自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏

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世界征服編

祈り

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 アニキ⋯⋯頼む!

 「真壁の兄貴⋯⋯!」

 武部が負傷者を治している中、俺と数人の軽傷者たちはアニキの戦いを最後まで見ていた。

 最初は武器持ち相手に善戦していたが、やはり相手はプロそのもの。

 あのアニキが防戦一方。

 「くっ、真壁の兄貴⋯⋯俺達がもっと万全だったら!」
 「言うなよ太史。兄貴は漢だ。
 もしもの話をするな」

 隣で言い合ってる舎弟たちの言うとおりだ。
 俺達の掟はサシであれば邪魔をしない。

 ──漢と漢の戦いだから。

 だが、これでは。

 ヤツの動きは間違いない。
 身のこなし、戦いの筋力のようなものが今までの相手とは段違いだ。

 こうすればいいという決定的な答えを持ち合わせていない。

 イタチごっこだ。
 アニキに持っているものは相手も持っていて、逆にアニキにない物を相手は持っている。

 「駄目だ⋯⋯」

 数人の連中が弱音をボソッと吐いているのを聞いた俺は、無意識に俯いてる髪を掴んで上げさせる。

 「例え負けても、文句を言うな。
 俺達のアニキだ──黙って最後まで見届けるのも俺達の仕事であり、責務だ」

 「⋯⋯責務ってなんすか、石田の兄貴」

 それは調べろよ馬鹿が。
 
 「黙れ、馬鹿太史」

 いや俺も人の事は言えないか。
 小卒だし。

 「hehe!!!」

 バチィッ、と突然シルヴァの動きが変わる。
 伊崎さんと戦った時のアイツみたいだ。

 薄々気付いていたが、伊崎さんも⋯⋯多分普通ではないんだろうな。

 だからさ、エロガキ伊崎さん──頼むよ。
 アニキがボコボコだ。

 俺達の頭がピンチなんだよ。

 ほら、見てくれよ。
 俺も太ももが貫通して動かないんだよ。

 頼むよ。伊崎さん。

 アンタなら何とかしてくれるだろう?
 俺を助けてくれたあの時みたいに。

 「EASY!!!!!!」

 見てくれよ。伊崎さん。
 アニキを殴って嬉しそうに笑ってるんだよ。

 アンタ。
 なんだかんだ⋯⋯俺達を好いてくれてたろ?

 なんでもするよ。
 
 「ぐっ!!」

 頼むよ。

 「ぃッッ⋯⋯ぅァァァ!!」

 来てくれ。頼むよ。

 祈るからさ。
 神でも、悪魔でも良い。

 契約でも何でもするよ。

 「石田先輩!?駄目です!!」

 動けよ、俺の身体。
 太ももが痙攣してる。

 知らねぇよ。動けって!!

 「ヴヴッ⋯⋯⋯⋯なんだ」

 「え?」

 ここで貧血かよ。
 視界がぐらつく。

 「真壁⋯⋯ッ銀譲⋯⋯はっ⋯⋯ハァ、ハァ」

 脳裏によぎったのは、初めて会ったあの日。


 "ぐわっ!"

 ーーガキが、こんなことしてどうしたんだ

 "うるさい!
 俺達はこうでもしないと生きていけないんだ!"

 ーーはぁ。お前、名前は?

 "え?い、石田!"

 ーー名前は

 "龍司!!石田龍司!!
 これから誰よりも強くなる男だ!"

 ーー⋯⋯フッ、まだ小学生だろう?
 とりあえずそこでパスタでも食え

 
 「俺⋯⋯達の⋯⋯救世主で⋯⋯王⋯⋯なんだよっ⋯⋯」

 「石田の兄貴!
 やめてください!本当に死にますよ!」

 ポタポタ血が垂れているのは知ってる。
 だが──

 
 ーー石田。
 俺はな、お前らとこうする為に強く生まれてきたのかもしれない

 
 「ッグッ⋯⋯ァ、うるせぇ。
 俺達は最強なんだよ。

 無敗の夜叉なんだよ⋯⋯アニキが勝つに決まってんだよ」

 その時、目の前のアニキから⋯⋯白い炎が湧いているように見えた。

 全員がその光景に唖然とした。

 「な、なんだよ⋯⋯アレ」
 「兄貴が⋯⋯突然強くなったぞー!!」

 アニキ⋯⋯。

 「アニキィィィ!!!!」

 直後──目の前が煙が上がって見えなくなった。

 なんだ?何があったんだ!?

 「お前ら!立ち上がれ!アニキを⋯⋯」

 あぁっ、まずい。足がビクともしない。

 「先輩!何してんすか!」

 「うるせぇ」

 無理やり肩を組まされ、預ける他ない。

 「あなたにとって大事なのはわかります。
 しかし生きてこそですよ」

 「⋯⋯アニキが、どうなった?」

 「見えません。
 でも、生きてたとしても⋯⋯重傷です。
 元に戻る事は──石田先輩?」

 音が聞こえる。

 コツ、コツ、コツ。

 硬い音。
 こんな戦場みたいな場所に向かって、誰かが歩いてきている。

 「おい、軽傷者!外から誰かがくる!
 構えろ!」

 「え!?誰もいないっすよ!」

 「いいから見ろ!」

 「⋯⋯兄貴が!」

 っ、舎弟の言葉が聞こえ、すぐさま向くと。

 「アニキ!!!」

 腕重心で立ってるのが精一杯のアニキ。
 良かった。

 「⋯⋯勝った」

 シルヴァめ。
 うつ伏せで倒れてやがる。

 アニキもボロボロだが、アイツは倒れてる。
 だが。

 「やっぱりアニキも普通じゃなかったのか」

 一面あった壁が、人間の力を超えた威力でこじ開けた穴が幾つもある。

 これをただの怪力というのは無理がある。
 だが関係ない。

 「俺達は、まだまだ轟く⋯⋯っ!?」

 た、立ち上がろうと?
 しかも、何か言いながら、飲み干してる。

 「MAKABE、○uck」

 くそっ。動け。

 「お前ら早くアニキの所へ!!」

 まずい。
 あの様子⋯⋯突然回復したような挙動を見せてる。

 あれじゃ⋯⋯。

 突然硬い足音が近くに現れ。

 ──ガチャリ。
 近くの扉が音を立てる。

 「う、うわぁ!!」

 「っ?」

 全員の視線が集まる。
 そこには腰が抜けて声を上げるしかなかった舎弟と。

 「っ、あ」

 俺は絶句した。
 人生で初めて。

 「ねぇ胸ばっかり触ってちゃいやー」

 「あァ? 女はここが魅力的なんだろ?
 良い男の隣には、美人のお前みたいな女がいねぇと。

 こうやって触れるから魅力が上がるんだろう?」

 ⋯⋯は?
 な、なんで。

 「おぉ」

 口を尖らせ、俺を凝視しながら笑い現れたのは──草薙。

 「な、何よここ!」

 「ん?んだよ⋯⋯イベントだよイベント」

 「こ、こんな危ない所に連れてこないでよ!」

 スタスタ女の方は走り去っていき、悲しそうに揉んだ感触を確かめるようにグーパーしている。

 「⋯⋯お。
 タイミングは良かったみたいだな」

 最悪だ。
 なんでこのタイミングで⋯⋯コイツが!

 「おい草薙!今は⋯⋯」

 くっ!無視して俺達の横を。
 今にも倒れそうなアニキの方へと優雅に向かいやがった!

 「⋯⋯お前ら!!」

 「無理っす!
 俺達じゃアレを止めれないっす!!」

 ちくしょう⋯⋯!!
 舌を噛みきって死にたい!

 だが、次の瞬間──俺の予想した最悪のシナリオとは打って変わった。

 「え」

 奴は倒れかけのアニキを手で抱き、受け止めた。

 「真壁銀譲⋯⋯総合、一位」

 な、なんの事だ?

 「おい、そこのイケ好かねぇイケメン君」

 「⋯⋯なんだよ、草薙」

 「ふっ、取って食ったりしねぇよ。
 ほら、お前らのリーダーだ。
 頭を大切にしろよー?」

 「アニキ⋯⋯!」

 拳を握り締める。
 皮膚が爛れ、骨が見えてる。

 全身傷だらけで、生きているのが不思議なくらいだ。

 「お疲れ様でした。アニキ」

 前が見えない。
 伊崎さん、助けてくれ。

 泣いてる場合じゃないのに。

 「くっ⋯⋯うぅっ!!」

 「そうそう」

 「なんだ」

 何を要求されるわかったものではない。
 渋々殺意を込めながら、上を見上げる。

 「石田、そうだ。
 お前の名前は石田だったな?」

 「だからなんだ」

 「なんだよそんな面しやがってー。
 お前んとこのリーダーが大金はたいて俺をここまで呼んだんだぜ?

 ⋯⋯感謝しろよな」

 てことは、伊崎さんが?
 コイツを呼んだのか?

 「本当か?」

 「ん?あぁ。それは間違いない。
 俺の役職を賭けてもいい。

 まぁ。
 女と三回戦もしてたから身体が疲れてるがなー。

 いやぁまじで海外女は最高だったわ。
 積極的で、金さえ払えばサービス良くってさぁ?」
 
 クソッ。よりにもよって。

 「とりあえず、アイツだろ?」

 親指で背後で震えながらも動こうとするシルヴァを指す草薙。

 「ああ。なら働いてくれ」

 死んでも構わん。
 アニキが生きてるから。

 「ふんっ、舐めやがってクソガキが」

 嗤われ、そうして黒スーツに身を包み、草薙は両手をポケットに突っ込んだまま、背を向けてシルヴァに向かって歩いていく。

 「ッたく、楽して大金稼げると思ったのによー」

 クソッ。
 正直、アイツが味方だとこんなに頼もしいなんて思うことが、どれほど屈辱か。

 「⋯⋯くそっ!!!」
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