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「エレイン・・・彼に貴方は似合わないと思うわ」
エレインは苦笑して頷いた。
「もちろんそれは分かってるわ。彼の横には貴方のような人のほうが似合ってるわ。マリアンヌ」
エレインの言葉に、マリアンヌは不快そうに眉をしかめた。
「やめてよ。そういう意味じゃないわ」
「じゃあ、平民だからってこと?」
「そういうのでもないの」
マリアンヌはしばらく黙り、それから紅茶を一口飲んだ。言葉を選ぶように、慎重に切り出す。
「エリオール様、彼ね、なんと言ったらいいのか・・・少し怖い人だったわ」
「怖い?」
マリアンヌは頷く。
「したたかっていうのか・・・目的のためなら手段を選ばない人なのだと思うの」
マリアンヌの言葉に、エレインは戸惑いを隠せなかった。
エレインの知っているエリオールと、随分違う。
エレインの知るエリオールは、綺麗で儚い花のような人だった。母親のために自分を殺し、伯爵に我が身を差し出す。ルイスが惚れてしまうのも無理はないと思わせるような・・・
言葉をなくすエレインに、マリアンヌは低い声で続ける。
「皇太子殿下が失脚させられそうになった事件があったでしょ?あの時、それを解決したのが彼だといわれてるの」
その事件には覚えがあった。第二皇子派が謀り、第一皇子である皇太子殿下を陥れようとした。それを皇太子殿下が打ち破ったというもの。本来ならば罰されるはずだった第二皇子に責はないとされたけれど、立場は随分悪くなったと聞く。
「その時はもちろん、殿下は彼に感謝したし、褒賞も与えたと聞くわ。でも、彼はその後殿下の側近を外された」
「どうして?」
「皇太子殿下はね、とても清廉潔白な人なのよ。ご自分もそうだけど、側近にもそれを求めるの。実際に何があったのかは、私も知らないわ。でも、彼のやり方は殿下のお気に召さなかったのよ」
エレインが黙り込んでしまったのを見て、マリアンヌは慌てたように付け加えた。
「でも、したたかな人が必ずしも悪い人ってわけじゃないわ」
「ええ・・・」
「グランデュール公爵様が失脚なさった時、公爵領は親戚達の手によってあっという間に分解されたわ。でも、どうやら資産の一部はあらかじめ逃がしてあったようなの」
「逃がす?」
「変えられていたのよ。公爵家に、それもエリオール様に忠実な臣下の名義に」
マリアンヌはふぅとため息をつき、小さく切ったケーキを上品に口に運ぶ。
「だから、確かにエリオール小公爵様は平民になられたけど、そこらの貴族よりは余程贅沢に暮らしているはずよ」
マリアンヌは、エレインが美貌の元小公爵の行く末を心配していると思ってそう言ってくれたのだろう。
しかし、エレインの心は反対に冷めていった。
マリアンヌの言うことが本当なら、エリオールは働く必要などないことになる。伯爵家でヴァイオリンを弾くことも、当主に肌を晒すことも。
そういえばルイスは言っていなかったか。問い詰められた父親は、エリオールから誘われたと言ったのだと。
当然嘘に違いないと決めつけていたけれど、本当にそうなのか?
そもそもなぜ、エリオールは伯爵家にやってきたのだ?
鏡が反転して現れた真実の姿は、エレインの想像よりもずっと残酷なのかもしれなかった。
エレインは苦笑して頷いた。
「もちろんそれは分かってるわ。彼の横には貴方のような人のほうが似合ってるわ。マリアンヌ」
エレインの言葉に、マリアンヌは不快そうに眉をしかめた。
「やめてよ。そういう意味じゃないわ」
「じゃあ、平民だからってこと?」
「そういうのでもないの」
マリアンヌはしばらく黙り、それから紅茶を一口飲んだ。言葉を選ぶように、慎重に切り出す。
「エリオール様、彼ね、なんと言ったらいいのか・・・少し怖い人だったわ」
「怖い?」
マリアンヌは頷く。
「したたかっていうのか・・・目的のためなら手段を選ばない人なのだと思うの」
マリアンヌの言葉に、エレインは戸惑いを隠せなかった。
エレインの知っているエリオールと、随分違う。
エレインの知るエリオールは、綺麗で儚い花のような人だった。母親のために自分を殺し、伯爵に我が身を差し出す。ルイスが惚れてしまうのも無理はないと思わせるような・・・
言葉をなくすエレインに、マリアンヌは低い声で続ける。
「皇太子殿下が失脚させられそうになった事件があったでしょ?あの時、それを解決したのが彼だといわれてるの」
その事件には覚えがあった。第二皇子派が謀り、第一皇子である皇太子殿下を陥れようとした。それを皇太子殿下が打ち破ったというもの。本来ならば罰されるはずだった第二皇子に責はないとされたけれど、立場は随分悪くなったと聞く。
「その時はもちろん、殿下は彼に感謝したし、褒賞も与えたと聞くわ。でも、彼はその後殿下の側近を外された」
「どうして?」
「皇太子殿下はね、とても清廉潔白な人なのよ。ご自分もそうだけど、側近にもそれを求めるの。実際に何があったのかは、私も知らないわ。でも、彼のやり方は殿下のお気に召さなかったのよ」
エレインが黙り込んでしまったのを見て、マリアンヌは慌てたように付け加えた。
「でも、したたかな人が必ずしも悪い人ってわけじゃないわ」
「ええ・・・」
「グランデュール公爵様が失脚なさった時、公爵領は親戚達の手によってあっという間に分解されたわ。でも、どうやら資産の一部はあらかじめ逃がしてあったようなの」
「逃がす?」
「変えられていたのよ。公爵家に、それもエリオール様に忠実な臣下の名義に」
マリアンヌはふぅとため息をつき、小さく切ったケーキを上品に口に運ぶ。
「だから、確かにエリオール小公爵様は平民になられたけど、そこらの貴族よりは余程贅沢に暮らしているはずよ」
マリアンヌは、エレインが美貌の元小公爵の行く末を心配していると思ってそう言ってくれたのだろう。
しかし、エレインの心は反対に冷めていった。
マリアンヌの言うことが本当なら、エリオールは働く必要などないことになる。伯爵家でヴァイオリンを弾くことも、当主に肌を晒すことも。
そういえばルイスは言っていなかったか。問い詰められた父親は、エリオールから誘われたと言ったのだと。
当然嘘に違いないと決めつけていたけれど、本当にそうなのか?
そもそもなぜ、エリオールは伯爵家にやってきたのだ?
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