を認め合う職人としての確かな信頼関係が見て取れた。
そして祭りが最も盛り上がる昼過ぎ。メインステージの上にこの祭りの総責任者であるイザベラが立った。先日19歳の誕生日を迎え、成人した女性としての一歩を踏み出した彼女が初めて取り仕切る記念すべき初仕事だ。
マイクの前に立った彼女は眼下に広がる人々の海に一瞬息をのんだが、すぐに凛とした表情で顔を上げた。
「皆様! 本日は聖域の大収穫祭へようこそおいでくださいました! メイプルウッド王国第一王女、イザベラと申します!」
深々と頭を下げるその姿に温かい拍手が送られる。
「この収穫祭はこの一年、私たちが流した汗の結晶であり、この豊かな大地と生命樹様の恩恵への感謝の証です。そして何よりも、ここに集う全ての家族と仲間たちの平和と幸福を祝うためのものでございます!」
もはやかつてのおどおどした少女ではない。その声には女王としての威厳と民を愛する慈愛が満ちていた。
「そして今日、この祭りは新たな時代の幕開けを皆様にお見せする場でございます! 私たちの聖域がドワーフの皆様の巧みな技術と、新たなる仲間、錬金術師の方々の叡智と手を取り合った、その最初の奇跡をお披露目いたします!」
彼女のその言葉を合図に、ステージの後ろにかかっていた巨大な幕がゆっくりと引き上げられていった。
住民たちの前に姿を現したのは一体の鉄の巨人だった。ドワーフたちが鍛え上げた美しいアキオ鋼の装甲に身を包み、体内の至る所に錬金術によって精製された魔石が脈打つように青白い光を放っている。「錬金術式ゴーレム」の試作一号機であった。
広場がどよめきと、信じられないものを見るかのような驚きの声で満たされる。
ゴーレムの肩に乗ったリザとギムルがその驚異的なパワーで巨大な丸太を持ち上げ、そして寸分の狂いもなく別の場所にそっと置くという精密さを見せつけると、広場からは割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
お披露目が大成功に終わった後、アキオはステージの袖で興奮冷めやらぬイザベラを待っていた。
「イザベラ」
「アキオ様……! ご覧いただけましたでしょうか!」
「ああ、見ていたよ。本当によくやった。見事な演説と采配だった。俺の自慢の姫君だ」
アキオは19歳となり見違えるほどに成長した彼女の姿に改めて胸を熱くし、その華奢な体を人々の見守る前で優しく、そして力強く抱きしめた。
「えっ……?」
驚く彼女を壊れ物を扱うかのようにそっと抱きしめる。耳元で囁かれたその誰よりも優しい声。イザベラの心臓が大きく高鳴った。
アキオはゆっくりと体を離すと、彼女の潤んだ瞳をまっすぐに見つめた。そしてその美しい額に自らの唇をそっと押し当てる。それは誓いの口づけ。
「これは未来の俺の最高の妻への誓いの印だ。よく頑張ったな、イザベラ」
「……はい……はい、アキオ様……!」
イザベラはもはや言葉にならず、ただ涙を流しながら何度も頷くことしかできなかった。
そして夜。祭りがクライマックスを迎える頃。イザベラが企画した演劇「聖域の始まりの物語」が上演され、アキオが森でアヤネたちと出会うシーンに差し掛かったその時。
中央館の最上階、アウロラが眠る部屋の窓が内側から黄金色の神々しい光を放った。それは祭りのどんなイルミネーションよりも強く、そして温かい光。
全ての住民が息をのみその光に注目する。
やがて中央館の扉がゆっくりと開かれ、その光と共にアウロラが姿を現した。彼女は永い眠りから目覚め、以前にも増して神々しく力強い生命力に満ち溢れていた。
アウロラはモーゼの奇跡のように道を開ける人々の間をゆっくりと歩き、ステージの前に立つアキオの元へと向かう。
「アキオ……。ただいま、戻りました。少し長く眠りすぎたようじゃのう」
その鈴の音のように美しく、そして懐かしい声。アキオの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「アウロラ……! おかえり……! 心配したんだぞ、馬鹿者……!」
アキオは愛しい妻をそのありったけの力で抱きしめた。失われていた半身がようやく還ってきたかのような絶対的な安心感。
「もう、どこにも行くな」
「うむ。もう離れぬぞ。そなたのそばがわらわの玉座じゃからの」
アキオはその言葉と共に、愛しい女神のその唇に深く、そして永遠を誓うかのように口づけた。
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