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「エレイン!」
声のした方を見ると、公爵令嬢で親友のマリアンヌがにこやかに手を振っていた。
「マリアンヌ!」
早足で歩み寄り、手を取り合う。
目が合えば、自然と笑みが浮かんだ。
マリアンヌは公爵令嬢で、エレインは子爵令嬢。本来なら関わり合うこともないような身分の人だ。
だがなぜかマリアンヌはエレインを気に入って、度々こうして誘い出してくれる。マリアンヌが避暑で訪れるのが、マクラーレン子爵領の隣の領地なのだが、季節外れの大雨で立ち往生していたところを、子爵家に招いてもてなしたことがあった。
それを未だに恩に思ってくれているのかもしれない。
「早く入りましょう。ここのスイーツは絶品なのよ」
誘われるまま、エレインはカフェに足を踏み入れた。一目で、貴族御用達と分かる店だ。エレインには敷居が高いが、流石マリアンヌは慣れたものだった。
「なににする?」
「私は季節のおすすめにするわ」
「いいわね。私もそれにする」
紅茶とケーキがテーブルに揃うと、マリアンヌは早速少し意地悪な表情で切り出した。
「実はね、ここまで私を送ってくださったのはお兄様なの」
「フォウル様が?」
「それなのに、エレインに挨拶する勇気もないのよ。本当、意気地がないったら」
「そんな、フォウル様は次期公爵様でしょう?そんな方にわざわざ来ていただくなんて、恐れ多いわ」
「そういうことじゃないのよ」
あなたも鈍いわよね、とマリアンヌは呆れたように笑う。
「ええ?どういう意味?」
「どういうもこういうもないわ。あなたに婚約者がいなければ良かったのにって話よ」
からかうように言うのに、つい表情が引きつってしまった。すぐ取り繕ったつもりなのに、マリアンヌには微妙な心の動揺を気づかれてしまった。
「婚約者の彼とうまくいってないの?」
「そういうわけじゃ、ないわ」
心配そうに言うマリアンヌに、エレインはそう言って笑ってみせる。
実際のところは、うまくなどいっていない。父などは、これ以上目に余るようなら婚約解消も辞さないという構えだ。
しかしそれを、公爵令嬢であるマリアンヌに相談することは出来なかった。
彼女に相談すれば、事はもっと大きくなっていってしまうような気がする。
そんなことは、エレインは望んでいない。
正面からの探るような視線を感じつつ、エレインはフォークを手に取った。そういえば、と思いついて言う。
「エリオール・グランデュール様のことだけど」
「グランデュール様?彼がどうかしたの?」
「えっと・・・マリアンヌは面識はある?」
「ええ、何度か」
追及は一旦諦めたのか、マリアンヌもフォークを手にする。
「同じ公爵家で同い年だったから。家同士が親しいというわけでもなかったけれど、パーティーで何度かお会いしたわ。それが?」
「その・・・彼って、綺麗な人よね」
ルイスが夢中になるのも、分からないではない。
「そうね、・・・って、エレイン、あなたまさか」
「え?」
マリアンヌは少し吊りぎみの瞳をまん丸に見開いていた。それからぱちぱちと瞬きし、不意にため息をついた。
「そう、そういうこと」
「え?なにを納得してるの?」
「まあ、彼って美形だものね」
今度はエレインが目を見開く番だった。
「ち、違うわよ?」
「いいのよ、隠さなくたって。でも、意外だわ。エレインって案外悪い女なのね。婚約者がいる身で他の男性が気になるなんて」
「そういうんじゃないったら」
否定するも、マリアンヌはニヤニヤ笑いをやめない。完全に誤解されている。マリアンヌは、エレインがエリオールに懸想して、ルイスとの婚約を渋りだしたと思ったのだろう。
一人で納得してしまったマリアンヌだが、急に眉をひそめてエレインの顔を覗き込んできた。
声のした方を見ると、公爵令嬢で親友のマリアンヌがにこやかに手を振っていた。
「マリアンヌ!」
早足で歩み寄り、手を取り合う。
目が合えば、自然と笑みが浮かんだ。
マリアンヌは公爵令嬢で、エレインは子爵令嬢。本来なら関わり合うこともないような身分の人だ。
だがなぜかマリアンヌはエレインを気に入って、度々こうして誘い出してくれる。マリアンヌが避暑で訪れるのが、マクラーレン子爵領の隣の領地なのだが、季節外れの大雨で立ち往生していたところを、子爵家に招いてもてなしたことがあった。
それを未だに恩に思ってくれているのかもしれない。
「早く入りましょう。ここのスイーツは絶品なのよ」
誘われるまま、エレインはカフェに足を踏み入れた。一目で、貴族御用達と分かる店だ。エレインには敷居が高いが、流石マリアンヌは慣れたものだった。
「なににする?」
「私は季節のおすすめにするわ」
「いいわね。私もそれにする」
紅茶とケーキがテーブルに揃うと、マリアンヌは早速少し意地悪な表情で切り出した。
「実はね、ここまで私を送ってくださったのはお兄様なの」
「フォウル様が?」
「それなのに、エレインに挨拶する勇気もないのよ。本当、意気地がないったら」
「そんな、フォウル様は次期公爵様でしょう?そんな方にわざわざ来ていただくなんて、恐れ多いわ」
「そういうことじゃないのよ」
あなたも鈍いわよね、とマリアンヌは呆れたように笑う。
「ええ?どういう意味?」
「どういうもこういうもないわ。あなたに婚約者がいなければ良かったのにって話よ」
からかうように言うのに、つい表情が引きつってしまった。すぐ取り繕ったつもりなのに、マリアンヌには微妙な心の動揺を気づかれてしまった。
「婚約者の彼とうまくいってないの?」
「そういうわけじゃ、ないわ」
心配そうに言うマリアンヌに、エレインはそう言って笑ってみせる。
実際のところは、うまくなどいっていない。父などは、これ以上目に余るようなら婚約解消も辞さないという構えだ。
しかしそれを、公爵令嬢であるマリアンヌに相談することは出来なかった。
彼女に相談すれば、事はもっと大きくなっていってしまうような気がする。
そんなことは、エレインは望んでいない。
正面からの探るような視線を感じつつ、エレインはフォークを手に取った。そういえば、と思いついて言う。
「エリオール・グランデュール様のことだけど」
「グランデュール様?彼がどうかしたの?」
「えっと・・・マリアンヌは面識はある?」
「ええ、何度か」
追及は一旦諦めたのか、マリアンヌもフォークを手にする。
「同じ公爵家で同い年だったから。家同士が親しいというわけでもなかったけれど、パーティーで何度かお会いしたわ。それが?」
「その・・・彼って、綺麗な人よね」
ルイスが夢中になるのも、分からないではない。
「そうね、・・・って、エレイン、あなたまさか」
「え?」
マリアンヌは少し吊りぎみの瞳をまん丸に見開いていた。それからぱちぱちと瞬きし、不意にため息をついた。
「そう、そういうこと」
「え?なにを納得してるの?」
「まあ、彼って美形だものね」
今度はエレインが目を見開く番だった。
「ち、違うわよ?」
「いいのよ、隠さなくたって。でも、意外だわ。エレインって案外悪い女なのね。婚約者がいる身で他の男性が気になるなんて」
「そういうんじゃないったら」
否定するも、マリアンヌはニヤニヤ笑いをやめない。完全に誤解されている。マリアンヌは、エレインがエリオールに懸想して、ルイスとの婚約を渋りだしたと思ったのだろう。
一人で納得してしまったマリアンヌだが、急に眉をひそめてエレインの顔を覗き込んできた。
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